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スペインに再び黄金時代は到来するのか。新世代の突き上げと異なる次元への扉。

森田泰史スポーツライター
欧州の頂点に立ったスペイン(写真:Maurizio Borsari/アフロ)

黄金時代の到来を、予感させるものではある。

スペイン代表はEURO2024決勝でイングランド代表を下して、優勝を果たした。EURO2008とEURO2012で連覇を達成したスペインだが、それ以来となる主要タイトル獲得を成し遂げている。

■生じていた疑念

今大会、スペインは優勝候補の筆頭ではなかった。欧州の頂に近いと見られていたのはフランス、イングランド、ドイツ、ポルトガル、その辺りの代表チームだった。

ルイス・デ・ラ・フエンテ監督が26名の招集メンバーを発表した際には、スペイン国内でも疑念が生じていた。のちにレギュラーに定着するアイメリック・ラポルテ、マルク・ククレジャ、ファビアン・ルイス、アルバロ・モラタ、ニコ・ウィリアムス、ラミン・ヤマルらに対しても、厳しい目が向けられていた。

決勝でイングランドを下したスペイン
決勝でイングランドを下したスペイン写真:Maurizio Borsari/アフロ

フランス出身のラポルテに関しては、愛国心が疑われた。なおかつ、サウジアラビアに移籍して、競技レベルにも疑問符がついていた。

左サイドバックのファーストチョイスは、アレックス・グリマルドになると予想されていた。シャビ・アロンソ監督の下、レヴァークーゼンの快進撃に大きく貢献したグリマルドは、国内外で評価を高めていた。一方、チェルシーで苦しんでいたククレジャには、「スペインが敗退するとしたら、その原因のひとつはククレジャだろう」とガリー・ネビル氏が酷評していたように、“敵”が多かった。

ファビアンは、ルイス・エンリケ政権のラ・ロハで、ある時から完全に呼ばれなくなった。L・エンリケ監督との確執(2人はその後パリ・サンジェルマンで再会)が噂されたが、世代別代表の頃からファビアンを重宝していたデ・ラ・フエンテ監督は、変わらない信頼を示した。結果、ファビアンとロドリ・エルナンデスという、唯一無二のダブルボランチコンビが誕生した。

モラタはアトレティコ・マドリーで不遇の日々を過ごしていた。いや、負傷していた時期を除けば、パフォーマンス自体は決して悪くなかった。それでもスペインでは正当な評価を受けられず、EURO前の親善試合のブラジル戦では、ホームのサポーターからブーイングを浴びた。

得点を喜ぶニコとヤマル
得点を喜ぶニコとヤマル写真:Maurizio Borsari/アフロ

ニコ・ウィリアムス(22歳)とヤマル(17歳)、ヤング・アタッカーに攻撃の全権を託すのは、ある種のリスクだった。普通に考えて、難しい判断だ。代表チームの命運を、2人の若者に委ねるのである。

しかし、デ・ラ・フエンテ監督は彼らを信じた。ヤマルは4アシストでEURO2024のアシスト王に輝いた。ニコは2得点1アシスト、決勝では貴重な先制ゴールをマークした。

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■タイトル獲得と戦術的要因

スペインは、EURO2024で、【4−3−3】と【4−2−3−1】の可変システムを使った。

その恩恵を受けた選手、というより『ポジション』が、トップ下である。ペドリ・ゴンサレスとダニ・オルモが、そのタスクを担った。

現代フットボールにおいて、トップ下のポジションは、実質的に“死んだ”と言われている。激しいプレス合戦が行われるゲームにおいて、いわゆる10番の選手がプレーするスペースがなくなってしまったからだ。

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スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『WSK』『サッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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