韓国軍の新型兵器「高威力玄武弾道ミサイル」
韓国軍は10月1日の「国軍の日(第74回)」で公表した動画の中で、新型の「高威力玄武弾道ミサイル」を数秒間だけ詳しい説明無しに紹介しました。これは以前から弾頭重量8~9トンと報道されている、短距離弾道ミサイルとしては異例の大重量弾頭を持つ「玄武5」のことだろうと一部の韓国メディアで推定されています。
※韓国軍は動画で紹介した新型ミサイルを「高威力玄武弾道ミサイル」としか説明していない。
※朝鮮日報はこれを「玄武5」と推定。
※東亜日報は玄武シリーズの別種のミサイルと推定。
韓国国防部公開動画・新型ミサイルは1分04秒~1分09秒
※この韓国国防部の公開動画は様々なミサイルが紹介されており、新型の「高威力玄武弾道ミサイル」は動画開始から1分04秒~1分09秒ごろのみ映っています。
この「高威力玄武弾道ミサイル」は、従来の韓国軍の玄武弾道ミサイルの発射方式がホットランチ式だったのに対してコールドランチ式に変更されています。コールドランチとはガス圧でミサイルを打ち上げて空中で主ロケットモーターに点火する方式です。
おそらくは大型化して発射炎の熱量が上がり、発射車両を熱防護するのが難しくなったのでコールドランチ方式になったと推定されます。また将来の潜水艦搭載型への改修の際にも都合がよいでしょう。
「高威力玄武弾道ミサイル」コールドランチ後の点火まで
※最底部で側面から噴射しているのは底部カバーを外すため。底部カバーを外した後に主ロケットモーターに点火している。
※最後部の操舵翼は折り畳み式。
※2つに分離している細い物体は、ボックスランチャーの中でミサイルを支えていた部品で、発射後に爆破ボルトを起爆して分離投棄している様子。
なお韓国軍にはコールドランチ式の弾道ミサイルとして他にSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)の「玄武4-4」がありますが、「高威力玄武弾道ミサイル」とは形状がかなり異なっています。
参考:韓国軍が潜水艦からのSLBM水中発射に成功(2021年9月15日)
「高威力玄武弾道ミサイル」、形状はイスカンデルに酷似
「高威力玄武弾道ミサイル」の形状は従来の玄武2Aや玄武2Bをそのまま巨大化したような設計で(つまり参考にしたロシア製イスカンデル短距離弾道ミサイルに形状が酷似している)、玄武2Cのような弾頭分離式ではありません。操舵翼は最後部のみに装着されているので、一段式固体燃料ロケットモーターだと推定されます。
今回の公開された動画を見る限り、高威力玄武弾道ミサイルは純粋に「大重量弾頭の短距離弾道ミサイル」として設計されています。つまり中距離弾道ミサイル化を考えていない設計です。
- 一段式固体燃料ロケットモーター
- 非弾頭分離式
- コールドランチ式
- 8~9トン大重量弾頭
一部の韓国報道では「弾頭重量8~9トンの玄武5の弾頭重量を軽量化すれば射程が伸びて射程3000kmの中距離弾道ミサイルに発展することが可能」とありますが、話はそう簡単なものではありません。
8~9トンもある大重量弾頭を軽量化すれば射程はそれなりに伸びるでしょう。しかし固体燃料ロケットモーターの場合は中距離級にするには2段式にしないと効率が非常に悪くなります。ですが玄武5(高威力玄武弾道ミサイル)の設計では、主ロケットモーターの2段化と2段目への操舵翼の追加を行おうとすると、完全に別物のミサイルになるほどの大改造を必要とします。
例えばアメリカ軍の新型中距離ミサイル「LRHW」は主ロケットモーターが2段式で推定重量7400kg、射程2775km以上です。これに対し玄武5(高威力玄武弾道ミサイル)は明らかにLRHWより小さい上に1段式です。いくら弾頭重量を軽くしたところで、とても射程3000kmには到達できません。(※追記:玄武5はLRHWよりも遥かに巨大と判明)
つまり韓国軍は当面においては中距離弾道ミサイルを必要としていないのだと思われます。ただし準中距離級の射程ならば、このままの1段式の設計でも弾頭重量を軽量化すれば容易に達成できるでしょう。しかしもし中距離化する際はミサイルの全長を大胆に長くして2段化する必要があります。(※追記:玄武5は弾頭軽量化だけで中距離以上を発揮できる可能性が高い)
ただし「高威力玄武弾道ミサイル」とは別に「玄武5」が存在するとした場合は、玄武5の設計次第ではまた分析の評価は変わってきます。
※2024年10月1日追記:韓国軍が大重量8トンの弾頭を持つ「玄武5」弾道ミサイルの全容を初公開。世界最強のバンカーバスター
※玄武5の大きさがIRBMどころかICBMに匹敵するサイズと判明。これほどの大きさならば1段式で少し非効率であっても、弾頭重量の軽量化だけで射程3000km以上を発揮できる可能性がある。