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北朝鮮、新型SLBM「北極星5」を公開――「世界最強の武器」と喧伝 戦略原子力潜水艦の保有を追求

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
北朝鮮は「北極星5」と称する新型SLBMを初公開した(KCNA)

北朝鮮国営メディアは1月15日、「北極星5」と称する新型の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を初めて公開した。新型SLBMは前日14日夜に第8回朝鮮労働党大会の記念行事として軍事パレードが行われた際に登場し、総書記に就任した最高指導者の金正恩氏が閲兵した。

北朝鮮国営ラジオ放送局「朝鮮の声放送」(VOK)は15日、新型SLBM「北極星5」を「潜水艦(発射)戦略弾道ミサイルの世界最強の武器」と喧伝した。

金正恩氏は5ー7日に行われた第8回党大会で、核弾頭搭載の弾道ミサイルで攻撃できる戦略原子力潜水艦(SSBN)や多弾頭大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発など対米核武力の高度化を宣言していたため、軍事パレードでは新型SLBMが公開されるとの見方があったが、その通りになった。

朝鮮中央通信の9日付の報道によると、金正恩氏は党大会の事業報告で「核長距離打撃能力を向上させるうえで重要な意義を持つ原子力潜水艦と水中発射核戦略武器を保有することに関する課題が上程された」と述べ、原子力潜水艦の建造と水中発射核戦略武器の開発計画を公式化した。

●北極星5は長射程化か

「北極星5」は、昨年10月に公開された「北極星4」よりも大きく、長射程化しているとみられる。これは「北極星5」を搭載するトレーラーには「北極星4」にはあった兵士が座るベンチ(長椅子)がなくなっていることからも分かる。

北極星5は、北極星3、4と同様、ミサイルの弾頭部が丸くなっているが、北極星4よりも尖っているようにも見える。一方、北極星1、2の弾頭部は鋭い形をしている。

これに対し、ドイツのミュンヘン在住のミサイル専門家、マーカス・シラー博士は英軍事誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」の取材に対し、「北朝鮮は軍事パレードで北極星5は北極星4よりも長いとの印象を我々に与えている。しかし、現実にはそれは事実でないようにみられる」と述べた。

シラー博士は「ミサイルの塗装をちょっと変え、トレーラーの平らな荷台の前方ブラケット(取り付け用金具)を前方に動かすことによって、北朝鮮はミサイルのノーズコーン(弾頭を格納する先端部分)を除いて、北極星4と北極星5のミサイル胴体が同じであることを隠そうとしているようにみえる」と指摘した。

●2019年10月に北極星3を発射

北朝鮮は2019年10月2日に元山付近の海上でSLBMの北極星3を初めて発射した。日本の防衛省は、北極星3が通常より高く打ち上げるロフテッド軌道で発射されたと推定、最高高度が約900キロに達し、450km程度飛翔したとみている。かりに通常の軌道で発射されれば射程は約2000キロになる可能性があると指摘している。

韓国軍合同参謀本部も北極星3の最高高度は約910kmに達し、約450km飛んだとみている。韓国国防省は北極星3の長さは10メートル以上、直径1.4メートルと推定している。

北極星3は固体燃料を使用する2段式で、実際に発射されたのは2019年10月2日の時だけとなっている。アメリカ軍のコード名はKN-26。

●韓国情報機関「北朝鮮、3隻目のSSBを建造中」

北朝鮮は現在、ディーゼルエンジンを使った通常動力型弾道ミサイル搭載潜水艦(SSB)としては、実験艦であるゴラエ型潜水艦1隻を運用している。2019年7月には金正恩氏が2隻目のディーゼルエンジン使用となるSSBを視察した。この潜水艦は北朝鮮軍の主力潜水艦である排水量約1800トンの旧ソ連の「ロメオ型」(中国の033型)を改良したものとみられ、3000トン級と推定されている。北朝鮮国営の朝鮮中央通信(KCNA)はこの潜水艦は日本海に配備される予定だと報じた。

また、韓国の情報機関、国家情報院は2020年11月3日に北朝鮮が3隻目のSSBも開発しているとの見方を明らかにした。これは2隻目の「ロメオ級」改良型よりも大型化し、弾道ミサイル搭載数も倍増できるとみられている。

2021年1月14日の軍事パレードでは、5軸10輪の発射車両に載った固体燃料使用の短距離弾道ミサイル(SRBM)とみられる新型ミサイルも登場した。このミサイルの胴体は、ロシアの地対地ミサイルシステム、9K720「イスカンデルM」「イスカンデルE」をベースにしたSRBMであるKN-23(4軸8輪の移動式発射台に搭載)をより大きくしたとみられる。そして、ノーズコーンには米陸軍の戦術地対地ミサイル(ATACMS)と外見が類似するKN-24のそれを取り付けているとみられる。

しかし、その一方で、シラー博士をはじめ、一部のミサイル専門家の間では、この新型ミサイルは単なるモックアップ(模型)ではないかとの慎重な見方もある。

昨年10月のパレードでは過去最大の新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星16」と、それを搭載する11軸22輪の世界最大の巨大な起立式移動発射台(TEL)が初公開されたが、今回のパレードではICBMや巨大TELは登場していない。

北朝鮮の国営メディアは軍事パレードの写真100枚を公開した。

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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