海外ではどのように「学校内民主主義」を実現しているのか?フランスの事例を参考に
世界中で実現している「学校内民主主義」
校則見直しに代表されるように、現状児童生徒が学校運営に参加できていないことから、1月28日、筆者が代表理事を務める日本若者協議会では、児童生徒、保護者、教職員が互いに話し合いながら、校則や学校行事などを決めていく「学校内民主主義」を日本でも実現するよう、文部科学省に提言書を提出。
全国各地の弁護士会や教育委員会からもブラック校則の見直しや、見直しの過程において児童生徒の声も聞くよう求める通知も出始めており、日本でも「学校内民主主義」が実現する流れができつつある。
長崎県教育委員会は3月5日までに、「肌着の色の確認行為などは人権侵害にならないよう配慮すべき」として各県立学校長に校則の見直しを求める通知を出し、その中で、校則を見直す際は、児童生徒や保護者らが何らかの形で参加できるよう求めている。
熊本市教育委員会でも校則・生徒指導のあり方の見直しについて議論されており、2月25日に提示された案では、下記のように、児童生徒の参画の明文化が検討されている。
一方、こうした学校運営への生徒参加は、国連子どもの権利委員会が勧告しているように、ヨーロッパ諸国をはじめ、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、韓国、台湾など、世界中で行われている。
これらの国々では生徒参加が法制化されているのが、日本と大きく異なる点である。
では具体的にどのように規定されているのか?フランスの取り組みについて、武庫川女子大学の大津尚志先生に解説してもらった。
フランスの生徒参加制度
フランスでは、上記の国連子どもの権利委員会の勧告の中で、地方と全国のレベルで教育政策について子どもの意見を聞くべきと求めているように、学校内だけではなく、各地域、国レベルでも子どもの意見を聞く仕組みが整備されている。
具体的には、1968年の大学紛争が生じた時期から徐々に制度化され、学校運営に生徒・父母の参加が保障されるようになり、さまざまな改変を経て現在に至っている。
全体像をまとめた図が上の図になるが、すべての生徒が有権者であり、各代表に立候補する権利を持っている。
学校内では、生徒代表(2名)が各学級から選出される。学級ごとに開催される学級評議会は校長、担任、各教科担当教員、生徒指導専門員らとともに生徒代表、父母代表がメンバーとして加わる。成績判定や進路判定(フランスでは中学から高校へは入試ではなく学校内での「進路指導」によって決定される)にかかわる権限を持ち、他にもクラス内でおきている問題について話し合われたりする。
さらに学級代表の中から、4名の代表者が選挙で選ばれ、全生徒から選出される高校生活のための評議会の委員のうち副議長1名とあわせて合計5名の生徒が「学校管理評議会」に参加する。そこでは学校にかかわるさまざまな事項(予算、学校教育計画、校則、健康、安全など)について討議される。
また高校では「高校生活のための評議会」が設置され、学校生活に関するあらゆる問題について話し合いが行われる。
大津先生が行った調査では、「チョコレートの自動販売機を設置して欲しい」「授業がない時の集まる場所が欲しい」といったことが議題になっていたという。
また、生徒代表制度が実質的に機能するために、生徒代表の養成に関する通達が出されている。
生徒代表は「教育共同体」の一員として各評議会に参加するために、リセ(後期中等教育機関、日本の高校に相当)のさまざまな機能の理解、公的文書を読むこと、コミュニケーション能力、議論する能力が求められる。生徒代表に選出された生徒に、「代表教育」が実施されており、それは、コレージュ(前期中等教育機関、日本の中学校に相当)・リセでは主に生徒指導専門員の仕事となっている。(たとえば「自分の意見で発言するのではなく、クラスの意見を集約して発言すること」など)
そして、こうした生徒参加の仕組みは学校内にとどまらず、各地域や国レベルの委員会にも参加している(上の図の右側)。
各地域では、「高校生活のための大学区評議会」(大学区はフランスを30に分けた地方行政単位、日本の県に相当)が置かれ、大学区長(日本の教育長に相当)らと学校への予算配分等について議論が行われる。
また、国レベルでも「高校生活のための全国評議会」が設置され、「中央教育審議会」にも高校生代表の参加枠がある(1991年に法律で規定)。
他にも学校内には、常任評議会と懲戒評議会がある。常任評議会は、学校管理評議会が開かれる前に議題の整理を行い、懲戒評議会は生徒の懲戒処分を下す時に開かれる。議決をとる際、校長の一票も生徒代表の一票も同一のものとしてカウントがとられる。
上記は主に高校のケースだが、中学校でも同様に、「中学生活のための評議会」の設置等に関する政令が2016年に出されている。
校則の内容も法令で規定
日本では数年前から人権侵害にもあたるような「ブラック校則」が大きな話題となっているが、フランスでは校則の内容も法令で規定されている。
フランスの校則に関係する法令としては、2011年政令および、それをうけて細部を規定している通達がある。
この通達は「前文」「校則の目的」「校則の内容」「校則の改訂」という構成となっている。
前文で校則は「規範のヒエラルキーの原理に合致したものでなければならない。」として、フランス共和国の憲法、国際条約、法律、規則といったヒエラルキーの下位におかれるものであることが示されている。
校則の内容としては、校則に含まれるべき内容が例示されており、市民性の育成と、学校という教育共同体のアクターの関係を定めるものとされる。
また校則の改正について、校則の改正手続きなどについて、高校の場合は「高校生活のための評議会(CVL)」 に相談することを必須としている。改正は学校管理評議会の権限となっている。
さらに「情報の広報」として、校則は教育共同体の構成員(保護者を含めて)に知らせなければならないことが述べられている。
実際に、校則は生徒手帳に記載される。学校と生徒との間の「契約書」のような扱いをうけ、本人、保護者もがサインをすることが求められる欄がつくられている 。保護者のサイン欄があるのは、校則には保護者にかかわる(連絡など)規定があるからである。
市民性教育の一環として
フランスでは今でも学生がデモといった社会運動に参加することは珍しくない。
その理由として、大津先生は政治的、現実的な問題を授業で扱っていることや、教師は自分の意見をいい、場合によってはデモに参加することもある点、また団体活動に積極的に参加している点を指摘する。
確かに、特定の政党の支持または反対することにかかわる表現は禁止されるが、例えば「難民問題」など、政治的に意見が分かれかねない問題に関する学習は広く行われる。教師は自分の意見をいい、それはあくまで「唯一の正解」ではなく「一つの考え」として生徒に受け取られる。
教師も学校外であればデモに参加することがある。
高校での学習は、バカロレア試験合格にむけて行われる。同試験では長時間の試験で長文の論述が課されるのは日本でも知られているが、高校で通常から自分の見解を文章化する学習を行っている 。「唯一の正解」を記憶して答案に戻すという教育が行われているのではない。
もう一つは「結社の自由」の行使の一環として、高校生による意見表明の結社が行われていることが挙げられる。
例えば、2019年の時点で中央教育審議会委員を務めるジャムテル君は「高校生の権利(droits des lycéens)」という団体に所属している。同じくデドゥヴィズさんは「高校の未来(L’avenir lycéen)」という団体に属し、国会で「進路指導、高等教育への進学と第一学年での学業成功」という委員会にほかの高校生・大学生代表とともに参加している。
他にも、主な高校生団体としては、高校生民主独立連盟(FIDL)、高校生全国同盟(UNL)、高校生一般組合(SGL)、高校生全国運動(MNL)などがある。
例えば、FIDLは「同性愛が問題ではない、同性愛嫌いが問題」というキャンペーンを行っている。MNLは、バカロレア改革における平常点40パーセント加味を「不平等をもたらすもの、教育の私物化をもたらすもの」と批判している。
他にも、学校外では、毎年子ども議会が開催されており、国民議会の定数と同じ577名の小学校5年生がジュニア代表として、パリの国民議会に集まり、法律案の議論が行われる。
子ども議会の提案は大臣、国民議会議長に提出され、実際に子ども議会が出された提案をもとに実際の法律になったこともある。
そもそも、フランスでは中学校自体が「民主主義の習得の場」と位置付けられており、学校教育目標に「将来の市民」を育成することを掲げているところも少なくない。
これまで見てきた生徒参加制度は、その民主主義の習得、市民性教育の一環であり、これらを通して自由(他者の尊重)や平等(差別の拒否)等について学ぶ。
(解説以上)
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日本では学校関係者だけではなく、保護者も含めてこうした意識が非常に弱い。
しかし、日本の市民社会を成熟させるためには、必須の取り組みであり、日本でも制度化の議論が進むことを期待したい。