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北朝鮮が「火星砲-11タ-4.5」短距離弾道弾の試射に成功、弾頭重量を2.5トン→4.5トンに増強

JSF軍事/生き物ライター
北朝鮮・朝鮮中央通信より写真は二つとも2021年3月26日発表「新型戦術誘導弾」

 北朝鮮は7月2日、前日の7月1日に発射した短距離弾道ミサイル(SRBM)2発について新型戦術弾道ミサイル「火星砲-11タ-4.5」の試射を成功させたと報じました。4.5トンの超大型弾頭を搭載しているとしています。

2024年7月2日北朝鮮公式発表の要約

ミサイル総局は7月1日、新型戦術弾道ミサイル 「火星砲-11タ-4.5」の試射を成功裏に行った
「火星砲-11タ-4.5」は4.5トンの超大型弾頭を搭載

試験内容は最大射程500kmと最小射程90kmの二つを設定

同ミサイルの250km中等射程の試射も今月中に行う予定

出典:新型戦術弾道ミサイルの試射 | 平壌7月2日発・朝鮮中央通信

 7月1日の韓国軍の観測では「600km飛行と120km飛行、短い方は失敗の可能性」としていたのに対し、北朝鮮は成功だったと反論しています。ただしミサイルの写真の発表がなく、発射したのが本当に火星砲-11タの改良型だったのか分かりません。

火星砲-11タ-4.5(화성포-11다-4.5)

 火星砲-11タ-4.5はおそらく火星砲-11タの改良型で、火星砲-11タは「火星-11カ」の胴体を延長した拡大型と推定されています。これを更に大型化したものが火星砲-11タ-4.5だと考えられます。

  • 火星-11カ(弾頭重量0.5トン)
  • 火星砲-11タ(弾頭重量2.5トン)※胴体延長
  • 火星砲-11タ-4.5(弾頭重量4.5トン)※更に胴体延長?

 なお朝鮮語の「カ・ナ・ダ・ラ」は英語でいう「A・B・C・D」なので、火星砲-11タ-4.5は「火星砲-11C-4.5」くらいの意味合いになります(ただし朝鮮中央付信英語版での正式表記は「Hwasongpho-11Da-4.5」)。中国版では正式表記で「火星砲-11丙-4.5」と意訳になっています(甲乙丙丁の丙)。

화성-11:火星-11(KN-02) ※トーチカU模倣
화성-11가:火星-11カ(KN-23) ※イスカンデルM模倣
화성포-11나:火星砲-11ナ(KN-24) ※火星-11カの派生型
화성포-11다:火星砲-11タ ※火星-11カの拡大型
화성포-11라:火星砲-11ラ ※火星-11カの縮小型
화성포-11ㅅ:火星砲-11SLBM ※ㅅは水中型の記号と推定
화성포-11다-4.5:火星砲-11タ-4.5 ※火星砲-11タの改良型

※「다」の発音は「タ」ないし「ダ」

 なおKNナンバーはアメリカ軍のコードネームで、火星-11カはKN-23です。火星-11カはロシア製イスカンデルMの模倣です。火星-11シリーズは無印の火星11はロシア製トーチカUの模倣であり、技術的に全く別系統の弾道ミサイルになるので、火星-11カや火星砲-11タのつもりで火星-11とだけ略して表記するのは間違いになってしまうので注意してください。

関連記事:北朝鮮ミサイル名称:火星と火星砲

弾頭重量2.5トン→4.5トンへの増大

 火星砲-11タ-4.5の初期型である「火星砲-11タ」は2021年1月15日の平壌での軍事パレードで名称非公開のまま初めて登場(関連記事)、2021年3月26日に前日のミサイル発射として詳しい名称非公開のまま「新型戦術誘導弾」として発表されています(関連記事)。この時に弾頭重量は2.5トンと紹介されており、イスカンデルMの弾頭重量0.5トン(500kg)よりも遥かに重い大重量弾頭となっていました。

 その後、2024年3月28日にファサン31戦術核弾頭を紹介した北朝鮮発表記事「金正恩総書記が核の兵器化活動を指導」で、核弾頭の模型とは別に火星砲-11タの名称が書き込まれた説明ボードが偶然写っており、この時に初めて正式名称が発覚しています(関連記事)。

 今回の改良型の火星砲-11タ-4.5は弾頭重量4.5トンと紹介されており、3年前の火星砲-11タ(この時の名称は新型戦術誘導弾)の弾頭重量2.5トンよりも大幅に増大しています。

 2021年の火星砲-11タで筆者は2.5トンの大重量弾頭は核弾頭の搭載を意図したものだろうと推定していましたが、核弾頭の小型化が進んだ筈なのに4.5トンに重量を大幅に増したのは説明が付かず、火星砲-11タ-4.5の4.5トン超大型弾頭は通常弾頭である可能性が高いと推定を修正します。

韓国軍の大重量貫通弾頭短距離弾道弾「高威力玄武」への対抗

 現在、韓国軍が大重量弾頭の短距離弾道ミサイルを開発中であり、北朝鮮はこれに純粋に対抗しようとして、同じコンセプトの通常弾頭の大重量弾頭を搭載した短距離弾道ミサイルを用意しようと計画していると考えられます。

これは以前から弾頭重量8~9トンと報道されている、短距離弾道ミサイルとしては異例の大重量弾頭を持つ「玄武5」のことだろうと一部の韓国メディアで推定されています。
出典:韓国軍の新型兵器「高威力玄武弾道ミサイル」(2022年10月3日)

 韓国軍がまだ詳細な発表を行っていないのですが、玄武4Aが弾頭重量2トン、玄武5が弾頭重量8~9トンと推定されています。通常の短距離弾道ミサイルの弾頭重量が500kg~1トン程度であるのに比べると、異例の大重量弾頭を搭載していると噂されています。

 北朝鮮の火星砲-11タ(弾頭重量2.5トン)と火星砲-11タ-4.5(弾頭重量4.5トン)は、韓国軍に対して純粋に同じコンセプトで対抗を試みていると考えられます。

 しかし北朝鮮ならば実戦となれば核弾頭を選択できます、通常弾頭の大重量弾頭(バンカーバスター)は必要なのでしょうか? 核弾頭で間に合うようにも思えるのですが・・・

弾頭を軽量化したら射程が伸びる→日本まで届く

  • 火星-11カ(弾頭重量0.5トン)・・・最大射程600~800km
  • 火星砲-11タ(弾頭重量2.5トン)・・・最大射程600km
  • 火星砲-11タ-4.5(弾頭重量4.5トン)・・・最大射程600km

 火星砲-11タ以降で弾頭重量が増大しているにも拘わらず射程は維持しています。つまり胴体が大型化して搭載燃料が増えた分を大重量弾頭の運搬の為に使っています。逆に言えばこの弾頭を再び小型化すれば射程は大幅に伸びます。火星砲-11タや火星砲-11タ-4.5は弾頭重量を0.5トン(500kg)に落とせば、射程は1200kmを余裕で超えるでしょう。日本の東京が射程圏となります。

 それはつまり、イスカンデル系の発展型である火星砲-11タの派生型が日本攻撃に使える可能性を示唆しています。イスカンデル系は低い弾道を飛び後半で滑空跳躍を行う機動式弾道ミサイルです(実質的に極超音速滑空ミサイルに非常に近い)。SM-3ブロック2A迎撃ミサイル(高度70km以上を担当)では迎撃不可能な可能性があり、中間段階の迎撃は開発中の極超音速兵器迎撃ミサイル「GPI」が必要になります。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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