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子ども時代の終わりを告げた忘れられない出来事を映画に。自身の化身の主人公に託したこと

水上賢治映画ライター
「郊外の鳥たち」のチウ・ション監督

 あのころ、自分はどんなことを考えて、どんな毎日を送っていただろうか?

 ふと、そんな子どものころのことを思い出してしまい、いまの自分と重ねてしまうのが、映画「郊外の鳥たち」といっていいかもしれない。

 子どもたちが小さな大冒険といえる旅に出ることから「スタンド・バイ・ミー」になぞられて語られる映画であるのはよくわかる。

 でも、青春期の忘れられない思い出に浸るというよりも、自分自身の現在と過去を映し出すというか。

 単なるノスタルジックな物語とは違う、自分自身の生きてきた道を振り返るような1作となっている。

 中国の新たな才能として注目を集めるチウ・ション監督に訊く。(全五回)

2つの世界を描くことで、ひとつの真意を描けるのではないか

 前回(第二回はこちら)、今回のデビュー作というプレッシャーはなかったこと、自然体で挑めたことを明かしてくれたチウ・ション監督。

 そのデビュー作は、地盤沈下が進んだためゴーストタウンと化してしまった地方都市が舞台。

 測量技師の青年ハオは、町の地質調査する中で、ある廃校となった小学校の机の中から、自分と同じ名の男の子の日記をみつける。

 そこには、開発が進む都市で日々を謳歌する子どもたちの日常生活が綴られており、ハオはなにか自身の過去にも重なっているように感じる。

 作品は、測量技師のハオのストーリーと、日記に書かれた子どもたちのストーリーがパラレルに進行。

 ただ、完全にパラレルで並行していくのではなく、時にシンクロして少年たちとハオの人生が重なったりする。

 なにか現実の物語と、過去の思い出が混じり合うような不思議なノスタルジーを味わう物語になっている。

 このような独特のスタイルになった物語について、監督はこう語る。

「この作品は、測量技師として働くハオを主人公にした、いわば大人のストーリーと、開発が進む町で生きる少年少女を主人公にした、いわば子どものストーリーが並行して進んでいきます。

 僕の中では、大人の物語と子どもの物語はパラレルに存在していると考えています。つまり同時に並行して存在している。

 ただ、時につながる、すれ違うことがあるものにしました。

 なぜ、そうしたかというと、世の中というものは不思議なもので、まったく違った時代や場所で起きたことがつながって大きなムーブメントを起こしたりする。

 あるちょっとした動きがきっかけとなって、大きな出来事へとなるときがある。

 そういった、人間の小さな営みが影響し合っていることを表現したかったのです。

 たとえば、ハオと仲間の地質調査チームが双眼鏡を忘れてしまう。その双眼鏡を子どもたちがたまたま見つけて拾ったがゆえに、友だち同士の中でちょっとした争いごとがおきてしまう。

 ちょっとした子どもたちのささやかな言動が、大人の大きな決断を揺るがせることになってしまう。そのことが、町のある場所が地盤沈下してしまう現象へとつながってしまう。

 そういった水に小さな小石が投げ込まれて起きて生じた波紋が大きくなっていくことを表現できたらと考えました。

 またもうひとつ、2つの世界を描くことで、ひとつの真意を描けるのではないかとも思いました。

 子どもの物語が古い地層で、大人の物語が新しい地層と位置付けると、過去と現在を対比させることができる。

 そのような形にすることで、初めて立ち上がるものがあるのではないかと考えました。

 たとえば、大人のハオは、日記を手にして幼少期にあった友情や自分の純粋な気持ちが甦る。そこで自分がほんとうは求めていること、大事にしたいことに気づくのです。

 そういったことを描く上でも、2つの世界を同時並行で存在する物語にしようと考えました」

「郊外の鳥たち」より
「郊外の鳥たち」より

自身の化身といってもいい主人公のハオに託したこと

 では、監督自身が「僕の化身といってもいいかもしれない」と明かした青年ハオに託したことはあったのだろうか?

「測量技師のハオは、ごくごくありふれたどこにでもいるような青年です。

 なにか仕事で大きな成功を収めたとかいった人物ではない、市井の人間といっていい。

 その人となりを表す、ひとつの特徴があるとしたら、彼は常に反省と反芻を繰り返している人物で。

 常に自分が間違ってなかったかとか、あのときああしとけばよかったのではないかといった感じで反省をしている。

 それに加えて、日々起きることや過去のことを思い出しては反芻していろいろとああでもない、こうでもないと考える。

 そういった繊細な感性の持ち主だと思うんです。

 たとえば、幼少期に少し太った子が亡くなってしまう。その子が亡くなったことに直接的にかかわってはいないけど、ハオには『ああしておけば』といった気持ちがあって責任を感じ、罪の意識を抱えてしまったりする。

 大人になってからも、周りのすべての人が何も問題ないと考えることに、不安を抱いてしまう。

 たとえばここの地質は問題ないとみんなは言うけど、ハオはひとり危険があるのではないかと思う。

 結果として、彼の懸念が当たって、地盤沈下で大きな穴が出現してしまう。

 そういった心配性すぎるように映るかもしれないですけど、繊細さをもって世界を見れる人物を中心に置いて物語を描きたいと思いました。

 ハオには、ここまで話したようなことを託したところがあります」

(※第四回に続く)

【「郊外の鳥たち」チウ・ション監督インタビュー第一回はこちら】

【「郊外の鳥たち」チウ・ション監督インタビュー第二回はこちら】

「郊外の鳥たち」ポスタービジュアル
「郊外の鳥たち」ポスタービジュアル

「郊外の鳥たち」

監督:チウ・ション

出演:メイソン・リー、ホアン・ルー、ゴン・ズーハン、ドン・ジンほか

公式サイト:https://www.reallylikefilms.com/kogai

シアター・イメージフォーラムほかにて全国順次公開中

写真はすべて(C)️BEIJING TRANSCEND PICTURES ENTERTAINMENT CO., LTD.

, QUASAR FILMS, CFORCE PICTURES, BEIJING YOSHOW FILMS CO.,

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映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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