緑の党が権力を握ったノルウェーでは混乱が起きている。なぜ苛立つ人が多いのか。車や石油を敵にまわす代償
欧州で目立つ「緑の党」が権力を握ると、何が起こるのか?
緑の環境党が主導にたち、環境問題を解決しようとするとき、顕著となるのはテクノロジーによる解決方法よりも、これまでの日常生活の習慣や文化を「規制・禁止」しようとする傾向が強いことだ。革新的なアイデアも多いが、産業ビジネス業界を敵にまわしたり、石油業界で働く人々や車の運転手を「環境破壊の原因」と思わせる発言や政策が多いため、日本では導入が難しそうなやり方も目立つ。
理想が高い緑の女神に、ついていけない人もいる
環境・交通通信局長のラン・マリエ・ヌイェン・ベルグ氏(緑の環境党)は、新市議会の昨年の記者会見で、「屋内喫煙のように、車の運転も、同じように居心地の悪いものとなるでしょう」と、環境問題をみんなで解決しようと、チャームポイントの笑顔で語った。しかし、彼女のポジティブな考えと笑顔に、誰もが素直に同調できるわけではない。
ベルグ氏は、若い女性・移民風の外見・政治経験が浅く、メディア対応が時に上手にできないという要素で、SNSや新聞社などのウェブのコメント欄では、一部はヘイトスピーチともみられるような彼女に対する厳しい書き込みが続いている。同氏は自「転」車を愛用しており、大気汚染の影響で喘息(ぜんそく)患者でもある。
理想が高い緑の環境党は、批判的なネットユーザーからは「狂人たちの環境党」、「夢の環境党」と呼ばれるようになった。
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「こんなことになるとは思わなかった」と後から悲鳴をあげる人々
昨年の地方統一選挙では、オスロ市での緑の環境党への支持率は8.1%だった。それは、つまり、残りの市民はこの党に関心がなかったということにもなる。政治経験が最も浅い政党が、市議会で最も注目と批判を浴びやすい部局のイスに座っているのだ。電気自動車も含む、車を2019年までに中心地から排除するというカーフリー政策も含め、「こんなことになるとは思わなかった!」と後からショックを覚えた人は多かっただろう。
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石油、車、消費社会、どれも環境の悪
緑の環境党は石油、車、道路建設、過剰な消費社会、肉中心の食生活などを環境破壊の源として全面的に押し出しているため、該当する業界関係者や消費者であれば、心中イライラしている人は多い。苛立つ人々の中には、富裕層のほかに、現政権を担う反対勢力の保守党や進歩党も含む。
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誰もが未来と環境を考え、今の生活を制限しなければいけないのか?
市民の誰もが未来の子どもたちの健康を考える余裕があるわけではなく、自分たちの今の日常生活が不便になることに困惑する人も多い。そのように眉をしかめ、困惑する人々を、「自分たちのことばかりを考え、将来の子どもや環境への影響を考えないエゴイスト」と思わせてしまうような雰囲気づくりは、得策だろうか?
報道陣と国民が、同じ世界観でいるとは限らない
異例の選挙キャンペーンや政策が目立つので、報道陣にとっては記事にしやすい。だが、メディアで盛り上がっているからといって、編集者や記者が、読者や国民と同じ目線でいるとは限らない。現地報道がポジティブだったから、政策はよくわからないけれど、「なんとかしてくれそう」、「クールだから」投票してみた、そういう人もいただろう。
緑の改革を受け入れる、その準備と覚悟はできているか?
もし、2017年の国政選挙で、緑の環境党が異例の勝利を再びおさめ、党員が環境大臣にでもなれば、国レベルでこれまでの常識を打ち破った政策転換がおこなわれることになる。市町村レベルから国レベルになれば、石油業界にメスが入ることは間違いない(=失業者増加)。
緑の人々は理想が高く、猛スピードで長距離マラソンを駆け抜けていく。ついていけず、とり残された人々は戸惑うだろう。微笑みながらも、妥協しない緑の女神は、待ってはくれない。ノルウェー国民に、その準備と覚悟ができているだろうか?
Photo&Text:Asaki Abumi