主権者として子どもが政策立案過程に参画する欧州の取り組み(子ども議会、子ども・青少年フォーラム)
42.39%と、想像以上に低い投票率となった東京都議会議員選挙。
まだ年代別投票率は公表されていないものの、これまでの経験を踏まえると、若年層の投票率は相当低いことが予想される。
その原因としては、雨やコロナ禍などの一時的な外部要因だけでなく、メディア報道の量的・質的な課題や主権者教育の乏しさ、選挙規制の厳しさといった、構造的な問題が根底にあることは明らかである。
関連記事:10代の投票率は3分の1以下。主権者教育と政治報道を抜本的に見直さないと若者の投票率は上がらない(室橋祐貴)
その中でも、今回は、成人に至る過程(義務教育課程)での社会経験の少なさ、主権者教育を始める時期の遅さにフォーカスを当てたい。
高校から主権者教育を始める日本と幼少期から始める海外
まず、主権者教育を始める時期について。
これは、今年3月に報告書をまとめた文部科学省の有識者会議「主権者教育推進会議」でも強く指摘されていた点ではあるが、日本では2015年の18歳選挙権実現以降、各学校で主権者教育が行われるようになったが、基本的には高校での教育を想定しており、実際、主権者教育に関する副教材である「私たちが拓く日本の未来」(総務省と文科省で作成)は、高校生向け副教材となっている。
そのため、中学生までの間に現実的な事象を取り扱った主権者教育が行われることは滅多になく、主権者教育の観点から、学校内の自治活動(校則見直しへの生徒参加など)が行われることも少ない。
一方、諸外国では、幼少期の頃から、子どもの意思決定を尊重し、主権者教育を実施している。
たとえば、ドイツなどの国々では、小学生の頃から、現実的な事象を取り扱い、問題解決の手段として、「市役所への連絡方法」、「メディアへの連絡方法」、「デモの手順」など、投票以外も含めた政治参加の具体的な方法を教えられる。
ノルウェーでは、中学校の社会科などの授業の一環で、子どもたちが各党の「選挙小屋」を回り、候補者やその支援者に直接質問し、各党の違いなどをまとめる。
そして、選挙があれば、本物の政治家(候補者や青年部)を学校に招いて、討論会を行っており、本物の政党・候補者で模擬投票を行う。
諸外国では、選挙期間中に小学生と候補者が公開討論会で討論することは珍しくないが、日本でそういった取り組みはほとんどない。
また、これまで何度か記事にしている通り、学校内の意思決定への参画(学校内民主主義)も制度的に保障されているため、各学校で生徒が生徒同士はもちろん「大人」と議論し物事を決めていくケースが非常に多い。
関連記事:海外ではどのように「学校内民主主義」を実現しているのか?フランスの事例を参考に(室橋祐貴)
こうした経験を幼少期から積み重ねた上で、有権者となるのと、こうした経験もなく急に有権者になる場合とでは、市民としての行動(政治参加・社会参加)に大きな差が出るのは当たり前である。
子どもがまちづくりに参画
幼少期からの主権者教育の実施は、学校内にとどまらない。
まだ投票権や被選挙権を持った有権者ではないものの、主権者の一人として、まちづくりに参画するための様々な取り組みが行われている。
たとえば、有名な事例としては、ドイツのミュンヘン市で開催される「ミニ・ミュンヘン」が挙げられる。
これは、8月の夏休み期間3週間だけ誕生する、7歳から15歳までの子どもだけが運営する「小さな仮設都市」で、市長も議員も役所も銀行も働く所もすべて子どもだけ。働いてお金を得て、税金も納め、市長や議員も選挙で選ばれる。
仮設都市といっても、オンライン上でやり取りをするのではなく、実際に街の中に仮設都市を作り、そこでまちづくりを行う。
昨年に行われた「ミニ・ミュンヘン」は、コロナ禍でクラスターを避けるために、ミュンヘン市全体が会場となり、市内全体を4つのゾーンにわけ、40箇所に運営拠点を作り、本物の街で自分たちの街を作った。
詳しくはこちらの記事(夏休み・4000人の子どもの街〈ミニ・ミュンヘン〉分裂、不正選挙、遠隔コミュニケーション。2020年7月27日〜8月16日の記録)をご覧いただきたい。
まちづくりの合意形成をしていく上では、もちろん意見が分かれ、幼少期であれば「喧嘩」になることも珍しくない。
ただ、「ミニ・ミュンヘン」では、子ども同士のケンカについても考えさせ、子どものケンカに成人が干渉したりはしない。
それは大人になってからもトラブルをどう処理するかは重要であり、その方法についても学ぶ必要があるからだ。
ただ急に自分たちだけでトラブルを処理して、と言われても難しいため、「ミニ・ミュンヘン」の市民になる前に「喧嘩アカデミー」でトラブルや衝突の処理の仕方を学ぶ。
喧嘩をしないのではなく、喧嘩をしても仲直りをする方法を学ぶのである。
そして、ミュンヘン市が面白いのは、「ミニ・ミュンヘン」でまちづくりを学ぶだけではなく、本物のまちづくりにも子どもが参画している点である。
それが、「こども・青少年フォーラム」。
日本でも、「ミニ・ミュンヘン」を参考にした事例や、北海道・ニセコ町の「小学生・中学生まちづくり委員会」といった取り組みもあるが、参加者が非常に限られており、学校との連携が少ないのが大きな違いである。
東京都では「住民参加型予算」として、高校生も対象にした「都民による事業提案制度」が行われており、画期的ではあるものの、学校と連携していないために、こうした取り組みが高校生本人に知られることがほとんどなく、非常にもったいない状態となっている。
この背景には、もちろん「子どもの権利」重視への意識の差が根底にあるが、ミュンヘン市では、市の専門職として、市の様々な施策において子どもの参画を促す役割を担う、子ども参画専門員(Kinderbeauftrage)が存在し、常日頃子どもの参画について考えている。
こうした存在がいるからこそ、実効性の伴った形で、数多くの子どもがまちづくりに参画できる環境が整っていると言える。
日本の「子ども議会」との決定的な違い
ただ日本も全くこうした取り組みをやっていないわけではなく、「子ども議会」を開催している議会も珍しくない。
しかし、同じような名前でも、実態は大きく異なる。
それは、権限の違いに集約される。
日本の「子ども議会」は、その多くが「体験型」で、あくまで見学や交流がメインとなっており、子どもの意見を行政に反映させるのが主目的の取り組みではない。
つまり、これも何度も書いている通り、「子どもの参画のはしご」でいう「非参画状態」であり、これを「参画状態」へと改善しなければならない。
一方、たとえばフランスでは、毎年子ども議会が開催されており、国民議会の定数と同じ577名の小学校5年生がジュニア代表として、パリの国民議会に集まり、法律案の議論が行われる。
そして、子ども議会の提案は大臣、国民議会議長に提出され、実際に子ども議会が出した提案をもとに実際の法律になったこともある。
日本では特に国レベルの施策が少なく、山形県では、全ての審議会等に若者委員(20-30代)を1名以上登用することを目標としており、達成率も高いが(令和1年7月時点で100%)、国の審議会に若者委員がいることはほとんどない。
その意味では、海外の多くが法律レベルで子どもの参画を制度化しているように、日本でも法律で子どもの参画を保障するよう検討が進むことを期待したい。(「子ども基本法」や「若者の政治参加推進基本法」など)
また筆者が代表理事を務める日本若者協議会では、幼少期から主権者意識を醸成するために、海外の取り組みを参考に、国会本番さながらに現実的な事象について議論し、政策提言を行う「こども国会」を企画しており、民間レベルでも、過度に「子ども」扱いしない質の高いプログラムが充実することを期待したい。