「出生インセンティブ政策では出生率はあがらなかった」シンガポール出生率0.97
下がる東アジアの出生率
日本だけが低出生になっているのではなく、世界的に高所得国と定義される国はほぼ低出生となっている。特に、世界の中でも東アジア諸国の低出生化が顕著である。
2023年韓国の出生率は0.72まで下がり、世界最下位を継続しているが、台湾もすでに1.0を下回り0.87となっている他、シンガポールも0.97である。中国も2021年時点で1.16と日本を下回っている。意外に知られていないが、高所得国ではないタイですら2021年には1.33となり、同年の日本(1.30)とほぼ変わらないレベルにまで低下している。ベトナムでさえ1.95ともはや2.0を切っている。
上記にあげた7ヶ国を1990年時点で比較すれば日本が最下位だった。
しかし、2020年代になると、日本以上に他国の出生率の低下が著しく、相対的に日本は7ヶ国3位となる。これは、日本が20年間踏みとどまっているという見方もできるが、それ以上に東アジア全体の出生率が国の豊かさに関係なく急降下していることを示す。
特に、0.97となってしまったシンガポールは深刻だが、ここまでになるのに決して手をこまねいていたわけではない。そして、このシンガポールの少子化対策の失敗を学ぶことで同じ轍を踏まないようにしていかないといけない。
シンガポールの少子化対策
1970年代初めまで3.0以上あった同国の出生率は、1986年に出生率1.43に低下する。その時点で当時の日本よりも一度下がってしまった。
これを受けて、シンガポール政府は1987年には「3人以上の子どもを持とう」というスローガンを掲げて、出産奨励金や税制優遇措置を打ち出した。その後、一時期的に出生率は盛り返すものの、こうした出生インセンティブは効果を持続させられず、ズルズルとまた減少が続き、1999年には1.4台に逆戻りする。
そこで、2001年には、さらなる強化政策として、政府が第二子、第三子を対象とした子どものための積立を援助する「ベビーボーナス制度」を導入した。しかし、それも効果は1年程度ですぐ失われ、あれよあれよという間に出生率は1.2から1.1へと急降下していくことになる。
シンガポールが実施した政策は、多子出産の奨励であり、子どもを産めば優遇するという、いわゆる子育て支援政策に近い。しかし、それでは結局何の効果は出なかったという事実は認識しておくべきだろう。
シンガポールの女性たちは2人目、3人目を産まなかったかというと決してそうではない。一時的にせよ、2人目、3人目の出生効果はあった。しかし、それはその時点で結婚して、1人目を産んだ母親だけが反応したものに過ぎない。
問題は、結婚した母親が子どもを産んでいないことではなく、そもそも結婚の減少ということにあったからである。その点、シンガポールも婚外子比率は低いので日本や韓国、中国と状況は似ている。要するに、結婚が減った(独身率が高まった)がゆえの「第一子が生まれない」ことこそが少子化の原因なのである。
20代の出生率だけ激減
もう少し詳細を説明すれば、シンガポールの出生減はほぼすべて20代の出生率の減少で説明がつくという点も今の日本や韓国・中国が置かれている状況とそっくりである。
「子育て支援や多子化促進では出生数は増えない」というのは、日本だけの歴史的経緯を見ただけでもわかることだが、韓国でも同様に日本円で30兆円も子育て支援予算をかけても出生減はむしろ加速する一方であるし、シンガポールもまた1980年代からやり続けてきたそういった一連の政策が全く奏功していないがゆえの0.97という結果なのである。
これも何度もいうが、子育て支援は否定しない。それはそれとして少子化だろうとなかろうとやるべきことである。しかし、出生に対していくらインセンティブをつけても効果はないということは、さまざまな国で証明されている。
第二子、第三子促進ではダメで、若くして第一子が生まれる環境、すなわち若者の結婚が発生する環境を作らない限り、なんともならないのだ。
あらゆる国で共通の課題
繰り返すが、東アジアの出生率低下だけではなく、あらゆる国の出生率低下はすべて20代の出生率の低下で説明できる。フランスが日本や韓国などより出生率が高いのも20代の出生率の違いだけである。
20代が結婚や出産をしなくなっているのはなぜか?
何度も当連載で書いていることなので重複説明は割愛するが、選択的非婚も増えてはいるものの、決して20代全員が「結婚したくない・子どもなんてほしくない」と思っているわけではない。20代の若者の中にも半数以上はいる「本当はしたいのに…」できないという本質の部分に向き合わず、失敗続きの出生インセンティブ政策を続けていても時間と金の無駄なのである。課題は、結婚の前にある。
ちなみに、シンガポールの20代女性が出生しなくなっていることと、同国の女性の大学進学率が2020年には7割超えしていることも無関係ではないだろう。
東アジアの低出生問題について、なぜ中所得国のタイやベトナムまで出生率が下がっているのかについては別記事でご紹介したい。
こうした話をすると「婚外子比率を高めれば出生増になる」などという因果のない話をしてくる者がいるのだが、婚外子比率の問題ではない。実際、婚外子比率の高い欧州だって出生率はいずれ日本と同じ道を辿るだろう。
関連記事
日本で出生率1.0を切る可能性/少子化先進国の韓国で起きていることは、やがて日本でも起き得る
「フィンランドの出生率1.26へ激減」子育て支援では子どもは生まれなくなった大きな潮目の変化
日本・中国・韓国・台湾の東アジアの出生率は低いが、アメリカでも急減しているアジア系の出生率
-
※記事内グラフの商用無断転載は固くお断りします。
※記事の引用は歓迎しますが、筆者名と出典記載(当記事URLなど)をお願いします。
※記事の内容を引用する場合は、引用のルールに則って適切な範囲内で行ってください。