外国の軍隊がいる国はおかしいというドゥテルテの正論
フーテン老人世直し録(258)
神無月某日
先週から今週にかけ最も注目を集めた政治家はフィリッピンのドゥテルテ大統領ではないだろうか。
当初の注目点はダーティ・ハリー張りの「犯罪者を皆殺しにする」との「暴言」だったが、先週の中国と今週の日本訪問によって世界の覇者アメリカとそれを追い越そうとする中国を天秤にかける外交術を見せつけたからである。
フィリッピンと中国は南シナ海の領有権を巡って対立している。特に2013年から中国が浅瀬の埋め立てを行い、軍事施設と思われる建造物を作り始めたことからアメリカが問題視した。アキノ前政権はアメリカとの結びつきを強める一方、2014年にはハーグの仲裁裁判所に提訴して国際司法に裁定を委ねた。
今年7月、裁判所は中国の主張を認めない決定を下すが中国はこれを受け入れず、国際社会には懸念が高まっていた。ところがこの判決が出る直前に大統領に就任したドゥテルテ大統領は「判決はただの紙切れ」と言い、中国との関係修復に動き出したのである。
中国は南シナ海の領有権を「核心的利益」と定義しており、譲歩することは絶対にありえないと主張する。これに対し前政権は世界最強の軍事力を持つアメリカと組み、アメリカは南シナ海に艦艇と航空機を派遣する「航行の自由作戦」を実施、また国際司法の判断を背景に中国を国際的に孤立させる戦略に出た。日本の安倍政権もそれに積極的に賛同した。
しかしドゥテルテは中国との対立を強めれば戦争になると考える。戦争になれば遠く離れたアメリカは傷つかないが、アジアの国々は誰もが傷つき損をする。それよりも問題を棚上げし経済的利益を上げる方が国民のためになる。ドゥテルテは理念やイデオロギーを掲げるより国民の利益を重視する現実政治家なのである。
そしてフィリピンにはアメリカの植民地支配を受けた負の歴史がある。西部開拓を成し遂げてフロンティアを失ったアメリカは目を海外に向け、1898年に米西戦争を起こしてスペインを破り、カリブ海のキューバ、プエルトリコと太平洋のフィリピン、グアムを植民地化する。
その際、スペインからの独立を求めていたフィリピンの革命勢力に協力させたが、フィリピンを独立させず、そのために米比戦争が起きてアメリカは12万人の兵隊を派遣して勝利する。その戦闘でフィリピン人20万から150万人が犠牲になったと言われている。
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