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突然姿を消したあいつを探した体験を映画に。生物医学工学の世界から映画監督に転じた理由は?

水上賢治映画ライター
「郊外の鳥たち」より

 あのころ、自分はどんなことを考えて、どんな毎日を送っていただろうか?

 ふと、そんな子どものころのことを思い出してしまい、いまの自分と重ねてしまうのが、映画「郊外の鳥たち」といっていいかもしれない。

 子どもたちが小さな大冒険といえる旅に出ることから「スタンド・バイ・ミー」になぞらえて語られる映画であるのはよくわかる。

 でも、青春期の忘れられない思い出に浸るというよりも、自分自身の現在と過去を映し出すというか。

 単なるノスタルジックな物語とは違う、自分自身の生きてきた道を振り返るような1作となっている。

 中国の新たな才能として注目を集めるチウ・ション監督に訊く。(全五回)

「郊外の鳥たち」のチウ・ション監督
「郊外の鳥たち」のチウ・ション監督

ツバメ役のホアン・ルーに関して

 前回(第四回はこちら)に続き、キャスティングの話から始める。

 キーパーソンといっていいツバメ役は、中国インディーズ映画で活躍するホアン・ルーが務めている。

「ハオ役についてはメイソン・リーにたどりつくまでかなり難航したことをお話ししました。

 対して、ツバメ役のホアン・ルーに関しては、あまり悩まずスムーズに決まりました。

 日本のみなさんもご存知でしょうが、彼女は中国ではインディペンデント映画では知られた女優で。

 これまでいろいろなアート・フィルムに出演されているとても才能のある役者さんです。

 ツバメ役を彼女にしようと思った決め手は、実際に話してみて感じたことなんですけど、彼女はひじょうにさばけている。

 さっぱりした性格で、あまりドロッとした感情を感じさせるところがない。

 そんな雰囲気を感じとったとき、まさに『ツバメだな』と思ったんです。

 あと何よりよかったのは、彼女の声です。

 年齢と少しだけ違和感のある、かわいらしい女の子のような声をしている。

 天真爛漫な少女のような雰囲気が彼女の中には含まれている。

 ツバメはそういった要素のある、ある種の少女性がまだ残る存在なので、ぴったりではないかと思いました」

「郊外の鳥たち」より
「郊外の鳥たち」より

ホン・サンス監督の手法からインスピレーションを受けて

 キャスティングから演出に話を変えるが、とても印象的なのがパンとズームを多用していること。

 このことについてチウ・ション監督は、韓国のホン・サンス監督の作品にインスピレーションを受けたと明かしている。

「そうですね。ホン・サンス監督の手法からインスピレーションを受けて、こういう演出を取り入れました。

 パンやズームの手法を取り入れた理由は、まずハオの職業ということがありました。

 彼は測量士の仕事をしている。定点測量機を常に覗いて作業をしているわけです。

 定点測量機というのはズームイン・ズームアウトができる。ある地点から、360度回転することができる。

 ですから、パンやズームの手法を使うことで、測量士の眼差しとハオの眼差し、どちらも表現できるのではないかと考えました。

 また、定点測量機というある意味、機械的な視点を置くことで、目の前の風景を機械的に切り取ることもできれば、そこにちょっとした人の感情、つまりハオの好奇心みたいな動きが入ることで、いたずらっ子のような視点でその風景を切り取れるとも考えました。

 ですから、この映画には、測量士が離れて機械が勝手に切り取ったような風景と、ちょっと人の手が入ってとらえたような風景が入っています」

映画を作ろうと志したきっかけ

 最後に監督自身が映画を作ろうと志したきっかけについて訊いた。

「わたしは大学で生物医学工学を専攻して、学士号を修得しています。

 なぜ、生物医学工学を専攻したかというと、人間の夢が解読することができる機械を発明して、その人の見た夢を放映したかったんです。

 人々の脳波というものを、どうにかして変換して、それを可視化できる装置みたいなものを作りたかったんです。

 しかし、結論から言うと、いまのサイエンスの世界で、それを可能にする機械を完成させるには、最低でも50~60年かかるということがわかった。

 そこで諦めがついて、そのような機械を作ることは断念しました。

 ただ、人の見た夢を映像にすることは、ほかの形でもどうにかできないかと諦められなかった。

 で突き詰めていくと、もうこれは映画で表現するしかないのではないかと考えました。

 そこで、映画監督になろうと気持ちが固まりました」

みんなが見ているであろう変な夢を僕も見てみたい

 なぜ、そこまで夢というものに興味を抱いたのだろうか?

「実は、僕は睡眠の質がものすごくいいからか、どうしてかわからないんですけど、夢をほとんど見たことがないんです。

 で、知人や友人から『今日、こんな変な夢を見たんだよ』とか、『こんなに怖い夢を見た』と話を聞くたびに、うらやましくなるというか。

 ほんとうに、そんな強烈な印象に残るぐらいの夢があるなら、僕も体験してみたい。

 でも、夢をあまり見たことがないので、どういうものなのか、どういう感覚になるのか、さっぱりわらないんです。

 みんなが見ているであろう変な夢を僕も見てみたい、ということが夢に心を惹かれる理由といっていいです」

【「郊外の鳥たち」チウ・ション監督インタビュー第一回はこちら】

【「郊外の鳥たち」チウ・ション監督インタビュー第二回はこちら】

【「郊外の鳥たち」チウ・ション監督インタビュー第三回はこちら】

【「郊外の鳥たち」チウ・ション監督インタビュー第四回はこちら】

「郊外の鳥たち」メインビジュアル
「郊外の鳥たち」メインビジュアル

「郊外の鳥たち」

監督:チウ・ション

出演:メイソン・リー、ホアン・ルー、ゴン・ズーハン、ドン・ジンほか

公式サイト:https://www.reallylikefilms.com/kogai

全国順次公開中

写真はすべて(C)️BEIJING TRANSCEND PICTURES ENTERTAINMENT CO., LTD.

, QUASAR FILMS, CFORCE PICTURES, BEIJING YOSHOW FILMS CO.,

LTD., THREE MONKEYS FILMS. SHANGHAI, BEIJING CHASE

PICTURES CO., LTD.,KIFRAME STUDIO, FLASH FORWARD

ENTERTAINMENT / ReallyLikeFilms

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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