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年468万円分食品を捨てるコンビニ 公取に改善要請を受けた本部はパフォーマンスでない食品ロス削減を

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
販売期限切れで撤去され廃棄されるコンビニの食料品(オーナー提供、筆者白黒加工)

2020年9月2日、公正取引委員会が、コンビニ本部と加盟店との取引等に関する実態調査報告書を公表した。加盟店の意に反して本部から仕入れを強要される、ほとんど休みがとれないなどの調査結果がまとめてある。公正取引委員会は、独占禁止法が禁じる「優越的地位の濫用」であるとし、大手コンビニ8社に対し、改善の要請を出した。

年468万円の食品を捨てるコンビニ

報告書は全部で237ページに及ぶ。そのうち、84ページには、廃棄ロス、すなわち捨てる食べ物について、年間廃棄ロス額は468万円(中央値)である、と書かれている。

廃棄ロス額(2020年9月2日発表 公正取引委員会調査報告書より)
廃棄ロス額(2020年9月2日発表 公正取引委員会調査報告書より)

中央値で468万円なので、当然、これを上回る額を捨てているケースもある。最大手コンビニの取材では、月平均で60万円程度、多い店だと月に100万円を超える金額分の食品を捨てている。国税庁の「民間給与実態統計調査(平成30年分)」によれば、給与所得者の平均給与は441万円。実に給与所得者の平均給与を上回る金額の、まだ食べられる食品を捨てているということになる。この廃棄金額は企業や店舗によって違い、月による凹凸があるので一概には言えないが、一般的に組織に雇用されている職員の年収分の食料を捨てているというのはすさまじい金額である。

84ページには次のような注釈もある。

廃棄ロスについては,今回のアンケートでも「正確な発注をすれば廃棄ロスはほぼ無いし,店舗運営をマニュアル どおりに行っていれば棚卸ロスは無いと言われたが,実際に店舗運営を始めると,本部からは廃棄の出ない発注はそもそも商品が足りていない、日に1万5000円ぐらいの廃棄は廃棄予算として考えてくださいと指導を受けた。棚卸ロスも平均3~4万円は出るのが普通ですと言われた」等の報告が寄せられている(図表第10-13の具体例参照)。

出典:報告書p84

本部から強要され意に反して仕入れている加盟店が51.1%

この食品ロスの一因となっているのが、本部から強く指示される「過剰仕入れ」だ。2017年からの取材で加盟店オーナーから伺っていた通り、「本部から強く推奨され、意に反して仕入れている商品が「ある」と答えた加盟店が51.1%と、過半数の結果となった。

本部から強く推奨され、意に反して仕入れている商品の有無(報告書p129より)
本部から強く推奨され、意に反して仕入れている商品の有無(報告書p129より)

報告書p128にある通り、本部の行為は、独占禁止法の第2条第9項第5号(優越的地位の濫用)に該当する。つまり、独占禁止法が禁じている「優越的地位の濫用」にあたる。

「本部から強く推奨され、意に反して仕入れている商品があるか」に対し、「ある」と答えた加盟店が51.1%(公正取引委員会の調査結果より)
「本部から強く推奨され、意に反して仕入れている商品があるか」に対し、「ある」と答えた加盟店が51.1%(公正取引委員会の調査結果より)

おでんなどは、2019年の場合、8月6日から始めている企業があった。2019年8月の平均最高気温は30度を超えている。日本気象協会のデータによれば、おでんは、最高気温が29度以下でないと、売れない。売れないものを無理に仕入れ強要されれば、当然、売れ残り、日持ちしないものは廃棄せざるを得ないだろう。

参考:

コンビニの夏おでんは必要?あるテレビ番組の視聴者投票では84.2%が「不要」

必要以上の数量を仕入れさせられる現状も明らかとなった。

必要以上の数量を仕入れさせられる具体例(報告書より)
必要以上の数量を仕入れさせられる具体例(報告書より)

新商品やキャンペーン商品は全店発注も

報告書p131には、コンビニ本部から強く推奨され,意に反して仕入れている商品の事例が挙げられている。おでん、うなぎ、クリスマスケーキ、恵方巻などの季節商品はもちろん、通年売られる食品も多い。

仕入れを強要される商品の例(報告書p131より)
仕入れを強要される商品の例(報告書p131より)
コンビニで廃棄される食品(オーナー提供、筆者が白黒加工)
コンビニで廃棄される食品(オーナー提供、筆者が白黒加工)

食品ロスを報じることに対しても圧力や嫌がらせ

こうして、筆者が食品ロスのことを報じることに対しても、一部のコンビニ本部からは、取材をお願いしても「取材抜きでお会いしましょう」といった個別の対面を求められたり、毎回違う人が出てきて7人にたらい回しされたり、コンビニ本部に従順な加盟店オーナーからSNS上で嫌がらせを受けたり、ということが、2017年からあった。今もある。

2008年から食品ロス問題に携わってきて、大半の方は、「食品ロスを減らすための仕事はとても有意義」だと言う。食品メーカーや食品展示会を主催する企業、ホテル業界、スーパーマーケットなどは、講演や社員研修を依頼してこられる。唯一、そのようなことがないのがコンビニ業界だ。もちろん、一部の企業や社員の方は好意的であるし、たとえば2020年8月に公開された食品ロスの映画『もったいないキッチン』には、ローソンが登場している。仮にコンビニ全社に、「食品ロスを謳う映画に出てもらえますか?」と打診したとすれば、100%の企業がOKするわけではなかっただろう。ローソンは、撮影内容を映画に盛り込むことを許諾してくれた。

2011年3月の東日本大震災の後、「物持って来い!」とメーカーに対して強要し、欠品することを許さなかったという話を、2020年に入ってからのメーカー取材で伺った。これも大手コンビニ本部だった。

パフォーマンスで「食品ロスを減らしています」と言われても、わかる人にはバレているし、加盟店オーナーや、店で働いているアルバイトやパートの方々は事実を知っている。情報はきちんと開示して頂きたい。食品ロスを「減らしてる感」を出すのではなく、実際に減らしてください。

イギリスの大手スーパーTESCO(テスコ)も、かつてはかなりの食品廃棄を出していたが、ジャーナリストのトリストラム・スチュアートの活動もあり、今では積極的に食品ロスを減らし、その量も開示するようになっている。それが企業の信頼性につながるし、ひいては、自社の廃棄コストの削減という、経営上のメリットになるはずだ。

そして、われわれ消費者は、食品ロスを企業のせいだけに押し付けるのではなく、食料品の購入価格に廃棄コストが織り込まれ、無意識のうちに払わされている事実を忘れてはならない。

関連資料

販売期限切れの弁当はどうなる?コンビニオーナー座談会でわかった「寄付は絶対しない」の理由とは

「こんなに捨てています・・」コンビニオーナーたちの苦悩

(令和2年9月2日)コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査について(公正取引委員会)

コンビニエンスストア本部と加盟店 との取引等に関する実態調査報告書(令和2年9月2日)公正取引委員会

コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査報告書(ポイント)(令和2年9月2日)公正取引委員会

コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査報告書(概要)(令和2年9月2日)公正取引委員会

映画『もったいないキッチン』

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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