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読売新聞社会部長の「反論」にもならない言い訳がこの国の劣化を物語る

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(306)

水無月某日

読売新聞が官邸と結託し5月22日の朝刊社会面で前川喜平前文科省事務次官の「出会い系バー通い」を記事にした。前川氏に買春疑惑を浮上させ、人格攻撃を行うことで発言の信ぴょう性に疑問を抱かせようとする安倍政権の「印象操作」の先兵役を務めたのである。

それに対し6月1日発売の「週刊文春」は、「出会い系バー」の女性に直接取材したインタビュー記事を掲載し、前川氏が付き合った女性や女性の両親から感謝されている事実を報じ、読売新聞や菅官房長官による前川氏の買春疑惑に根拠がないことを示した。

そこでフーテンは「読売新聞は『週刊文春』報道にどう応えるのか」とブログに書き、読売の記者が本当に取材したのなら「文春」が取材した女性を取材していないはずはなく、取材していながらそれを記事にしなかったことに疑義を呈した。

するとその翌日、読売新聞朝刊に原口隆則社会部長による「反論」らしき記事が掲載された。しかしそれは「反論」どころか「弁解」らしき記事に過ぎず、読売新聞はますます馬鹿さ加減を世間に晒している。

まず社会部長は「独自の取材で前川氏が売春や援助交際の交渉の場となっている出会い系バーに頻繁に出入りしていたことを掴み」と書いているが、どんなきっかけから掴んだのかを明らかにしていない。

読売の記者がたまたま「出会い系バー」を取材していて掴んだとでもいうのだろうか。もっとも考えられるのは警察か官邸かあるいは出元を分からなくするための第三者から教えられ、それを元に歌舞伎町のバーを取材したのではないか。

なぜなら日本の新聞やテレビの記者は足で取材するより誰かの話を鵜呑みにして右から左に情報を垂れ流すのがほとんどだからだ。そして記者は個人の資質を磨くより組織人として組織の論理に逆らわないよう訓練されている。

昔フーテンは「記者はなぜバカになるか」というブログを書いた。日本のメディアは体制派だろうが反体制派だろうが同じである。誰かの情報を垂れ流す。そして誰かの情報には国民を洗脳しようとする意図が隠されていて、新聞やテレビを信ずる国民は簡単に騙されることになる。

まず読売が「独自に掴んだ」と言うところからフーテンはこの記事を信用できない。信用されたければ情報を掴んだ経緯を読売は明らかにすべきである。そしてこの記事が甘いのはバーに「出入りした」だけで、「一般読者の感覚からしても、疑惑を生じさせる不適切な行為であることは明らかだ」と結論付けていることだ。

フーテンが取材者なら買春の証拠を掴むまで取材をやめない。そこまでやって初めて取材と言える。それもしないで記事にすれば普通はデスクや部長が怒鳴りつけて取材を一からやり直させる。おそらく読売は証拠を掴めなかった。

ニュースにならない話を「印象操作」に使うため、「一般読者」という素人に言及し、その感覚なら「不適切な行為であることは明らかだ」と結論づけたのである。「一般読者」というバカならこの程度でも「けしからん」と思うだろうと読売は思っているのだ。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:11月24日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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