組体操 高さ7m、1人の生徒に200kg超の負荷 10段・11段…それでも巨大化▽組体操リスク(3)
巨大化する組体操
運動会の季節がやってきた。感動のクライマックスは、組体操である。
今日の組体操を見て、保護者世代は、自分たちの頃とちがったものを感じるのではないだろうか。組体操はいま、見世物としての性格を強め、巨大化・高度化、さらには低年齢化が進んでいる。とりわけ見た者を驚かせるのは、その大きさ・高さであろう。
よく知られる兵庫県伊丹市立天王寺川中学校の10段ピラミッドは、高さ7メートルにも及ぶ。熊本県荒尾市立荒尾海陽中学校でも10段ピラミッド成功の記録があり、こちらも高さは7メートルを超える。高校でも9段、10段を成功させたという情報は多くある。
さらに先述の伊丹市立天王寺川中学校では、来る9月20日(土)の体育大会で、前人未到の11段が目指される(毎日放送「VOICE」6月12日放送時点の情報)。
土台に過重な負担がかかる――「腰が痛い」「膝に砂が刺さる」
組体操の危険性については、これまで私は2回にわたって問題を訴えてきた((1)【緊急提言】組体操は、やめたほうがよい。子どものためにも、そして先生のためにも、(2)組体操が「危険」な理由―大人でも許されない高所の無防備作業)。
組体操の巨大化は、高所にのぼる生徒を危険にさらす。じつはそれと同時に注目しなければならないのが、土台の生徒にかかる負担である。ピラミッドの段が高くなるということはすなわち、土台の上にはより多くの生徒が乗ることになる。ツイッターからは「腰が痛い」「中心部分は叫んでる」「膝に砂が刺さる」など、土台となった生徒の悲鳴が聞こえてくる。
はたして、どれほどの負荷が土台にかかっているのか。「組体操」をタイトルに据える書籍や資料をいくつかみても、そこに巨大ピラミッドの組み方は示されているが、生徒にかかる負荷量は記載されていない。記載するに値しないようなものなのだろうか。それにしても、「10段」「11段」である。負荷量はけっして小さくないはずである。
1人の生徒に4人分200kg超の負荷
そこで、組体操の基本形を利用して、個々の生徒にかかる重量を算出した(*注1)。今日よく実践される基本形は、横からみたときの断面は、7段を例にすると図1のとおりである。
また、正面から背面にかけては、人数を減らすというかたちがよくとられる。
図2は、10段と11段の人間ピラミッドの基本形について、垂直面からみた断面と、土台(1段目)にかかる負荷量を示したものである(*注2)。10段(計151人)の場合、土台の生徒のなかでもっとも負担が大きいのは、背面から2列目の中央部にいる生徒であり、3.9人分の負荷がかかる。中学2年生男子(全国の平均体重48.8kg)で190kg、中学3年生男子(平均54.0kg)で211kgの重量になる。これが高校生にもなれば、2年生男子(平均61.0kg)で238kg、3年生男子(平均62.8kg)で245kgとなる。
11段(計196人)の場合も、10段のときと同様に、背面から2列目中央部の生徒に最大の負荷がかかり、その負荷は4.2人分にも達する。中学2年生男子で205kg、中学3年生男子で227kg、高校2年生男子で256kg、高校3年生男子で264kgの重量である。これは,歪みのない基本形にしたがって算出したものであり、ピラミッドが歪みをもった瞬間には、最大負荷はもっと大きい値になる。
想像できるであろうか。1人の生徒が四つん這いになり、おおよそ4人(200kg)がその上に乗っている姿を。そんな無謀なことが、「教育」という名の下、中学校や高校で取り入れられているのである。土台の生徒は、毎日の練習で四つん這いになり、この過酷な状況を耐え忍ぶ。これのどこが「教育」というのだろうか。かりに負傷者がゼロで済んだとしても、許されるべきことではない。
小学校でも1人あたり最大120kg超
組体操の指導書には、「小学校では7段くらいまで可能」(戸田克『徹底解説 組体操』)と書かれている。7段でも最大の負荷量は2.4人分、小学6年生男子(平均38.3kg)で計算すると、92kg、女子(平均39.0kg)で94kgである。1人の小学生が、同級生2.4人を背中に乗せている。これだけでも十分に異常な事態である。
私が知る限り、小学校では9段を成功させた事例がある。9段の場合、最大負荷は3.1人分、6年生男子で119kg、女子で121kgである。
運動会や体育祭を盛り上げるために、これほどまでに無謀なことがおこなわれている。それでもなお、先生たち、保護者たちは、巨大なピラミッドを求めるのだろうか。「教育」とは、いったい何なのだろうか。
- 注1 各自が腕に3、足に7の力をかけるものとして計算した。
- 注2 天王寺川中学校の事例では,総勢137人で10段をつくりあげたと報じられている。下から数えて8段目と9段目をそれぞれ2人ずつ配置するという変則的なかたちをとることで全体としての人数も基本形と異なるものになっていると考えられる。