菅義偉首相が緊急事態宣言を再延長 飲食店への対応がやっぱりダメな3つの理由
緊急事態宣言が再延長
菅義偉首相が、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県の1都3県に対して、緊急事態宣言の期限を2021年3月7日から21日へと2週間再延長することを発表しました。31日まで延長するという話も聞かれます。
当初、緊急事態宣言の期間は1月8日から2月7日まででしたが、1ヶ月延長されて3月7日までとなった経緯があります。したがって、今回は2度目の延長となりますが、飲食店への対応については、やはり納得いくものではありません。
協力金の金額
緊急事態宣言において、飲食店に関する最も大きな課題は協力金です。昨年4月7日に最初の緊急事態宣言が発令されてから既に1年が経過しているにもかかわらず、飲食店への支援は相変わらず場当たり的であるとしか思えません。
東京都は営業時間短縮の要請を、緊急事態宣言の期間中だけではなく、解除後から今月末まで継続することを決めました。
営業時間の短縮は、緊急事態宣言の期間中は20時まで、緊急事態宣言の解除後は21時までとなっています。協力金は店舗ごとになっており、期間中の14日間は1日6万円で合計84万円、解除後の10日間は1日4万円で合計40万円。両方を合わせれば124万円の協力金が支給されます。
この協力金の一律配布に関しては、以前から飲食業界の中からも疑問視されているのです。
これまで対象が中小企業だけとなっていたのが、ようやく大企業も対象となったのはよいことでしょう。
しかし、事業規模に応じて、つまり、飲食店の売上に応じて協力金が支給されていないのが問題です。
飲食店の数は、食べログの登録店数によれば東京都だけでも12万店以上もあり、様々な業態があります。規模であれば、10坪足らずで数席だけの小さな店から、300席もあるような大箱までと幅広いです。
客単価も、数百円のファストフードや好きに食べて飲んで1000円台という店もあれば、グランメゾンや料亭、鉄板焼や鮨のように、3万円であれば決して高くないというファインダイニングもあります。月商でいえば、1億円という驚きの超ドル箱店舗から、100万円にも満たない職住一体かつ家族経営で成り立っている店もあるのです。
産業別の経済活動を分析する際にも使用される総務省統計局の日本標準産業分類でも、飲食店は約15種に分類されており、業態によって違いがあることは明白。
それにもかかわらず、全ての飲食店に同じ金額の協力金を支給し続けるのは非常に疑問です。税金の使い方としても不適切ではないでしょうか。売上額の実績に応じて、協力金の金額を何段階かに分けて支給するべきです。
当初はスピード優先なので仕方ありませんでした。しかし、年が明けてすぐに緊急事態宣言が発令された後、延長もしています。2度目の延長となっても、協力金の金額が全く考慮されていないのは大きな課題ではないでしょうか。
酒類の提供時間
酒類の提供時間にも疑問符が付きます。
飲食店に対しては、営業時間が5時から20時までということに加えて、酒類の提供が11時から19時までと要請されています。つまり、19時までお酒が提供でき、その後の19時から20時はお酒を提供できません。
通常の飲食店であれば、料理のラストオーダーよりも、ドリンクのラストオーダーの方が遅いです。なぜならば、料理に比べればお酒はサービスされるまで手間がかからず、遅い時間まで提供することができるからです。
料理とお酒は互いに高め合うもの。フランス料理では料理とワインのマリアージュはとても重視されます。
アルコールペアリングを注文した場合には、グラス数が多い場合であれば最後のデザートまで、少ない場合であっても、メインディッシュまではお酒が合わせられるものです。アルコールペアリングを注文しなかったとしても、メインディッシュにお酒を合わせることは決して珍しいことではありません。
20時が営業終了となっているので、19時を過ぎてからメインディッシュが運ばれて来て、19時30分くらいにデザートで終了という流れは自然です。しかし、19時以降に酒類が提供できないのは、実際の飲食店での過ごし方に即しているとは思えません。
酒類提供は19時までという表現も極めて曖昧。19時までにオーダーされたら19時以降でもお酒を提供している飲食店がほとんどだからです。
飲食店の利用実態に合わせて、酒類提供も20時までに変更するべきではないでしょうか。
延長決定が遅い
今回の再延長も決定のタイミングが非常に遅いです。特に振り回されているのは日本の首都である東京。
1回目の緊急事態宣言は安倍晋三元首相が4月7日に発令し、5月6日までの1ヶ月間が対象となりました。それが5月31日にまで延長されると発表されたのが、期限の2日前となる5月4日。最終的には、少し早まって5月25日に解除されました。
2回目の緊急事態宣言は菅義偉首相が2021年1月7日に発令し、期限は2月7日まで。3月7日までの1度目の延長が決まったのが、5日前の2月2日。そして、2度目となる3月21日までの延長が決まったのが、2日前の3月5日でした。
今回の延長決定が2日前というのは、やはり直前すぎるといわざるを得ません。
緊急事態宣言の発令直後の1月7日に、西村康稔経済再生担当相は、1日の新規感染者が500人以下になることが解除基準と述べました。東京都は再延長後の2月7日からずっと500人を下回っていただけに、今度は解除されるとして計画を練っていた飲食店も少なくありません。
しかし、わずか2日前になって再延長されることが決まったので、飲食店な損害を被っています。
第一に挙げられるのは予約の対応です。緊急事態宣言の解除以降は通常時間で営業するとして予約をとっており、20時以降にかかる予約も受け付けていました。しかし、20時以降は営業を自粛することになったので、該当する予約客に電話をかけたり、メールを送ったりし、キャンセルしてもらうか、日時を変更してもらうかしています。飲食店はただでさえ売上が落ちている上に、もともと雑務が多い忙しない業態。そこへ新たな負担までかけることになっているのです。
次に挙げられるのはプロモーションの企画。解除後にイベントを開催し、特別メニューを提供しようとしていた飲食店にとっては頭が痛いところ。自粛ムードの中でプロモーションを開催することに躊躇したり、集客への影響が懸念されたりするため、中止したり、延期したりしているのです。
中止や延期も簡単にできるわけではありません。生産者や卸業者、コラボレーションする相手と調整しなければならないからです。こういった調整をするのに2日前という時間は短すぎます。食材も無駄になってしまう可能性が高いでしょう。
最後に指摘しておきたいのが、商業的な時期。昨年の緊急事態宣言と同様に、飲食店は今年も書き入れ時である3月や4月の売上を逸失してしまいます。昨年末も1年で最大の書き入れ時である12月を自粛要請によって失っているだけに、状況は非常に厳しいです。
飲食店に対する最適な支援を
帝国データバンクによれば、新型コロナウイルス関連の倒産は3月5日時点で1116事業者となっており、業種別では飲食店の175件が最多。
協力金が飲食店を中心にして支払われていることから、「飲食店だけずるい」「1日6万円は多すぎる」「協力金バブル」といった声があがっています。
しかし、新型コロナウイルスの感染が拡大した昨年、最初に被害を被ったのは、飲食店をおいて他なりません。また、何かある度に名指しで悪いと指摘され、時短営業を要請されているのも飲食店。そして、飲食業界の中からも疑問視される協力金の一律配布を決めたのは、国や自治体です。したがって、飲食店を責めたり、羨んだりするのは、極めて理不尽であるといえます。
新型コロナウイルスは未知のウイルスであり、完全な対策はないかもしれません。しかし、飲食店が甚大な被害を受けてから既に1年が経っています。国や自治体には、緊急事態宣言の再延長にあたり、飲食業界の識者も交えて、飲食店に対する最適な施策を考えていただきたいです。