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【緊急提言】組体操は、やめたほうがよい。子どものためにも、そして先生のためにも。▽組体操リスク(1)

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授
根本正雄編『組体操指導のすべて』明治図書,p. 16 より引用

子どものためにも、そして先生のためにも

これからの季節、全国各地の学校で運動会や体育祭が開催される。そこでの花形種目として長く親しまれてきたのが、「組体操」である。その組体操で、つい先日も大きな事故が起きた。5月9日に熊本県の菊陽町立菊陽中にて、3年生男子が救急搬送され、全治1か月程度の腰椎骨折と診断されたのである。体育祭に向けて、140人でつくる「10段ピラミッド」の練習中に、ピラミッドが崩れて、いちばん下にいたその生徒が被害に遭ったという(『読売新聞』熊本版、5月13日朝刊)。

組体操の事故が後を絶たない。そこで今回この運動会シーズンに、一つの緊急提言をしたい――組体操は、やめたほうがよい。子どものためにも、そして先生のためにも。

なぜいま組体操事故をとりあげるのかといえば、それは事故が多発し、関連して民事訴訟が起こりうるからである。多発する事故を減らすことができれば、それは子どもにとって有益である。さらにそれは訴訟を回避することにつながり、教師にとっても意義がある。

組体操事故の実態――障害事故

さて今回の記事では、まずは事故の多さに注目したい(次回以降の記事では、教師側の立場から訴訟関連の問題にも踏み込んでいきたい。)

2012年度一年間の、学校(小学校、中学校、高校)における組体操の重大事故情報を調べてみると、後遺症が残ったケースが小学校で3件起きている。ここに事例を紹介したい。

[小6女、体育、外貌・露出部分の醜状障害]

体育の時間中、運動会での組体操の練習をしていた。10人タワーを行っていた時、タワー中段あたりがぐらつき一番上にいた本児童は、バランスを崩し落ちてしまった。その時、左腕を強く打ち骨折してしまった。

[小6男、体育、聴力障害]

運動会の組体操でピラミッドの練習をしていたところ、下の2段がバランスを崩してつぶれたため、下から3段目にいた本児童も地面に前のめりに落ちた。右ひじ、右足を強打し痛みがあったが、耳は特に痛みを感じなかった。その後、聴力障害が判明した。

[小5女、体育、外貌・露出部分の醜状障害]

運動会の練習で組体操をしていた。本児童は三段タワーの土台で膝をつき四つん這いになっていたところ、上段の児童がバランスを崩し本児童の左肘部に落ちてきて痛めた。

(日本スポーツ振興センター『学校の管理下の災害〔平成25年版〕』p. 31)

上記の3例は、「負傷」の事故ではなく、「障害」の事故である。すなわち完治しなかったということである。いずれも,タワーやピラミッドがぐらついたり崩れるというなかで起きた事故である。

組体操事故の実態――各種目のなかでワースト3位,増加率ワースト1位

障害といった重大事案の他にも、負傷事故の件数も明らかになっている。これまで、組体操の危険性が指摘されることはしばしばあったものの、それが数字とともに語られることはなかっただけに、注目すべき数字である。

小学校の体育的活動(体育の授業、学校行事、特別活動 ※ここでは部活動は含まない)における組体操の負傷事故件数を調べてみた。以下のデータは、筆者が、日本スポーツ振興センター『学校の管理下の災害〔平成25年版〕』を参照し、独自に分析したものである。統計資料が必ずしも細かいものではないため、分析には制約がある。

単純に事故の件数の大小を比べてみると,2012年度、組体操中の事故は、跳箱運動とバスケットボールに続いて3番目に多い。なお,ここで気をつけなければならないのは、小学校の学習指導要領において、跳箱運動は1~6年で扱うべき種目、バスケットボールは5~6年(※3・4年でもバスケットボールの要素を含んだ「ゴール型ゲーム」がおこなわれる)で扱うべき種目となっているが、組体操はそもそも学習指導要領の本文ならびに解説には、いっさい記載がない。体育でおこなうものとしては位置づけられていないうえに、教育委員会によっては禁止しているところさえある(この点は、訴訟回避の事項と関係してくるので、次回以降の記事で詳論したい)。確認したいのは、少なくとも跳箱運動やバスケットボールに比べれば、組体操は小学校ではおこなわれていないと推測できることであり、それにもかかわらず、事故件数の多さが目立つということである。

2012年度 小学校における体育的活動(部活動除く)時の負傷事故件数
2012年度 小学校における体育的活動(部活動除く)時の負傷事故件数

さらに注目すべきことがある。それは、(マイナーな種目を省いて事故件数が年間1,000件を超える種目について、)2011年度から2012年度にかけての増加率である。増加した種目(増加率が1より大きい種目)は、組体操、縄跳び、鉄棒運動、マット運動、持久走・長距離走、ハードル走、短距離走、跳箱運動であり、組体操はそのなかでも増加率ワースト1である。

2011-2012年度における負傷事故の増加率
2011-2012年度における負傷事故の増加率

このように事故の実態をみるだけでも、組体操のなかでもとくに危険性の高い技の実施には、慎重な姿勢が要請されるべきであることは、理解いただけるであろう。しかしながら、まだまだ論じなければならないことがある。それは一つに、先述のとおり、学習指導要領にそもそも記載されていない種目を実施して事故が起きたときの問題がある。またその他にも、そもそも組体操は、そこまでのリスクを冒して、いったい何を目指しているのかということも考えなければならない。

■■組体操リスクに関するエントリ(内田良「リスク・リポート」)■■

▽組体操リスク(1) 【緊急提言】組体操は、やめたほうがよい。子どものためにも,そして先生のためにも。

▽組体操リスク(2) 組体操が「危険」な理由―大人でも許されない高所の無防備作業

▽組体操リスク(3) 組体操 高さ7m、1人の生徒に200kg超の負荷 10段・11段…それでも巨大化

▽組体操リスク(4) 四人同時骨折 それでも続く大ピラミッド 巨大化ストップの決断を

▽組体操リスク(5) 組体操、正反対の「安全」指導 「安全な方法」がじつは「危険な方法」?! 

名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

学校リスク(校則、スポーツ傷害、組み体操事故、体罰、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

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