組体操、正反対の「安全」指導 「安全な方法」がじつは「危険な方法」?! ▽組体操リスク(5)
正反対の「安全」指導
組体操のリスクを懸念する声が、日に日に高まっている。全国紙(新聞)や全国ネット(テレビ)での報道が、連日続いている。昨日はついに、The Japan Timesより、英字で情報が発信された。
組体操のリスクが明らかになるなかで、具体的な安全指導にも関心が集まっている。しかしながら、組体操の「安全」の視点から各種報道や資料に目をやると、そこで示されている指導の内容が、まるで逆のことを主張しているのである。それぞれが「安全は最優先」と謳いながらも、中身はまったく逆のことが書かれている。はたしてそれで子どもの安全は守られるのか。運動会シーズンのただ中、教師・保護者ともども、自分たちが思う組体操の「安全」について、早急に見直しが必要である。
腕を広げて、安定性を確保するか?
9月22日(月)、NHKの「ニュースウォッチ9」では、組体操の安全な組み方についてその具体的な方法が、日本体育大学体育学部の三宅良輔教授により示された。三宅氏は、組体操(組立体操)指導の専門家であり、氏の研究室のウェブサイトには人数や難易度に応じたさまざまな組み方が案内されている。(組体操は「単なる記録の更新や勝敗に一喜一憂するスポーツ的領域ではなく」と氏が強調するように、そのウェブサイトは巨大化を煽るものではない。)
氏は、NHKの取材において「過去の体操、去年、今年という感覚または経験だけで作っていることが問題」と指摘し、4段ピラミッド(立体ではない)作成のポイントを図のように示した。各学生は腕を肩幅よりも広く開き、安定したかたちをとっていることがわかる。
腕を広げず、骨折のリスクを回避するか?
他方で、関西地区の体育教師らでつくる「関西体育授業研究会」は、それとはまったく逆の方法こそが,事故を防ぐと主張している。同研究会は、とくに組体操の指導と普及に力を入れており、毎年開かれる組体操実技研修会には多くの教師が参加している(2012年度は600人規模)。
その研究通信(『Improve』No. 59、 2011)によると、安全面での配慮として「支える腕は隣同士でクロスさせない」と、図解で強調されている。細かい説明までは記載されていないが、おそらく隣どうしで腕がクロスしていると、上から生徒が崩れてきたときにその二人の腕の上に生徒が乗ってしまい、二人の腕が同時に骨折してしまうという指摘であろう。なるほど、同研究会の組み方は、図をみてみると、みな自分の肩幅以上には腕を広げていないことがわかる。
三宅良輔教授も関西体育授業研究会も、いずれも安全性を追求し、組み方を考案している。しかしながら、その結論はまったくの逆方向にある。このようななかで、はたして組体操の「万全な安全対策」というものが成り立ちうるのであろうか。
ピラミッド完成後の「崩し」
このところ立て続けに出版されている「組体操」をテーマとした指導書(書籍や資料)を手にとると、「ピラミッドを完成させた後、解体のときも油断をしてはらない」といった注意書きを目にする。これはいずれの指導書にも共通するものの、よく読んでみると、そこに示されている解体の仕方は大きく異なっている。
大半の指導書では、解体時には一段ずつゆっくりと降りていくよう指示がされている。たとえば図にあるとおり,「一番上の一人が後ろへととび降り、しゃがむ。下の二段目の二人はそのまま」というかたちである(根本正雄編『組体操』(明治図書)p. 64)。
しかし、先の関西体育授業研究会が今年の6月に刊行したばかりの指導書(『「組体操」絶対成功の指導BOOK』(明治図書)p. 60)では、「全員が一斉に腕と脚を投げ出して、崩す」ことが推奨されている。一斉に崩すことにどのような安全上の目的があるのかは不明であるものの、少なくとも、ゆうくりと降りていくという解体方法とは対照的である。
「安全な技」だと思っていたものが、じつは「危険な技」
すでによく知られている「柔道事故」が社会問題化したときに、じつはよく似たことが起きていた。
柔道界では、「大外刈り」(相手と向き合って、相手の重心のかかっている足を外側から刈りながら相手を倒す技)という技は長らく、初心者向けの安全な技として教えられてきた。なぜなら、投げられる側は自分の片足が畳についているため、自分で体勢や衝撃をコントロールできるというのが理由であった。
しかし、柔道事故の検証から明らかになったのは、大外刈りによって重大事故が起きているということであった。大外刈りでは、投げられる側が後ろ側に倒れ込むため、後頭部を直接に強打してしまうのである。
「安全な技」だと推奨されていたものが、じつは「危険な技」であった。いま組体操はまさにそのような状況に置かれている。まるで相反する方法が、安全第一であるはずの指導において実践されているのである。
安全をめぐって相反する指導方法が流通しているということは、それはどちらか一方が、きわめて危険な指導方法をとっている可能性が高いということである。いま早急に求められるのは、専門家や実践者が個々別々に安全を語ることではなく、個々別々の情報が皆で共有され検証に付されることである。