1.5度目標に整合した2035年NDC(温室効果ガス削減目標)は?最低66%に!
気候変動対策に消極的(懐疑的)なドナルド・トランプ前米大統領が再選する中、明日、11月11日から22日まで、COP29(国連気候変動枠組条約第29回締約国会議)が始まる。
COP29では気候変動の影響をより大きく受ける途上国に資金を提供していく「気候資金」を先進国がどれだけ拠出できるかが大きな議題の一つだが、トランプ前米大統領の再選で、交渉の難航が予想される。
一方、日本政府内では、2025年2月までに国連に提出する予定の2035年NDC(温室効果ガス削減目標)の検討が最終局面を迎えつつある。
現状、報道で流れてくる数値や経済団体が提言している数値としては、60%や66%が出ている。
例えば、経団連は、2050年カーボンニュートラルに直線的な数値目標として、2035年60%削減、2040年73%削減(いずれも2013年比)という数値を提言している。
66%という数値は、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が2023年3月に発表した第6次統合報告書で示した、「1.5度に気温上昇を抑えるためには、2035年までに世界全体で60%の削減が必要である」(2019年比)という科学的な分析結果から来ている。
IPCCは2019年比で60%削減だが、日本政府が基準にしている2013年比で計算し直すと、66%削減という数値になる。
最低でも66%以上が必要
ではパリ協定で掲げられ、自公連立政権合意文書でも掲げられた1.5度目標を達成するために必要な2035年NDCは、いったいどのくらいの数値なのか。
関連記事:自公連立政権合意文書に「1.5度目標」が明記!なぜ「1.5度目標」が重要なのか?(室橋祐貴)
結論としては、78%であり、最低でも66%になる。
なぜIPCCが示している66%では不十分なのかと言えば、この数値はあくまで世界全体での削減量であり、先進国と途上国の状況・関係を考えれば、先進国にはそれ以上に多い削減量が求められるからである。
60%という数値に関しては、上記記事「自公連立政権合意文書に「1.5度目標」が明記!なぜ「1.5度目標」が重要なのか?(室橋祐貴)」で解説しているように、1.5度目標を達成するためには、直線的なトラックでは不十分であり、60%という数値はあまりに消極的で、先進国として失格と言わざるを得ない。
世界のカーボンバジェット(炭素予算)、先進国としての能力・責任を踏まえると、日本に求められる2035年NDCは、筆者が代表理事を務める日本若者協議会が、第七次エネルギー基本計画の検討を進める経済産業省・資源エネルギー庁「総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会(第63回会合)」のヒアリングで発表したように、78%というのが一つの目安となる(ドイツのシンクタンクClimate Action Trackerの分析による)。
詳しくはその時の資料を見てもらいたいが、2035年NDCを1.5度目標に整合した基準にした上で、それに準じた第七次エネルギー基本計画を策定する必要がある。
さらに、化石燃料に依存し、毎年20兆円以上もの資金を海外に流出している現状を踏まえれば、再生可能エネルギーの主力電源化によって、早期にエネルギー自給率を高めていくことが、経済的にも、エネルギー安全保障上も重要である。
またCO2を最も排出しているのが石炭火力であり、期限を切った上で、石炭火力発電を段階的に廃止していく必要がある。
そのためにも、まずは目標を適切な高さに設定する必要があり、2035年NDCを78%という数値に近づけていくことが重要である。
先日の記事(自公連立政権合意文書に「1.5度目標」が明記!なぜ「1.5度目標」が重要なのか?(室橋祐貴))では、現在、2035年NDCや、2040年時点での電源構成を示す「第7次エネルギー基本計画」に向けた議論が行われており、そこできちんと1.5度目標に見合ったNDCや、電源構成が示されるかが注目される、と最後に書いたが、今出ている60%や66%という数値では不十分であり、それ以上に引き上げていくことを強く求めたい。