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教師の長時間労働は子供のためにならない!【中教審答申はココを読め(1)】

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
中教審資料(筆者撮影)

国の中央教育審議会(中教審)の専門部会で、学校における働き方改革の答申案が本日了承された。わたしは今回委員として深く関わったこともあり、重要なポイント、「ここだけは読んでね」ということをお伝えしたい(※)。

(※いち個人的な意見、整理であり、中教審を代表するものではまったくありませんが、何回かに分けて解説します。)

答申案とガイドライン案(筆者撮影)
答申案とガイドライン案(筆者撮影)

Why 働き方改革? 長時間労働のままでは子供のためにならない

答申案p7にこんな一節がある。

‘子供のためであればどんな長時間勤務も良しとする’という働き方は,教師という職の崇高な使命感から生まれるものであるが,その中で教師が疲弊していくのであれば,それは‘子供のため’にはならない。教師のこれまでの働き方を見直し,教師が我が国の学校教育の蓄積と向かい合って自らの授業を磨くとともに日々の生活の質や教職人生を豊かにすることで,自らの人間性や創造性を高め,子供たちに対して効果的な教育活動を行うことができるようになることが学校における働き方改革の目的であり,そのことを常に原点としながら改革を進めていく必要がある。

出典:学校における働き方改革答申案。強調は引用者による。

今回の答申で「一番大事なところはどこか?」と聞かれれば、わたしは迷わず、ここだと答える。はじめに(p2)にも同じ趣旨のことがある。先生たちはもちろん、保護者や一般の方ともこの箇所はよく共有したい。

学校の仕事は、多くのことが「子供のため」になる。授業はもちろんそうだが、運動会や修学旅行などの行事を熱心にやること、部活動指導で頑張ること、栄養価の高い給食を出すこと、進路や子供同士のトラブルに丁寧に相談にのること、などなど。

しかも、どこまでやればOKという合格ラインが引きづらい。

  • 「あと30分頑張れば、もっといい授業の準備ができるのではないか」
  • 「この1時間使ったら、児童の作文にハンコで”よくできました、はなまる”だけじゃなく、コメントが書ける」
  • 「部活動の日頃の練習の成果を発揮して、地区大会頑張りたいという生徒の声もあり、この3連休も試合だな」

などと思って、学校(教師)はついつい仕事を増やしたり、丁寧にやったりする。

しかし、健康を害したり、疲れたまま授業等にのぞんだりしても、いい教育になろうはずがない。

ごく当たり前のことなのだが、学校現場や教育行政等では、この当たり前がこれまで軽視されてきた。校長も、文科省や教育委員会も、教育学者の多くも、そして保護者も、「子供たちのために、先生頑張って、頑張って」とこれまで言い続けてきた側面は強い。

その結果、どうなっただろうか。

実際に、頑張りすぎた教師の中には、過労死まで起きている。しかも、多発している。

(参考)妹尾・【学校の働き方改革のゆくえ】教師の過労死は氷山の一角

精神疾患で病休になる教師も毎年約5千人出ている。仮に新規に5千人雇って育成するとなると、莫大な予算と労力がかかることからも分かるとおり、ご本人個人としてのみならず、社会的にも大きな損失だ。「子供たち、児童生徒のためになる」ということが教師を苦しめてきた部分もある。こうした現実に目を向けたい。

だから、この答申案では、長時間労働のままだと、結果的に子供のためにもならない、と強調している。「それをやったほうが(or 続けたほうが)子供のためになるでしょ」ということが殺し文句のようになっていた学校も多いが、これからは、「そうかもしれないが、だからと言って長時間労働のままでは、子供にも悪影響が出かねない」と考えていくことが大切となる。

具体的には、先ほど述べたとおり、疲れたまま授業やってもね、という例がそうだし、部活動や行事では、子供たちを長時間拘束し、過度な負荷をかけることは、子供たちの健康や生活の自由としても、悪影響が出てくる。

学校の風景(筆者撮影)
学校の風景(筆者撮影)

長時間労働は、学ばない教師を増やす

子供のためにならないことは、ほかにもある。それは、先ほど引用したp7に「日々の生活の質や教職人生を豊かにすること」と書いてあることに関わる。

この答申案にはないが、「サードプレイス」というコンセプトで考えてもよいと思う。ファーストが家庭、セカンドが職場。サードが家庭でも職場でもない、第3の居場所や活躍の場といった意味合いだ(諸説あるが)。あまりにも職場(=教師の場合、学校)の比重が高くなりすぎると、家庭やサードプレイスでの経験が薄く、狭くなる。

つまり、長時間労働には、教師にとって学びや成長機会を減らす、という大問題がある。同じような話は、企業でも実証されていて、中原淳ほか『残業学』などでは、長時間労働の人は研鑽やフィードバックを受ける機会が減る悪影響を解説している。

教師について、ひとつ参考となるデータを紹介しよう。次のグラフはOECDの調査で、日本の中学校教師について再集計した。担当教科等の知識と理解について、また担当教科等の指導法について、職能開発の必要性が「高い」と回答する教師の割合は、週60時間以上働く教師グループ(グラフ中では下2つ)のほうが高い。つまり、長時間労働の教師は、知識や研修等が足りないと自己評価している。これは、相関に過ぎないので、もともとそういう意欲のある先生が長時間労働している可能性もあるが、長時間労働の影響で研鑽等が不足している可能性も高い。

OECD・TALIS調査をもとに筆者作成
OECD・TALIS調査をもとに筆者作成

※関連データやより詳しくは、拙著『「先生が忙しすぎる」をあきらめない』

保護者にとって、どんな先生に当たりたいか?

保護者目線でも考えてみよう。(わたし自身、中学生と小学生の4人の子育て中~。)

2人の中学校の社会科の先生、いずれも40代半ば、20年目くらいのベテランを想像してみてほしい。

A先生は、放課後遅くまで熱心に部活の面倒を見てくれる。練習試合などもよく組んでくれる。保護者面談も、”どうせいますから”と言って、18時過ぎでも対応してくれる。授業も悪いわけではないのだが、覚えさせること、知識を教えることにかなり重きを置いた、自身の若い頃からのスタイルだ。高校入試ではこれも役立つ。だが、生徒の中には歴史=暗記物として、キライになっている子もいる。実際、朝練のあとの歴史の授業は眠いという子もちらほら。

*****

B先生は、土日部活はやらない。保護者面談も、勤務時間中にお願いします、と言ってくる。同僚からは”あいつはサラリーマン教師だ”と陰口を言われることもある。休日には趣味の旅行によく出かけ、全国の史跡めぐりをしている。本もよく読んでいて、最新の歴史学の知見にも詳しい。20年前の常識は今日の有力説では否定されている、なんてことザラだ。授業では、旅行中にとった写真や動画も活かして、引き付ける。知識ももちろん大事だが、好奇心を高めることが第一と考えているようだ。いつもというわけにはいかないが、簡単な答えのない、問いについて考えさせるグループワークもよくやっている。先日は、”あなたが戦国大名だったら、どんなことに取り組むか”だった。こういう授業で寝ている子はいない。

もちろん、現実にはもっと複雑で、先生の個性や強みはさまざまなので、一概にA先生とB先生のどっちがいいとは言い難い。だが、「学校は何をするところか」、「中学校で優先するべきは何か」を考えたとき、おそらく、保護者目線でも、生徒目線でも、B先生のような授業ができる教師はもっと増えたほうがよい、とは多くの人が共感してくれるのではないだろうか。

A先生は一見すると、保護者ウケはよい。部活指導や保護者対応も丁寧だからだ。だが、それが仇となって、肝心の授業が改善されていない、更新されていないようでは、教師の資質としては、疑問符が付く。

問題は、保護者にとっては、実際の授業の内容や善し悪しは素人目には分からないし、知るすべもないので、A先生の問題には気づきにくいということだ。校長や教頭も、それほど頻繁に授業を観に行けているわけではないし、中学校や高校では、自分の専門教科以外には遠慮もある。すると、保護者からも、校長等からも、教師の評判、評価としては、B先生よりもA先生のほうが高い、といった事態は、実際にはよくある話だ。本当にこれでいいのだろうか。

あるいは、他人の評価はさておき、A先生自身としても、本当にいまの自分の時間の使い方でいいと思うか、と振り返る必要があると思う。働き方改革は生き方改革でもある。

今回の中教審の答申、文科省や教育委員会の今後の施策、そして保護者等の理解を得ていくことなどは、すべて、「Why 働き方改革」という原点をもとにしなければならない。教師の長時間労働は子供のためにならないということを忘れず、教師にとっても、児童生徒にとっても、限られた時間を、質高く、どこに振り向けていくべきかが問われている。

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教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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