緊急事態宣言が発令も「営業時間を短縮しない!」 有名飲食店の決断が賛同されるワケ
緊急事態宣言が発令
1月7日に菅義偉首相が緊急事態宣言を発令しました。対象となる地域は東京、神奈川、埼玉、千葉、期間は1月8日から2月7日までとなっています。9日には大阪、京都、兵庫の3府県知事が西村康稔経済再生担当相に緊急事態宣言の発令を要請しました。
緊急事態宣言を受けて、当初報道されていたように、飲食店には、20時までの営業時間短縮、および、11時から19時までの酒類提供が要請されています。
ディナー営業が大きく制限されることから、ミシュランガイドで星を獲得していたり、食べログで高評価を得ていたりするレストランであっても、時短ではなく休業を選ぶところもあります。
私が見聞きした範囲では、多くの飲食店のオーナーやスタッフは、今回の緊急事態宣言に納得しているように思えません。
そういった状況の中で、ある大手外食企業が営業時間短縮の要請には従えないとアナウンスして話題となっています。
期間中も通常営業を行う
1973年に設立されたグローバルダイニングは、緊急事態宣言の期間中も通常営業をすると発表しました。ただ、入居している商業施設の営業時間が短縮されている店舗に関しては、営業時間を短縮しています。
グローバルダイニングは国内外を含めて43店舗を運営し、2019年度には約96.1億円の売上を誇る、東証2部の上場企業です。
映画「キル・ビル」の舞台モデルとなった「権八」は世界的にも知られており、他にも「カフェ ラ・ボエム」「ゼスト キャンティーナ」「モンスーンカフェ」など多くの人気店、有名店を運営しています。
どちらかのレストランを利用したことがある人は多いのではないでしょうか。
代表のコメントを掲載
このグローバルダイニングの創業者であり、代表取締役社長でもある長谷川耕造氏が、1月7日に公式サイトへコメントを投稿しました。
コメントに対して大きな反響があり、掲載直後の数時間は公式サイトに接続できなかったほど。
長谷川氏が述べる、通常営業を行う理由は次の通りです。
・国民の健康と生命に甚大な脅威となるような緊急事態ではない
・飲食店の時短や休業は感染抑制に効果がないことは世界で証明されている
・死者数は米国などの約40分の1であり、医療崩壊していると考えられない
・国からの協力金やサポートが不足している
今回コメントを掲載した経緯について、広報の平田裕子氏は「前回の緊急事態宣言時に、店舗の営業についてお客様からお問い合わせが多かったので、代表・長谷川の考え方として掲載した」と答えます。
一定の支持を得ている
グローバルダイニングのような大企業が、緊急事態宣言に際して、営業時間短縮の要請に応えず、コメントを発したことは飲食業界にとって大きな意味をもつでしょう。
SNSでは通常営業が喜ばれたり、コメントの内容が賛同されたりしています。株価も急騰するなど、大きな注目を浴び、一定の支持を得ているように思えます。
私は医療の専門家ではないので、新型コロナウイルスの感染については判断できません。しかし、新型コロナウイルスの感染が拡大し、昨年の緊急事態宣言があってから、飲食店の不満を肌身に感じていました。
それだけに、グローバルダイニングが営業時間を短縮しない選択をとったことに首肯できるものがあります。
国の施策は場当たり的で説明不足
飲食店がなぜ国に不満をもっているかといえば、施策が場当たり的である上に、説明も不足しているからです。
改めて振り返ってみましょう。
新型コロナウイルスの感染が拡大した当初は、風営法の1号営業に該当する飲食店を「接待を伴う飲食店」や「夜の街」と呼んでいました。これによって居酒屋やファインダイニングなど食事を楽しむ通常の飲食店は風評被害を与えられ、3月からの書き入れ時に売上機会を失っています。
2020年10月1日に農林水産省が主導して飲食業界を救う「Go To イート(Eat)」が開始されました。しかし、11月25日に経済再生担当相の西村康稔氏が「この3週間が勝負だ」と呼びかけたことによって、1年で最大の書き入れ時である12月も売上機会を逸失したのです。
国は外食を促進しようとしているのか、飲食店に行くなといっているのか全くチグハグで、困惑する飲食店が少なくありません。
新規感染者数の増加を飲食店ばかりのせいにし、「Go To トラベル」にも何の問題はないとも言及しています。
こういった経緯もあるだけに、今回発出された2度目の緊急事態宣言も納得感がありません。
昨年末に菅首相は「緊急事態宣言を出すような状況ではない」と述べ、緊急事態宣言を発令する雰囲気を全く感じさせませんでした。
しかし、年が明けてから唐突に発出することになったので、飲食店は考えたり準備したりする余裕がなかったのです。
施策に疑問が付されるだけではなく、その発言や態度によっても、飲食店は国に振り回されています。
1日6万円の協力金では厳しい飲食店もある
今回の緊急事態宣言において、東京都では飲食店には1日6万円、最大で186万円の協力金が給付されます。
※ただし、中小企業、個人事業主が経営する飲食店に限る(2021年1月11日追記)
これを十分な補償であるという方もいますが、必ずしもそうではありません。
確かに、1日の売上が数万円の店舗や、朝から通しで営業して夜は早く閉める飲食店であれば、これでよいでしょう。しかし、たとえば100席以上の大型店やディナー営業が中心のレストランでは、とても足りません。
先に紹介したグローバルダイニングでは、ディナー中心の大きな店舗をいくつも擁しているので、営業時間短縮の中では非常に厳しいでしょう。
コロナ禍におけるこの1年間で、国は飲食店に信頼してもらえるような発言や態度をみせることはなく、施策も不十分でした。
そのため、自分の身は自分で守るしかないと、通常通り営業すると飲食店が現れるのは全く不思議ではありません。
その上、罰則として、協力しない飲食店の店名を公表するというのであれば、なおさら納得のいかない飲食店が多くなるのは明らかではないでしょうか。
サプライチェーンに対する配慮も必要
飲食店の取引先に対しても給付金を支給する方向となっています。ないよりはよいですが、中小企業に40万円、個人事業主に20万円で、大きな金額ではありません。
飲食店は肉や魚、野菜など食材を中心として様々なものを日々仕入れています。こういった取引先があってこそ、飲食店の運営も成立するだけに、食のサプライチェーンは非常に大切です。
飲食店だけが生き残れたとしても、生産者や卸業者が倒れてしまっては、日本が世界に誇る飲食店は廃れていってしまうでしょう。
普段通りに食材を購入できないので、取引先に申し訳なく思ったり、大丈夫かと気にかけたりする飲食店は少なくありません。こういった取引先のためにも、できるだけ営業を続けたいと考える飲食店も多いです。
国には、飲食店と共に食のサプライチェーンに対しても引き続き配慮してもらいたいと思います。
日本を代表する料理人も営業時間短縮に否定的
ミシュランガイドでも三つ星として掲載されている大阪の「HAJIME」オーナーシェフ米田肇氏にも話を聞きました。
米田氏はNHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」にも出演したことがある、日本を代表する料理人。内閣総理大臣、自治体へ宛てた「飲食店倒産防止対策」署名運動の発起人でもあります。
米田氏は「今回の緊急事態宣言に関しては疑問を持たざるを得ない」と述べ、理由を問うと次のように答えます。
「内閣官房の資料を確認したが、飲食店が感染経路不明の原因であるというのは推測であってエビデンスではない。また、営業時間を短縮しても逆に三密を生み出すだけではないか」
時短要請に従わない飲食店の店名公表についても、問題点を指摘します。
「正当な理由がないにもかかわらず、要請に応じなければ、店名を公表すると聞いている。倒産危機のために営業を行うことは正当な理由ではないか」
飲食店が以前にも増して窮地に陥っている中で、米田氏はこう結びます。
「飲食店だけではなく、飲食業に関わる業者から生産者まで全てに影響が出ている。こういった国民を救うべく、国には舵取りの見直しを今一度お願いしたい」
国と飲食店の信頼関係に溝
新型コロナウイルスの感染は拡大しており、まだ収束の見通しが立ちません。前回の緊急事態宣言の頃と比較すると、東京では新規感染者数が10倍以上にもなるので、おそらく期間は延長されて前回より長くなるのではないでしょうか。
コロナ対策は国と民間企業、国民が一体となって行わなければ効果がありません。飲食店との溝を生み出さないように、国はしっかりコミュニケーションをとって飲食店と信頼関係を築くと同時に、飲食店が納得できるような最適な施策を講じてもらいたいです。