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突然姿を消したあいつを探した体験を映画に。世界的映画監督を父に持つ俳優が主人公に決まった理由

水上賢治映画ライター
「郊外の鳥たち」より

 あのころ、自分はどんなことを考えて、どんな毎日を送っていただろうか?

 ふと、そんな子どものころのことを思い出してしまい、いまの自分と重ねてしまうのが、映画「郊外の鳥たち」といっていいかもしれない。

 子どもたちが小さな大冒険といえる旅に出ることから「スタンド・バイ・ミー」になぞられて語られる映画であるのはよくわかる。

 でも、青春期の忘れられない思い出に浸るというよりも、自分自身の現在と過去を映し出すというか。

 単なるノスタルジックな物語とは違う、自分自身の生きてきた道を振り返るような1作となっている。

 中国の新たな才能として注目を集めるチウ・ション監督に訊く。(全五回)

「郊外の鳥たち」のチウ・ション監督
「郊外の鳥たち」のチウ・ション監督

常識や固定観念にとらわれたくない

 前回(第三回はこちら)、主人公のハオに託したことが語られた。

 その話をきくと、ますますハオはチウ・ション監督自身の化身に思えてくる。

「そうですね。

 ハオはいろいろな物事に疑問を持つ。ただ、疑問を持つのだけれど、それに対する答えをなかなか見つけることができない。そして、どこか途方に暮れてしまうところがあります。

 僕も似たようなところがあります。

 僕はよく周囲の人たちから『夢想家だ』と言われましたし、いろいろなことに思考をめぐらせることも好きです。

 あと、みんなが普通に『当たり前』と考えていることは、まず疑ってかかるといいますか。

 常識や固定観念にとらわれたくない。そのこと自体を斜めから見ることで、違ったことが見えてくるのではないかと考えるところがあります。

 ですから、ハオにかなり近いと思います」

どんな状況であっても自分らしく生きられる。

そういう人物としてツバメは考えました

 こう監督が話すように、主人公のハオはいろいろなことに思考をめぐらせながら、自分がどのように生きればいいのか、いまのような生き方でいいのか、自身の道が見つけられず思い悩む。

 なにか、自分の居場所が見つからず、さ迷っているところがある。

 その対極にいる人物として存在するのが、ツバメ。

 それほど多くに登場する人物ではないのだが、彼女はひじょうに自由で生きる場所にもこだわりがない。

 とても自由な存在で、ある意味、停滞するハオに大きな刺激を与える人物になっている。

「人間的にも性格的にもハオと対照的な人物としてツバメは考えました。

 ハオは自分の生まれ故郷にいます。ただ、自分の慣れ親しんだ場所にいるにもかかわらず、変わりゆく町になにかなじめずにいる。どこかまったく知らない町にいるような気分になってしまって戸惑う。

 一方で、ツバメは他県から来た人間です。地元の人間ではないですから、この土地になじみようがない。

 ただ、彼女はそもそもこのなじめないことをあまり気にしていない。

 その土地になじむことや愛着を持つことにさほど執着していない。

 どんな環境であっても、どんな場所であっても、自分になじむかどうかはあまり重要ではなくて、とりあえず受け入れてしまうある種の寛容さがある。

 それから彼女は変化をいとわないといいますか。新しいものを楽しめる、興味を持てるひじょうに柔軟な感性の持ち主です。

 なにかどんな状況であっても自分らしく生きられる。そういう人物としてツバメは考えました。

 ハオと対照的な人物として存在することで、またひとつ違った世界が見えてくると思ったので」

「郊外の鳥たち」
「郊外の鳥たち」

メイソン・リーとの出会い

 では、演じたキャストについてもききたい。

 主人公のハオは、世界的な映画監督として知られるアン・リーの実子で「目撃者 闇の中の瞳」などに出演している俳優、メイソン・リーが演じている。

 彼とはどういった経緯で出会ったのだろう?

「ハオ役については、当初、オーディションを開催しました。

 ありがたいことにいろいろな俳優がオーディションに臨んでくれたのですが、残念ながらわたしの中で、『ハオはこの人で』と思える人が見つからなかった。

 なかなかしっくりした人が見つけられなくて、ずっと探していたんです。

 かなり難航したんですけど、そんなあるとき、今回のプロデューサーの方から提案されたんです。

 『台湾人でアン・リー監督の子息で俳優のメイソン・リーを知っているのだけれど、どうだろう』と。

 そこでプロデューサーにとりもっていただいて、メイソン・リーさんと直接会うことにしました。

 北京のとあるカフェでお会いしたのですが、もう話し始めて少し経ったぐらいで僕の中では、彼に『お願いしよう』と決心が固まっていました。

 彼でぜひと思った理由は2つあります。

 1つは脚本ののみ込みがとても早いと思ったから。

 会って少し話しただけで、すでにこの脚本をものすごく深く読み込んでいて、ハオについてもどういう人物であるかつかんでいた。

 さらにこの人物の作品上での役割についても、すごく理解をしていたんです。

 まず、このことが1つ目の理由になります。

 もう1つの理由は、彼は台湾系のアメリカ人で。ずっとアメリカで育っていて、台湾にいくことはあるのだけれど、中国にかんしてはまったく知らない。

 この町になじみがないわけではないのになじめない、どこか距離を感じてしまっているハオと、メイソン・リーさんのバックグラウンドはとても重なると思いました。

 ひじょうにバックグラウンドに似たところがあって、これは確実にマッチするのではないかと思いました。

 そうしたことから、彼にお願いしたいと思いました」

(※第五回に続く)

【「郊外の鳥たち」チウ・ション監督インタビュー第一回はこちら】

【「郊外の鳥たち」チウ・ション監督インタビュー第二回はこちら】

【「郊外の鳥たち」チウ・ション監督インタビュー第三回はこちら】

「郊外の鳥たち」メインビジュアル
「郊外の鳥たち」メインビジュアル

「郊外の鳥たち」

監督:チウ・ション

出演:メイソン・リー、ホアン・ルー、ゴン・ズーハン、ドン・ジンほか

公式サイト:https://www.reallylikefilms.com/kogai

全国順次公開中

写真はすべて(C)️BEIJING TRANSCEND PICTURES ENTERTAINMENT CO., LTD.

, QUASAR FILMS, CFORCE PICTURES, BEIJING YOSHOW FILMS CO.,

LTD., THREE MONKEYS FILMS. SHANGHAI, BEIJING CHASE

PICTURES CO., LTD. ,KIFRAME STUDIO, FLASH FORWARD

ENTERTAINMENT / ReallyLikeFilms

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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