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突然姿を消して二度と会えなかったあいつ。子ども時代の終わりを告げた忘れられない出来事を映画に

水上賢治映画ライター
「郊外の鳥たち」

 あのころ、自分はどんなことを考えて、どんな毎日を送っていただろうか?

 ふと、そんな子どものころのことを思い出してしまい、いまの自分と重ねてしまうのが、映画「郊外の鳥たち」といっていいかもしれない。

 子どもたちが小さな大冒険といえる旅に出ることから「スタンド・バイ・ミー」になぞられて語られる映画であるのはよくわかる。

 でも、青春期の忘れられない思い出に浸るというよりも、自分自身の現在と過去を映し出すというか。

 単なるノスタルジックな物語とは違う、自分自身の生きてきた道を振り返るような1作となっている。

 中国の新たな才能として注目を集めるチウ・ション監督に訊く。(全五回)

チウ・ション監督
チウ・ション監督

小学校6年生だったあの日、自分がいくら頑張ったとしても到達できない

ところがある。自分がいくら望んでも別れが訪れることがあることを知った

 はじめに本作を作るきっかけとして、チウ・ション監督は、先で触れた子どもたちの大冒険ともいうべき、行方不明になった友人を探すという実際に自分の体験したエピソードがあったことを公言している。

 このときの体験を監督はこう振り返る。

「これは、僕が小学校6年生のときに実際に体験したことになります。

 新学期がスタートしたにもかかわらず、クラスメイトの男の子が学校に来ない日が続いたんです。

 たとえば、彼がふだんから体があまり強くなくて休みがちだったら、あまり気にならなかったかもしれない。

 でも、彼はけっこう活発な明るい性格で、僕も含めて友だちも多くてよく遊んでいた。だから、なぜ学校に来ないのか、子どもながらに不可解で心配になりました。

 で、何かあったんじゃないかと、先生に聞いたんです。『学校を休んでますけど、どうかしたんですか?』と。

 そうしたら、先生もなぜかわからないですけど、答えてくれなかった。

 そうなると、僕らとしては、何かあったのか、それとも学校が嫌いになってしまったのか、いずれにしても彼に直接理由をききたい。

 何人か友達と話していたところ、『じゃあ、彼の家に直接行って、学校にまた来るように伝えよう』ということになって、金曜日の放課後に行くことにしたんです。

 その男の子は、学校から少し離れた村に住んでいました。一緒に行こうといった友達のひとりが、なんとなく彼の家の場所を知っているというので、その子を先頭にしてみんなで向かったんです。

 その後は、もう映画で描いたこととほぼ一緒で。

 その友だちは実際は、学校に来なくなった男の子の家の場所をはっきりとはわかっていなかった。

 僕たちは田舎町を抜け、鉄道の線路をつたいながら歩い続け、最終的には大きな橋の下に辿り着いて、そこから先に進むことができなくなった。

 その橋からどこに向かっていけばいいのかわからなくなって、みんなで橋の下で泣き出してしまいました。

 この経験というのが、僕の中ではいまも大きな衝撃として残っています。

 その理由を考えると、当時、小学校6年生だった僕は、世界は限りなく地続きで無限に広がっているものだと思っていました。

 同時に、友達もずっと離れ離れにならずに永遠に一緒に遊んだり笑ったりできると思っていた。

 でも、このとき、僕は時間も空間も限りがあるっていうことを悟った。

 つまり、物事には限界があって、永遠というものはない。

 自分がいくら頑張ったとしても到達できないところがある。自分がいくら望んでも別れが訪れることがある。そんなことを子どもながらに知った。

 いま思えば、そのときというのは、僕の心というのが子どもから大人へと切り替わった瞬間だったかもしれない。

 この旅は、僕の子ども時代の終わりを告げた出来事でした」

「郊外の鳥たち」より
「郊外の鳥たち」より

 このずっと心に残り続けていたことを、いつか映画にしたいと考えていたという。

「この旅の体験は、ずっと自分の心の片隅に残っていました。

 どうして、このような気持ちになったのか、ずっと疑問に思って考えていました。

 そこで、映画を作ることでひとつひとつを紐解いて、自分にとってどういうことだったのか、答えを見つけようと思ったのです。

 ですから、今回の映画作りというのは、大人になって改めて実際に自身の小学校6年生に起きた出来事をまたリサーチし直しているような気分になりました。

 なぜ、当時、男の子は学校に来れなくなってしまったのか。なぜ、僕たちは道に迷ってしまったのか。なぜ、道に迷った僕たちは泣き出してしまったのか。そういったことをひとつひとつ紐解いていきました。

残念ながら、彼とは二度と会うことはありませんでした

 わたしとしてはひとつ心の整理がついたところがあります」

 不粋な質問かもしれないが、その学校に来なくなってしまった男の子とはその後も会うことはなかったのだろうか?

「残念ながら、彼とは二度と会うことはありませんでした。

 彼がなぜ学校に来なくなってしまったのかもいまだにわかりません。

 同窓会などで当時のクラスメイトに会うことがあって、彼のことがたまに話題にあがるものの、いまだになにがあったのか知っている人はいません。

 また、同窓会に彼が来たこともありません。

 もう時代はネット社会ですから、本気で探せば意外と簡単に彼を見つけることができるかもしれません。

 僕は彼に会いたい気持ちがないわけではない。でも一方で、彼がなぜいなくなってしまったのかを変に探索したくないといいますか。この謎は謎のままにしておきたい気持ちがいまはあります」

(※第二回に続く)

「郊外の鳥たち」ポスタービジュアル
「郊外の鳥たち」ポスタービジュアル

「郊外の鳥たち」

監督:チウ・ション

出演:メイソン・リー、ホアン・ルー、ゴン・ズーハン、ドン・ジンほか

公式サイト:https://www.reallylikefilms.com/kogai

シアター・イメージフォーラムほかにて全国順次公開中

写真はすべて(C)️BEIJING TRANSCEND PICTURES ENTERTAINMENT CO., LTD.

, QUASAR FILMS, CFORCE PICTURES, BEIJING YOSHOW FILMS CO.,

LTD. , THREE MONKEYS FILMS. SHANGHAI, BEIJING CHASE

PICTURES CO., LTD. ,KIFRAME STUDIO, FLASH FORWARD

ENTERTAINMENT / ReallyLikeFilms

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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