日米共同開発の極超音速兵器迎撃ミサイルGPIで日本が開発担当する範囲はロケットモーターと推進装置
5月15日に、日米共同開発の極超音速兵器迎撃ミサイル「GPI(Glide Phase Interceptor:滑空段階迎撃用誘導弾)」について、日本の開発担当分が発表されました。
アメリカの開発担当分は迎撃弾頭の赤外線センサーおよび誘導システムになります。またGPIはイージス艦用のMk41VLS(垂直ミサイル発射機)から発射する予定なので、第1段ロケットは既存のMk72ブースターを流用する可能性があります。
GPIの構成要素の予想
- 第1段ロケット:既存のアメリカ製Mk72ブースターまたは日本開発の新型?
- 第2段ロケット:日本開発担当分
- 迎撃弾頭:アメリカ(センサーおよび誘導装置)+日本(推進装置)?
GPIの詳しい構成要素は未発表ですが、おそらくは主推進ロケット2段+迎撃弾頭で合計3段となるものと思われます。GPIと同じサイズの大気圏外迎撃ミサイル「SM-3」だと主推進ロケット3段+迎撃弾頭で合計4段ですが、極超音速兵器迎撃ミサイルのGPIでは迎撃弾頭は空気抵抗が少ないながらも存在する環境での高い機動性が求められるので、SM-3のような小さな迎撃弾頭では実現は難しいのではないかと予想されるので、第3段ロケットを搭載する容積の余裕が無さそうです。
ただし迎撃弾頭に推進システムが付いている可能性はあります。推進用というよりはTVC(推力偏向制御)による空気が薄い環境で空力操舵に頼らない機動のための装備で、たとえばイスラエル製の弾道ミサイル防衛システム「アロー」の迎撃弾頭でも実装しています。GPIの迎撃弾頭はアメリカが全て担当するのか、日本が一部を分担するのかは、現状でははっきりしていません。(※一部報道では日本が迎撃弾頭の開発を担当するとあるが、日本が迎撃弾頭を全て担当は考え難い)
各国の極超音速兵器迎撃ミサイルの迎撃弾頭の構成要素
- サイドスラスター+空力操舵:HGV対処用誘導弾(日本、防衛装備庁)
- サイドスラスター+TVC:IRIS-T HYDEF(ドイツ、Diehl)
- サイドスラスター+TVC:アクィラ(フランス、MBDA)
- 空力操舵+TVC:アロー4(イスラエル、IAI)
- 空力操舵+TVC:スカイソニック(イスラエル、ラファエル)
各国の極超音速兵器迎撃ミサイル開発計画は10種類以上ありますが、迎撃弾頭の構成要素が判明しているのは上記の5種類です。欧州の計画は統廃合される予定で(確定していない)、日本の計画は要素研究だけで終わる可能性があり(予算が付けば実戦配備も)、イスラエルの計画はアロー4の実用化はほぼ確実な予定ですが(アロー2の改良型で開発失敗リスクが低い)、スカイソニックは提案だけで終わりそうです。
大気と宇宙の狭間を飛ぶ必要がある極超音速兵器迎撃ミサイルは、空気の密度が低いが存在する高高度で機動する必要があり、空力操舵は効き難くなります。そこでサイドスラスターやTVCなど噴射による機動に頼ることになりますが、噴射に頼るということは推進剤が尽きて噴射が止まると機動できなくなることを意味します。
サイドスラスターは細かい軌道修正用で、常時噴射しているわけではありません。大きく軌道変更するには空力操舵かTVCが必要になりますが、空力操舵は高度が高過ぎると効かなくなります。TVCは空気が無い高度でも効きますが、一度点火すると常時噴射して、噴射が止まると機能停止します。
- サイドスラスター+空力操舵:高高度はやや不得意、有効射程は長い
- サイドスラスター+TVC:高高度に対応、ただし有効射程が短くなる
- 空力操舵+TVC:高高度はやや不得意、有効射程は短い、軌道変更大
この傾向は3種類の中での相対的な比較になります。
参考動画:MBDA「アクィラ(AQUILA)」
※MBDA公式動画だが一部にCGの編集ミスらしき場面がある。
- 30秒:アクィラ(ブースター投棄後)
- 31秒:アスター(脈絡なく登場) ※おそらく編集ミス
- 32秒:アクィラ(迎撃弾頭ノーズコーン投棄)
- 34秒:アクィラ(迎撃弾頭サイドスラスター噴射)
MBDAアクィラは大型ブースター+第2段ロケット+迎撃弾頭(サイドスラスター+TVC)という3段構成です。さらに2段構成の短距離対応型も検討していると発表があります。
なおCG動画では迎撃弾頭はサイドスラスターのみに見えますが、MBDAの他の公式発表図からは最後部にTVCが付いているように見えます。
AQUILA | MBDA to lead consortium for European interceptor against hypersonic threats
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