戦争に向かうヒラリーと戦争から逃げるトランプ
フーテン老人世直し録(256)
神無月某日
投票まで3週間を切ったアメリカ大統領選挙の最後のテレビ討論は、ヒラリーとトランプが相手に対する嫌悪感をむき出しにしたまま終わった。
前回は直前に10年前のトランプの女性蔑視発言がワシントン・ポスト紙に報道され、その反撃材料にトランプがクリントン元大統領の過去のセックス・スキャンダルを利用したことから「史上最も醜い討論会」と言われ、ヒラリーとトランプの支持率の差はヒラリー優位が拡大した。
ところがテレビ討論に限った評価では、1回目のテレビ討論よりヒラリーの勝ちと判定する割合は減少し、支持率とは逆に二人の差が縮まる傾向を見せた。しかしその傾向を打ち消すようにトランプからセクハラを受けたと証言する女性が次々に現れてメディアを賑わせ、トランプはそれをヒラリー陣営とメディアが画策した陰謀だと非難した。
オバマ大統領はこれを「前代未聞の泣き言」と切り捨て、共和党内からも大統領候補の交代を求める声が上がるなど、メディアを含め既存の政治体制に取り囲まれたトランプの戦いは孤立無援の様相となった。
そうした中で3回目のテレビ討論が行われ、「最高裁判事の選び方」や「経済政策」、「移民問題」など政策課題を巡って両者が自説を主張するまともな滑り出しを見せた。しかし「大統領の資質」というテーマになると討論はヒートアップ、前回同様の非難合戦が繰り広げられた。二人は顔を見合わせることも歩み寄って握手をすることもなく嫌悪感むき出しのまま討論会を終えた。
とりわけ司会者が「選挙結果を受け入れるか」と質問したのに、トランプは「その時になってから述べる」と選挙結果に異議を申し立てる可能性を示し、これにヒラリーは「権力を平和的に移行させるという我々の民主主義を侮辱している」と激しく噛みついた。メディアもこの発言を問題視してトランプは批判にさらされている。
直後のCNNの世論調査ではヒラリーの勝ちと評価する者が52%と多数を占めたが、トランプの勝ちと答えた者も39%おり、1回目のヒラリー62%対トランプ27%、2回目のヒラリー57%対トランプ34%に比べその差はさらに縮まっている。
政策ごとでは「経済政策」でヒラリー評価50%対トランプ評価48%なのに、「移民政策」や「最高裁判事の選び方」ではそれぞれヒラリー48%対トランプ50%、ヒラリー48%対トランプ49%とトランプ評価がわずかだがヒラリーを上回った。
そして「この討論を見て投票先を変えたか」という質問には、「クリントンに変えた」が22%、「トランプに変えた」は23%、「変わらない」が54%であった。ヒラリー優位の選挙戦であることは確かだが、これらの数字が何を意味するかを分析しないと選挙後のアメリカ政治を読み解くことはできない。
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