北朝鮮が「火星砲-11タ-4.5」短距離弾道ミサイルの2回目の試射、着弾場所は内陸部
北朝鮮は9月19日、前日の18日朝にミサイル総局が行った新型の短距離弾道ミサイルおよび巡航ミサイルの試射について公開しました。また同発表記事には国防科学院の開発した新型の7.62mm狙撃銃と5.56mm自動小銃の報告も行われています。
9月18日に発射した新型短距離弾道ミサイルの名称は「火星砲-11タ-4.5」とあり、今年7月1日に初めて試射を行ったものと同じ種類です。
関連:北朝鮮が「火星砲-11タ-4.5」短距離弾道弾の試射に成功、弾頭重量を2.5トン→4.5トンに増強:(2024年7月2日)
7月1日の試験内容は最大射程500kmと最小射程90kmの二つを設定しており、250km中等射程の試射も7月中に行う予定と発射翌日の発表にありましたが、7月が過ぎて8月も実施されず、今回の9月18日の試射がこの中等射程に該当すると思われます。ただし射程が320kmと設定が若干変更されています。2回目の試射の予定が遅れたのは7月1日の1回目の試射で何らかの問題が発覚し、対策に時間が取られていた可能性があります。
2024年9月18日「火星砲-11タ-4.5」2回目の試射
※朝鮮中央通信の日本語版では「火星砲-11タ-4.5」、朝鮮語版では「화성포-11다-4.5」、中国語版では「火星炮-11丙-4.5」、英語版では「Hwasongpho-11-Da-4.5」という表記。
※朝鮮語の가나다라(カナダラ)は日本語の「あいうえお」や英語の「ABCD」に相当するもので、「다(ダないしタ)」は3番目の文字という意味。つまり「火星砲-11タ-4.5」は「火星砲-11C-4.5」という意味であり、英語圏では火星砲の砲(pho)を省略した上でCを用いた「Hwasong-11C-4.5」という表記の報道も多い。
4.5トン超大型常用弾頭(通常弾頭)
通常の短距離弾道ミサイルは弾頭重量500kg前後が一般的で1トンでも重い部類です。北朝鮮軍の火星砲11タ-4.5は弾頭重量4.5トンで破格の重量ですが、これは先行して韓国軍が短距離弾道ミサイル「玄武」シリーズの大重量弾頭型を開発しており(関連記事)、北朝鮮は同種の兵器を開発して対抗を試みているものと思われます。
そして4.5トン超大型常用弾頭とは通常弾頭を意味しており核弾頭ではないということが確定しています。つまり北朝鮮の核弾頭は小型化できており、核弾頭の為の大重量弾頭仕様の弾道ミサイルは用意していないことを意味しています。
- 火星-11カ(弾頭重量0.5トン) ※イスカンデルM模倣、KN-23
- 火星砲-11タ(弾頭重量2.5トン) ※火星-11カを胴体延長
- 火星砲-11タ-4.5(弾頭重量4.5トン) ※更に胴体延長?
筆者は火星砲-11タ(弾頭重量2.5トン)の初登場時の2021年3月26日記事で核弾頭用の大重量弾頭ではないかと推定していましたが、間違いでした。なお韓国軍の「高威力玄武」は弾頭重量を増やした新型を続々と開発しており最新型の推定で弾頭重量9トンにも達しており、北朝鮮がこれに対抗するつもりでいるなら火星砲-11タ-4.5の弾頭重量4.5トンから更に重量を増やす新型を計画している可能性があります。
※「火星11カ」は北朝鮮での正式名称が火星砲ではないことに注意。米軍呼称KN-23。
※「火星11」はロシア製トーチカUの模倣で、「火星11カ」はロシア製イスカンデルMの模倣であり、技術的に全く違う別系統のミサイルであることに注意。よって火星11カ以降を火星11と略して呼ぶと間違いになる。
※「火星砲-11タ-4.5」は火星11カからの派生型。なお日米韓では砲を省略して報道されることが多い。火星11C-4.5でも意味は通る。
火星砲-11タ-4.5:ミサイル写真の公開は今回が初
※「火星砲-11タ-4.5」の映像拡大
※火星砲-11タと火星砲-11タ-4.5の比較
火星砲-11タ(弾頭重量2.5トン)と火星砲-11タ-4.5(弾頭重量4.5トン)を比較した場合、仮に直径を揃えると火星砲-11タ-4.5の方が全長が長くなるので、弾頭重量の増大にともない胴体延長されている可能性が高いでしょう。延長した分を固体燃料推進剤と弾頭の増量に充てているはずです。
中等射程320km、内陸部への着弾
9月18日の発射当日の日本防衛省からの発表では「北朝鮮内陸部東岸付近に落下したと推定」とあり、日本海への着弾(無人島を含む)ではないことを示唆していました。これは異例でしたが内陸部への着弾は正しい分析でした。ただし水平距離や最大高度の推定値は発表されていません。
なお発射当日に韓国軍合同参謀本部は水平距離400kmを飛んだと推定しており、韓国聯合ニュースは「平安南道の价川から発射された」「400km飛翔、この地点には以前にミサイル試験の目標に使われた無人島のピ島がある(最後の使用は2023年3月14日)」「韓国軍情報筋は火星砲-11タ-4.5と推定」と報道していましたが、発射地点とミサイルの種類を正確に当てたものの、飛距離(実際は320km)と着弾地点は間違えていました。
北朝鮮はおそらく大重量弾頭の威力を調査しやすいように、起伏の激しい無人島ではなく平坦な地面に着弾させたかった可能性があります。价川から320km近辺にはミサイル試験の目標用の使用頻度が高い無人島の卵島があるのに、今回の試験で使用されていません。ピ島でも卵島でもなく、内陸部(正確には不明だが北朝鮮の北東部)への着弾です。
※発射地点は平安南道の价川の空軍飛行場
※着弾地点は内陸部。山間部の中の平野であることがモニターから見て取れる。
※着弾連続シーン
改良型戦略巡航ミサイルの試射も実施
なお別種の兵器ですが巡航ミサイルの試射も同時に行われています。こちらはミサイルの名称は発表されておらず不明です。公表写真からは2連射している様子が分かります。