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突然姿を消して二度と会えなかったあいつ。心の片隅に残り続けていた忘れられない出来事を映画に

水上賢治映画ライター
「郊外の鳥たち」より

 あのころ、自分はどんなことを考えて、どんな毎日を送っていただろうか?

 ふと、そんな子どものころのことを思い出してしまい、いまの自分と重ねてしまうのが、映画「郊外の鳥たち」といっていいかもしれない。

 子どもたちが小さな大冒険といえる旅に出ることから「スタンド・バイ・ミー」になぞらえて語られる映画であるのはよくわかる。

 でも、青春期の忘れられない思い出に浸るというよりも、自分自身の現在と過去を映し出すというか。

 単なるノスタルジックな物語とは違う、自分自身の生きてきた道を振り返るような1作となっている。

 中国の新たな才能として注目を集めるチウ・ション監督に訊く。(全五回)

チウ・ション監督
チウ・ション監督

僕の中でなにかが変わったあのクラスメイトを探しに出た出来事

一緒に探した当時の友人の目にどう映るのか、ちょっと興味があります

 前回の話(第一回はこちら)で、突然、学校に来なくなってしまい、二度と会うことのなかったクラスメイトとのことが本作を作ったきっかけのひとつであることを明かしてくれたチウ・ション監督。そして、そのときの体験が「自身の子ども時代の終わりを告げる出来事だったかもしれない」とも語ってくれた。

 実際に、出来事と向き合って監督自身は「ひとつ心の整理がついた」ということだが、この体験を振り返りながらこんなことも考えたという。

「この体験は、僕の心の片隅にずっとあり、ここまで抱えて生きてきたところがありました。

 それほど僕の中では、なにかが変わった特別な体験でした。

 なので、そのときに僕が実際に感じていたこと、その目に映っていたこと、心の中で思っていたことを作品では素直に描いたところがあります。

 そのことで、なぜ、道に迷って泣き出してしまったのかといったことを、僕自身は紐解くことができました。

 僕自身はそうやって紐解くことでひとつ心を整理することができて、あのとき、自分に生じた感情を理解することができた。

 ただ、一方で考えたんです。『あのとき、いっしょにクラスメイトを探しにいったメンバーはどんなことを感じていたのか?』と。

 もしかしたら、僕と同じようなことを感じていた人もいるかもしれない。でも、おそらくまったく別のことを感じていた人もいることでしょう。僕はずっと心に抱えてきましたけど、もうすっかり忘れている人もいるかもしれない。

 そう考えると、この映画を、もし当時、一緒に探しにいった友人らが見てくれたら、どんな感想を抱くのか、ちょっと気になりました。まだ感想をもらった友人はいないんですけど、当時の友人の目にどう映るのか、ちょっと興味があります」

慣れ親しんできた町であるにもかかわらず、ものすごく疎外感を感じた経験

 ここまで話してきたことのほかに、もうひとつ本作を作るきっかけがあったという。

「そうですね。

 ここまでの話に加えて、もうひとつ大きなきっかけがありました。

 僕は大学から北京で、そのあとの大学院は香港で、自分の故郷である杭州から離れてずっと勉学に明け暮れていました。

 その間、ほとんど生まれ故郷の杭州に帰ることはなかったんです。

 それで大学院を卒業したときに、久々に杭州に帰郷することになったのですが、町に戻ってびっくりしました。

 当時は北京オリンピック(2008年夏季)に向けて、大々的な工事があちこちで行われていて、都市がものすごいスピードで変容していっていた。

 見慣れたビルやお店が瞬く間に消えてしまって、街並みが大きく変わっていった。

 それに伴って、たとえば人の集う場所だったようなところが一転して廃墟になってしまったり、人の行き交う道だったところから人が消えてしまっていたりした。そういった場所をたくさん目の当たりにしたんです。

 そうなったときに、僕はなにか別の町にきたような錯覚に陥ったというか。

 自分が慣れ親しんできた町であるにもかかわらず、ものすごく疎外感を感じたんです。

 知らない町に迷い込んでしまったような感じで、ここには自分の居場所がないような気持ちになってしまった。

 生まれ育って勝手知ったる土地なのに、さまよい歩くような気分になってしまう。

 この体験も本作を作る大きなきっかけになっています。

 この体験が大きなインスパイアとなり、物語の主人公である青年のハオに反映されています。

 彼は測量士であるにもかかわらず、自分がどこにいてどこに進めばいいのかわからないでいるところがある。そして、ゴーストタウンに紛れ込んで、そこである日記を見つけて自分を見つめ直して、自身の居場所を見つけることになる。

 そういう意味で、主人公の彼は、杭州に戻ったときの僕の化身といっていいかもしれません」

初長編として意識したことはあまりなかったと思います

 こうやってひとつの物語ができていったとのことだが、本作は彼にとって記念すべき長編デビュー作。

 初長編作として意識したことはあったのだろうか?

「初長編として意識したことはあまりなかったと思います。

 これまで僕は短編映画を数多く発表してきました。

 もちろんいろいろなところで長編と短編では違ってくるところがあるのは確かです。

 ただ、作品に向かう姿勢としてはあまり意識に変化はなかった気がします。

 初長編だから、『これを絶対に描いてやろう』といった気負いのようなものはなかった。

 初長編だからといった変な意気込みみたいなものもなかった。

 いい意味で、変に気負うことなく、いつも通り、自分の描きたいことを描く。

 そういった形で臨めました」

(※第三回に続く)

【「郊外の鳥たち」チウ・ション監督インタビュー第一回はこちら】

「郊外の鳥たち」ポスタービジュアル
「郊外の鳥たち」ポスタービジュアル

「郊外の鳥たち」

監督:チウ・ション

出演:メイソン・リー、ホアン・ルー、ゴン・ズーハン、ドン・ジンほか

公式サイト:https://www.reallylikefilms.com/kogai

シアター・イメージフォーラムほかにて全国順次公開中

写真はすべて(C)️BEIJING TRANSCEND PICTURES ENTERTAINMENT CO., LTD.

, QUASAR FILMS, CFORCE PICTURES, BEIJING YOSHOW FILMS CO.,

LTD. , THREE MONKEYS FILMS. SHANGHAI, BEIJING CHASE

PICTURES CO., LTD. ,KIFRAME STUDIO, FLASH FORWARD

ENTERTAINMENT / ReallyLikeFilms

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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