コンビニは「無料のごみ箱」「無料トイレ」「無料駐車場」年468万円食品を捨てるコンビニの嘆き
2020年9月2日、公正取引委員会は、「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査について」と題し、全国の大手コンビニエンスストア12,093店から得た調査結果を発表した(1)。報告書によれば、大手コンビニは、1店舗あたり年間468万円(中央値)の食品を捨てていることがわかった。
国税庁によれば、民間給与所得者の平均年収は443万円(令和3年度)(2)。ということは、大手コンビニは、1店舗あたり、毎年、民間給与所得者の平均年収以上に相当する食品を捨てているということになる。
2022年12月31日、あるコンビニオーナーがツイートした内容は、「廃棄金額年間で売価480万円」「これでも時間帯により棚スカスカ」「以前よりかなり廃棄減らしてこれ」というものだった。商品棚がスカスカでも、年間480万円分も捨てているという。棚がパンパンに詰まったコンビニの裏側で、どれほど食品の無駄が出ているのか、うかがい知ることができる。実際、筆者の取材では、年間1,000万円以上捨てるコンビニも複数あり、取材地域と別のオーナーにも話を聞いたところ、年間1,000万円以上捨てるオーナーは確実に存在するとのことだった。
コンビニは「無料のごみ箱」「無料トイレ」「無料駐車場」
2023年1月4日、『「迷惑行為というより犯罪レベル」コンビニで非常識なごみ投棄、現役店員が怒りの告発』という記事がYahoo!ニュースに掲載された(3)。「ENCOUNT」に掲載された記事(4)が転載されたものだ。
筆者もこれに対して次のようにコメントした(5)。
コンビニが「無料のごみ箱」「無料トイレ」「無料駐車場」になってしまっている。これは、最大手コンビニオーナーと話していたとき、伺った言葉だ。この言葉に対し、複数のコンビニオーナーが「拡散希望」「多くの人に知ってほしい」「リツイートをお願いします」とSNSで書いている。
筆者がコンビニを取材し始めたのは2017年。もともと取材対象はスーパーマーケットだったが、企画を一緒に立てていたYahoo!ニュース個人編集部から「せっかくだからコンビニも取材しては」と助言を受け、取材するようになった(6)。当時、「食品ロス」をテーマにコンビニ座談会を開いた(7)。食品廃棄の話だけでなく、「トイレ」や「ごみ」問題も同時に語られたことを印象深く記憶している。
「便利さ」の追求が「身勝手さ」に
何でも無料で使えることが、そのサービスを提供している人(コンビニ加盟店)に対する敬意の無さにつながってしまうのかもしれない。
ある方は、筆者のツイートに対し、引用で
と書いている。
ある大手コンビニ加盟店オーナーは、自分の店のトイレを使う人がどれくらい買い物するかを調査した。なんと、全体の来客数のうち、数%台しか買い物しなかったそうで、95%以上の人は何も買わずにトイレだけを使って店を出ていったとのこと。
こうなると、消費者のマナーや善意、倫理観にまかせていても、コンビニで買い物せずに、無料でごみ箱でもトイレでも駐車場でも、何でも使って行く事態はおさまらないだろう。
食品廃棄処理もごみもトイレも加盟店丸投げでは
大手コンビニでの食品ロスの一因となっているのが、本部から強く指示される「過剰仕入れ」だ。
前述、公正取引委員会の報告書(8)によると、本部から強く推奨され、意に反して仕入れている商品が「ある」と答えた加盟店が51.1%と、過半数の結果となっている。大手コンビニ本部の行為は、独占禁止法の第2条第9項第5号(優越的地位の濫用)で禁じている「優越的地位の濫用」にあたる。
報告書のp84には次の記述もあった。
本部が「廃棄してください」と指導していれば、食品の廃棄は減るわけがないだろう。日に1万5,000円捨てるといえば、1ヶ月に45万円、一年で540万円捨てることになる。
取材を始めた2017年当時から比べれば、大手コンビニの食品ロス対策はずいぶん進んだように見える。弁当の賞味期限の延長、クリスマスケーキの予約制販売、販売期限の過ぎたデザートの安価販売、客の家庭で余っている食品を店頭で集めるフードドライブ、手前から商品を取るよう勧める「てまえどり」のPOPなど。
ここでもう一歩進めて、大手コンビニ本部は、「食べ物を捨てない」ことを、「はい、うちの会社やってますよ」的なパフォーマンスではなく、心から減らそうと思って進めてほしい(9)。本気で減らそうと思っていれば、コンビニ一店舗だけで年間1,000万円捨てる状況にはならないはずだ。
そして、客の側は、なぜコンビニの食料品価格が高いか、考えてほしい。そこには廃棄コストも含まれている。どんなサービスも、コストと労力がかかっていることを肝に銘じてほしい。食品の廃棄も、ごみ箱の処理も、トイレの清掃も、駐車場の管理も。「無料」ではできない。自分も含めて、誰かがそのコストを負担しているのだ。
コロナ禍に加え、ロシアによるウクライナ軍事侵攻により、食料価格は値上がり、必要な人が買えない事態が続いている。食品ロス問題は、食料安全保障と気候変動の観点から、世界的にますます重要視されており、2022年に開催されたCOP27やCOP15などの国際会議でも議題にのぼっている。
コンビニの食品ロス問題や、コンビニで買い物せずに「無料」で使われるごみ箱・トイレ・駐車場の問題。大切なのは、謙虚さとともに、相手に敬意を持つことだと思う。食べものに対して、そして、加盟店オーナーとそこで働く人たちに対して。
参考資料
1)「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査について」(公正取引委員会、2020年9月2日)
3)「迷惑行為というより犯罪レベル」 コンビニで非常識なごみ投棄、現役店員が怒りの告発(ENCOUNT、Yahoo!ニュース、2023/1/4)
4)「迷惑行為というより犯罪レベル」 コンビニで非常識なごみ投棄、現役店員が怒りの告発(ENCOUNT、2023/1/4)
6)「こんなに捨てています・・」コンビニオーナーたちの苦悩(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2017/7/25)
7)販売期限切れの弁当はどうなる?コンビニオーナー座談会でわかった「寄付は絶対しない」の理由とは(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2017/10/13)
8)コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査報告書(公正取引委員会、2020/9)
9)年468万円分食品を捨てるコンビニ 公取に改善要請を受けた本部はパフォーマンスでない食品ロス削減を(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2020/9/3)