北朝鮮、軍事パレードで新型固体燃料ICBMを初公開か
北朝鮮の労働新聞は9日、朝鮮人民軍の正規軍創設を祝う「建軍節」の75周年を記念する閲兵式(軍事パレード)の写真を掲載した。発射の兆候が掴みにくい固体燃料式の大陸間弾道ミサイル(ICBM)とみられる新型ミサイルを初めて公開した。軍事パレードは前日8日夜に実施された。労働新聞電子版には150枚の写真が掲載されている。
新型ミサイルは9軸18輪車両に載って登場した。これは以前、ICBMの火星15を載せた中国製大型トラック「WS51200」改造型と同じとみられる。ただし、ミサイル自体は見えないようにキャニスター(発射筒)が閉じられていた。新型ミサイルは軍事パレードのフィナーレを飾るように最後に5基現れた。
ロケット推進システムに詳しいアメリカのシンクタンク、ジェームズ・マーティン不拡散研究センター(CNS)研究員のマイケル・デュイツマン氏は筆者の取材に対し、「北朝鮮が私たちに見せたのは、発射キャニスターを備えたTEL(起立式移動発射台)だ。ロシアのトーポルやヤルス、中国のDF31やDF41などの移動式固体推進剤ICBMは、特別なコンテナで輸送(および発射)される。北朝鮮が今日私たちに見せたのは実際のミサイルではなく、キャニスターを備えた車両だ」と指摘した。
その上で、デュイツマン氏は「北朝鮮は間違いなく固体推進剤ICBMに取り組んでいる。8日のパレードの車両は、北朝鮮が開発中のような固体推進剤ICBMを発射できることはほぼ確実だ。しかし、その発射管にミサイルが入っているかどうかは断言できない。北朝鮮は2017年にパレードで同様の車両を展示した。これは同年に野心的な能力を表したことになり、北朝鮮の将来の目標を示した。北朝鮮のミサイル計画は2017年以降大幅に進歩したが、固体推進剤計画の現状については確信が持てない」と述べた。
●固体燃料エンジン試験
北朝鮮は昨年12月15日に平安北道(ピョンアンブクト)鉄山(チョルサン)郡東倉里(トンチャンニ)の衛星発射場で「大出力固体燃料発動機(ロケットエンジン)地上噴出試験に成功した」と発表した。高出力の固体燃料エンジンの試験だ。
さらに先月31日には、ボイス・オブ・アメリカ(VOA)放送が「北朝鮮が29~30日に咸鏡南道咸州郡(ハムギョンナムド・ハムジュグン)にある馬近浦(マグンポ)エンジン試験場で固体燃料エンジン試験を行った状況が明らかになった」と報じたばかり。北朝鮮は着実に固体燃料ロケットモーターを進化させている。
北朝鮮は、2021年1月の朝鮮労働党大会で決めた国防5か年計画に沿って、固体燃料エンジンのICBM開発などさまざまな兵器の開発を進めている。新型固体燃料ICBMの発射実験も早晩実施されると予想される。
固体燃料型ミサイルは、液体注入で発射までに時間がかかる液体燃料型とは異なり、短時間で発射でき、相手国への奇襲性が高い。
軍事パレードでは、北朝鮮が保有する最大のICBM「火星17」も少なくとも11基以上が登場した。11軸22輪の世界最大の巨大なTELに搭載されていた。新型ミサイルや火星17を含め、北朝鮮は今回のパレードでは過去最多の長距離核ミサイルを登場させた。
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長は2018年の「新年の辞」で「核弾頭とミサイルを大量生産して実戦配備する事業に拍車を加えるべき」と述べたが、その言葉通りにTELも大量生産が確実に行われていることをうかがわせる。
金正恩氏は1月1日、労働党中央委員会の総会の報告で、2023年度の「核武力と国防発展の変革的戦略」を発表し、新たなICBMの開発を予告した。軍事力を強化する韓国が「疑う余地のない我々の明白な敵になりつつある」として、戦術核兵器を大量生産していく方針を明らかにした。
北朝鮮メディアは9日、今回の軍事パレードで金正恩氏が演説したとは報じなかった。
金正恩氏は娘のキム・ジュエとみられる少女を連れて軍事パレードを観たが、以前より体重が増え、顔もむくんでいるように見える。北朝鮮ウォッチャーの間では、金正恩氏のここ最近の健康悪化が指摘されている。
軍事パレードについて、9日付の労働新聞は「強力な戦争抑止力、反撃能力を誇示してたくましく進む戦術核運用部隊縦隊の進軍は、威厳があり、無比の勢いが天をついた」とも報じた。
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