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日本で出生率1.0を切る可能性/少子化先進国の韓国で起きていることは、やがて日本でも起き得る

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

フランスより韓国に学べ

少子化対策について「フランスや北欧を見習え」などという出羽守が頻繁にあらわれるが、そうした声が的外れであることは当連載で何度も指摘してきた。むしろ、合計特殊出生率世界最下位の韓国で起きていることを反面教師として学んだ方がよい。

韓国の合計特殊出生率は、2022年0.78になったといわれている。日本も下がったとはいえ、まだ1.26である。しかも、韓国の出生率低下はまだ続く。韓国統計庁によれば、2023年の出生率はさらに下がって0.72の見込みで、2024年には0.65にまで下がると推計している。

そして、韓国の出生率が激減している最大の要因は婚姻の減少であることは過去記事においても紹介した。出生減は婚姻減であり、婚姻減によって第一子が生まれないことが少子化を作っているという話は何度もしているが、日本以上にそれが顕著に出ているのが韓国である。

今回は、韓国との比較によって、若者の婚姻減などの動向でいかに全体の出生率が大きく損なわれる話をしたい。

韓国との各歳別出生率比較

合計特殊出生率というのは、15-49歳女性の各歳の出生率を足し上げたものである。有配偶女性だけでなく未婚も含む全女性を対象としているので、各歳の未婚率が高ければ高いほどこの出生率は低くなる。東京の合計特殊出生率が全国最下位なのはそういう計算のためだ。

さて、今でこそ韓国の出生率は大きく日本より下がってしまっているが、1990年代までは韓国の方が圧倒的に高かった。韓国が日本を下回ったのは2001年からである。ちなみに、2001年の日本の出生率は1.33、韓国は1.31でほぼ同等であった。

各歳の出生率分布を日本と韓国とで1980年から2020年にかけての変化で比較をしてみたい。このグラフの面積が合計特殊出生率を表す。

日本も韓国も出生率の低下が著しいのは20代であるが、それでも日本の場合、2001年と2020年とでは、それほど差異はない。20代で若干減った分を30代でカバーしている。一方、韓国の20代、特に20-24歳の激減ぶりが凄まじいことがわかる。韓国の低出生率は、この20代の出生率の減少分である。

韓国の婚姻減少と考えあわせると、韓国においては20代での婚姻が減少したことで、自動的に20代の出生が激減したことに帰結する。30代以降で婚姻出生をしたとしても、20代にて第一子を産んだ場合と比べれば、その分多子出産は抑制される。これが韓国の低出生の原因である。

韓国の婚姻減の要因

今世紀に入って、韓国で20代の若者が結婚できなくなった背景に、経済的要因がある。

韓国では大企業とそれ以外の中小企業での企業規模間賃金格差が大きい。大企業に入りたいと思ってもその採用人員には限りがある。採用には学歴が重要視されるため、韓国の若者は進学のための競争に躍起になる。それは、親の教育費への負担としてのしかかってくることになり、ある程度裕福でなければ、そもそもその競争にすら参加できない事態になる。

写真:アフロ

さらに、中国の彩礼銭のように、韓国独自の結婚の風習があり、結婚したい男性が女性の親に挨拶に行けば、必ず「家は建てられるのか(買えるのか)」と問いただされる。前述したように、大企業に運よく就職できた男性ならなんとかなるかもしれないが、それ以外で、特に大都市部に家を買うなど地価高騰も重なり、ほぼ不可能となっている。「家が買える経済力がないから、結婚なんてする気も起きない」という状況なのだ。

加えて、韓国の大学進学率は近年急激に上昇し、今では男性より女性の大学進学率の方が高くなっている。そうしていい大学に進学し、大企業に就職した女性は、自分と同等以上の年収の男性とマッチングし、夫婦共稼ぎによるパワーカップルが生成される一方で、それ以外の女性が大企業男性を見つけようと思ってももうすべて売約済みで相手がいないという状況になる。無理に経済力のない男と結婚するくらいなら、自分で稼いで自立しようという気になってしまう。

その流れは、結婚制度の崩壊を掲げ、女性解放の必須条件だと主張する過度なフェミニズムとも共鳴し、「あえて結婚しない」非婚主義者が量産されるとともに、無用で不毛な男女対立も激化している。

結果、韓国統計庁の2023年「社会調査で調べた青年の意識変化」によると、19-34歳の未婚男女の未婚の理由は、男性の4割以上が「費用負担の問題」と回答し、女性は24%が「結婚する必要性を感じない」としているのがトップである。

恋愛に興味がないのではない

ちなみに、韓国人がそもそも恋愛に興味がないわけではない。

韓国の政府系シンクタンクの調査2021年「家族と出産に関わる調査」によれば、19-49歳の未婚男女で恋人のいる割合は、男性28%、女性30%である。韓国においても日本の「恋愛強者3割の法則」通り、3割は恋愛している。

写真:アフロ

しかし、恋愛している若者同士であっても結婚できないという障壁が存在し、それが20代の婚姻減となり、その結果としての出生減を発生させているのである。

日本においては、大きく減ったとはいえ、韓国ほど20代の若者の婚姻離れが進んでいるわけではないが、決して対岸の火事ではなく、やがて日本にも降りかかってくる問題なのである。

なぜなら政府の少子化対策は、何の圧力や思惑があるのか、頑固なまでにこの「20代の結婚できない問題」を無視し続けているからだ。

20代の若者の結婚が失われれば、簡単に出生率1.0を切ることにつながる。

どんなに30代以降の結婚や出産が増えても、それを全部カバーできるものではない。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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