乗り物は個人所有からシェアの時代へ オスロのカーフリー政策の今
「東京の中心部で、一般車両の通行を規制する」ということは、可能だろうか。
ノルウェーの首都オスロは、猛スピードで、その理想に近づこうとしている。
急激な変化についていけない、車がある生活に慣れた人々からは、反対の声もあがっている。
6月末、レイモン・ヨハンセン議長(労働党)が、中心地に報道陣を呼び寄せ、「電動スクーター」で登場した。
車だけでなく、自転車やスクーターも電動化
ノルウェーといえば、電気自動車(以下EV)を普及させる先進国として、各国から注目されている国だ。
今、自転車やスクーターなども、政治家の率先で「電動化」・「優遇対象化」されようとしている。
政治家から背中の後押しが必要な国
化石燃料から、電動化への移行。
乗り物の購入で、財布のひもを緩めなければいけないのは、市民。各企業も、従業員が使用する乗り物などを電動化するのは大変だ。
オイルマネーで経済的に豊かであり、高い税金を払うノルウェー国民。新しいことをする際には、政治家や公的機関から「補助金」をもらうことに慣れている。
無料にはできない乗り物の電動化に、市民や企業を巻き込むためには、この国では政治家の後押し、そしてメディアやSNSでの議論が必要不可欠だ。
車以外の乗り物の手段を
オスロでは、すでに電動アシスト自転車の一部購入者や企業に対して、補助金制度が実行されている。
初の試みに、当初はメディアやSNSでバカにされていたが、割引が嫌いな人はいない。試験制度が発表されるたびに、申し込みは殺到。オスロのこの政策は、その後、隣国スウェーデンでも取り入れられた。
今回、ヨハンセン議長が電動スクーターに乗っていたのには、理由がある。来年から、電動スクーターのシェア制度を検討しているためだ。
首都で、ガソリンやディーゼル車以外の乗り物を、人々に選んでもらうには、どうしたらよいだろう?
EVの優遇政策は、すでに成功している。シティバイク、電動の車やスクーターの貸出制度など、市民に魅力的な「選択肢」を、オスロは増やそうとしている。
小国だからこそ、国際市場にとってのラボになれる
「オスロは人口が少ない都市です(67万人)。しかし、技術の進化にすぐに適応する若い住民で溢れています。だからこそ、新しいテクノロジーを試すうえで、国際市場にとっても魅力的な『試験場』になることができます」、とヨハンセン議長は話す。
「都市は、今新しいかたちへと変化しようとしています。そこで起きている課題が、公共空間の奪い合いです」。
「ノルウェーは、長期間に及ぶ努力で、EV市場を作り上げることに成功しました。しかし、EVは、化石燃料を使う車と、同じスペースを必要としてしまいます。テスラだからといって、サイズが小さくなるわけではありません」。
だからこそ、自転車、スクーター、キックスクーターなど、小型の乗り物の貸出制度が、これからもっと必要になってくると語る。
車だけではなく、個人が乗り物を自分だけで所有する時代は、少しずつ終わりを告げる。
これからは、電動化された乗り物を、住民が必要な時にシェアすることが、当たり前になってくるだろうと、同氏は予言する。
車の出入りが規制された、ノーベル平和賞のシンボル
オスロ市議会の政治家が仕事をするオスロ市庁舎。ここは、ノーベル平和賞の授与式がおこなわれる場所でもある。館内には大量の美術品があり、無料公開されているため、人気の観光スポットでもある。
市庁舎を囲む広場には、これまでたくさんの一般車両や大型の観光バスが行き交っていた。
今の市議会体制になって、3年目。中心部のカーフリー政策のために、市庁舎前は、車両の出入りが6月から禁止された。
かつて、車や観光バスが走行し、駐車していた場所には、イスや花壇が並ぶ。
その中で、違反だとわかっていながら、小さな抵抗として、わざと車で走行する住民もいる。
「これまでの当たり前」を変えようとするとき、反対する人は必ずでる。
様々な人の思いが交錯する中、オスロの「車依存の都市づくりに、お別れを」作戦は、進んでいく。
Photo&Text: Asaki Abumi
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