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金正恩「常用兵器も世界最強に」※通常兵器の意味

JSF軍事/生き物ライター
北朝鮮・朝鮮中央通信2024年9月19日より「火星砲-11タ-4.5」の試射

 北朝鮮の朝鮮中央通信は9月19日、重量4.5トンの超大型弾頭を搭載した新型戦術弾道ミサイル「火星砲-11タ-4.5」の試射を18日朝に実施し、成功したと伝えました。関連記事

 朝鮮中央通信によると、同ミサイルは飛行距離を最大射程の半分程度に抑えた中等射程320km先の目標への命中精度と弾頭威力を検証したとしています。同ミサイルは今年7月1日に最大射程500kmと最小射程90kmに設定した試射を実施済みでした。関連記事

상용무기(常用武器)=通常兵器

 現地指導した金正恩総書記は試験結果に大きな満足の意を表し、「われわれは核戦力を引き続き増強するとともに、常用兵器部門も世界最強の軍事技術力と圧倒的な攻撃力を保有していなければならない」と強調しました。この段落の「」内の出典は朝鮮中央通信日本語版からそのまま引用です。

 この”常用兵器”とは通常兵器の意味になります。核戦力と対比している文脈からも理解できると思います。

  • 日本語:通常兵器
  • 朝鮮語:상용무기(常用武器)
  • 韓国語:재래무기(在来武器)
  • 中国語:常规武器(常規武器)
  • 英語:conventional weapon

 言葉としてはどれも同じ意味になります。北朝鮮と韓国で使う言葉が違うことや、「상용(サンヨン)」は常用、商用、賞用、常傭など同音異義語が多くあるので取り違えに注意してください。

 朝鮮中央通信は「상용무기(常用武器)」を日本語版に翻訳する際に武器を兵器に変えましたが、常用は通常には変えずにそのままとしました。ただしこの差異は特に深い意図は無いように思えます。

超大型通常弾頭=貫通弾頭(バンカーバスター)

 9月19日付け朝鮮中央通信の発表文では「新型戦術弾道ミサイルには、設計上4.5トン級の超大型常用弾頭が装着された。」とあります。世界的に見て短距離弾道ミサイルの弾頭重量は500kgが標準的です。つまり火星砲-11タ-4.5は標準の10倍近い大重量弾頭を採用しています。

 前回7月1日の試射を報告した7月2日付け朝鮮中央通信の発表文では「新型ミサイルは、4.5トン級の超大型弾頭を装着する戦術弾道ミサイルである。」とありました。つまり火星砲-11タ-4.5が常用弾頭(通常弾頭)であることが公式に確認されたのは9月19日付け朝鮮中央通信の発表文が初めてです。

 核弾頭ではなく通常弾頭であること、つまり4.5トンもの大重量は核弾頭を運搬する目的ではないという意味です。それは核兵器が既に小型化できていることを示唆しています。

 弾道ミサイルに搭載する超大型の通常弾頭の意味するところは貫通弾頭(バンカーバスター)です。弾頭の鋼鉄製の外殻を分厚くして大重量と頑丈さをもって地下施設を貫通し粉砕します。このため貫通弾頭は重量の割に内蔵された炸薬の量は比率として少なく、貫通を必要としない目標への攻撃には効率が悪くなります。

 短距離弾道ミサイルの通常弾頭の貫通型で大重量化を目指しているのは韓国と北朝鮮くらいで、先に始めたのは韓国です。韓国軍は来月の10月1日の「国軍の日(第76回)」の軍事パレードで弾頭重量8~9トンと噂される高威力玄武こと「玄武5」の実物をお披露目するのではないかと韓国各紙で報道されています。なお韓国軍は2年前の2022年の国軍の日(第74回)で玄武5らしき映像を一瞬だけ公開していましたが、詳しい説明は何もありませんでした。関連記事

 北朝鮮は韓国と同種の兵器を保有して対抗しようとしています。しかし北朝鮮ならば核弾頭を選べるので、地下施設貫通(バンカーバスター)の任務ならば核弾頭型に任せてしまってもよい筈です。なぜわざわざ通常弾頭の大重量貫通型を用意しようとしているのか理解に苦しむ点となっています。

 そして金正恩総書記は「常用兵器も世界最強に」と発表している以上、弾頭重量4.5トンではまだ不足で、韓国軍の玄武5の弾頭重量8~9トンを超える更なる大重量化を指令している可能性があります。もしそうなら世界最強の通常兵器のスペックであることに拘っているのかもしれません。

軽量弾頭への換装による射程増大の可能性

 4.5トンもの大重量弾頭を運搬するためにはミサイルを大型化する必要があります。もしこの状態から一般的な弾頭サイズの500kgに乗せ換えたら、軽量化によってそれだけで射程が大きく増えるでしょう。既に7月1日に火星砲-11タ-4.5は最大射程500kmの試射を済ませています。おそらく弾頭を500kgに軽量化すれば数倍の射程を発揮できる筈で、つまり日本にまで届く準中距離級以上の弾道ミサイルに発展することが容易です。

 現状の北朝鮮の日本攻撃用の準中距離弾道ミサイルは旧式の液体燃料式「ノドン」が主力ですが、固体燃料式の準中距離級の「北極星-2」や「火星砲-11タ-4.5」の軽量弾頭版(未確認)、中距離級極超音速滑空ミサイル「火星砲-16ナ」など日本を狙える可能性のある射程の新型ミサイルは新開発された種類がどんどん増えています。

 今のところ北朝鮮にとって日本攻撃用はまだ優先順位が低いのかノドンを本格的に更新する動きは見せていませんが、近い将来に必ず新型ミサイルを量産して更新する筈です。その時に日本攻撃専用の準中距離級(射程1200kmあれば東京を狙える)を量産するのか、あるいはグアム攻撃用の中距離級(射程3500km以上)を日本攻撃用と兼用とするのか、量産方針はまだ不明です。

 火星砲-11タ-4.5の軽量弾頭版(未確認)は、日本攻撃用の準中距離級の弾道ミサイルの候補となり得るでしょう。ただし軽量弾頭版は北朝鮮の計画にはまだ無く、あくまで可能性の一つとなります。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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