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【学校の働き方改革のゆくえ】なぜ、教師の過労死は繰り返されるのか

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
(写真:アフロ)

大分・佐伯市の中学教師、「過労死」の疑い 月平均175時間の残業

きょう、この報道に接した。

佐伯市立中学校の男性教諭=当時(50)=が2017年6月に急死したのは「過労死」だったとして、遺族が公務災害の認定を求めることが29日、関係者への取材で分かった。

(中略)

男性は部活動の指導などに追われ、直前3カ月の時間外労働は月平均175時間だったという。

申請書作成に関わった県教職員組合によると、男性は2017年6月4日朝、急性心筋梗塞のため、佐伯市内の自宅で亡くなった。

土曜だった前日も授業や部活動の練習で出勤していた。

出典:大分合同新聞2018年11月30日

「過労死」と確定したわけではない。だが、月175時間もの残業である。仕事が影響していないわけがない。

次のニュースは富山でのことだ。

富山県内の公立中学校に勤務し、2016年夏にくも膜下出血で死亡した40代の男性教諭が今年4月、地方公務員災害補償基金(地公災)富山県支部に過労死認定された。(中略)

地公災が認定した発症直前2カ月の時間外勤務は各120時間前後で、関係者の算定ではうち部活動指導が約7割に達していた。(中略)

関係者によると、教諭は16年7月、自宅で発症。病院に搬送されたものの意識は戻らず、約2週間後に死亡した。(中略)

教諭は運動部の顧問で、土日もほとんど練習か練習試合があり、発症直前2カ月の土日の休みは計2日しかなかった。関係者によると教諭は仕事にやりがいを感じていた一方、「休みたい」と心身の負担を訴えることもあったという。

出典:毎日新聞2018年7月17日

酷似する事案、悲しい歴史が繰り返される

大分と富山、驚くほど似ていることにお気づきだろう。主な特徴を抜き出す。

●公立中学校教師が犠牲となっている。

●厚生労働省が定める「過労死ライン」(※)を大幅に超えた過重労働である。

 ※過労死ライン:時間外が発症前2か月ないし6か月に月80時間、ないし発症前1か月100時間

●部活動の負担が過重労働に大きく影響している。

●土日に休みが取れていないことが多い。

●6月、7月に死亡している。

実は、大分では別の教師も最近亡くなっている。

大分県の小規模な公立中学校に勤務する女性教諭=当時(46)=が平成26年に脳出血で死亡したのは、長時間の時間外労働が原因だったとして、遺族が公務災害を申請し、地方公務員災害補償基金大分県支部が認定していたことが分かった。(中略)

女性教諭は国語の授業に加え、バレーボール部の顧問を担当していた。26年7月7日に授業中に頭痛を訴えて意識を失い、緊急搬送され、9月26日に死亡した。

直前の4~6月の時間外労働は、部活動の指導や事務作業が重なり各月とも約110時間で、過労死ラインとされる月100時間を超えていた。

県教職員組合によると、女性教諭は同僚に対し「何かあったらパソコンの勤務記録を見て」と、長時間労働への危機感を感じていたことを示唆していた。

出典:産経WEST2017年6月19日

この件でも、先ほどの2例と共通点が多いことがわかる。

なぜ、過労死が繰り返し起きてしまうのか

だれにとっても望まないことである。ご本人やご遺族の心情を察するに余りあるし、残された子供たち(児童生徒という意味に加えて、ご本人の子どもたち)は、どんな気持ちでいるだろうか、言葉に尽くし難い。

実は、今回紹介したもの以外にも小中高で、多くの教師が過労死と疑われる事案で命を落としている(※※)。

(※※)拙著『「先生が忙しすぎる」をあきらめない』ならびに『先生がつぶれる学校、先生がいきる学校―働き方改革とモチベーション・マネジメント』でも紹介、分析している。

写真素材:photo AC
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過労死と認定された公立校の教職員は、2016年度までの10年間で63人に上る(毎日新聞2018年4月21日)。これとて氷山の一角である。

最近は「#先生死ぬかも」

というハッシュタグでTwitterではたくさんの声が集まっている。たいへん貴重な情報だ。だが、既にたくさんの先生が死んでいる。このことをまずは重くみるべきだ。

どうして、教師の過労死が繰り返されてしまうのか。

この理由、背景をひとこと、二言で済ませるのは難しい。複雑な要因が絡み合っているというのが事実であるが、少なくとも次の3点は踏まえておく必要がある。

理由1:過労死ラインを超えるほどの過重労働、プラス土日も休みなしのノンストップ労働が続いている。

理由2:児童生徒のためという献身的な思いと姿勢で、自分ではストップがかからないし、周りも止めていない。

理由3:体調不良など予兆があったとしても、授業に穴は空けられない、同僚や児童生徒に迷惑はかけられないと思い、通院しないし、休まない。

理由1に述べたとおり、今回は部活動負担を特に強調したが、それ以外にもさまざまな仕事が教師にはある。もちろん、授業準備は手を抜けないし、採点・添削、行事の準備、生徒や保護者からの相談対応、進路指導、生徒指導、事務作業などが時間外に多数ある。多重債務者のごとく。しかも、土日などに多少なりとも休息できればよいのだが、部活動の大会などがあれば、なかなか休めないケースもあり、疲労が抜けない。

理由2は、理由1の背景でもあるのだが、これらの仕事の多くは、子ども(児童生徒)のためになる教育的な活動である。事務作業などもあるが、教頭職をのぞき、教諭であれば、毎日膨大な事務作業ばかりしているわけではない。各種調査からそれは分かっている。

大変、厳しい言い方をすれば、教育的な活動が教師に無理をさせ、教師を殺しているのだ。

内田良先生の著書『教育という病』にもあるように、子どもたちのためという善意で進んでいることは、なかなか軌道修正がかからない。よかれと思ってやっていることだから、自分ではストップ、ブレーキをかけないのだ。そして、それは同僚や管理職も同じである。

写真素材:photo AC
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むしろ、毎日遅くまで頑張っている先生や土日も部活動指導などをして生徒を成長させている先生を、これまでわたしたちは、「熱心でいい先生だ」と褒めてきたではないか。

ここを気を付けなければならない。いくら熱心、熱血でも、体を壊すほどやるべきではない。当たり前なのだが、このことをしっかり受け止めて、周りもケアし、ブレーキをかけていくべきだ。

理由3は、国の審議会(中教審)でも、数多くの教師を診察した経験のある医師が述べていた。教師は本当にギリギリに追い込まれてからしか病院に来ない、と。

給特法という法律も問題

加えて、給特法という法律の問題も指摘しておかねばならない。長くなるので、詳細は別の機会にするが、公立学校の教師については、他の公務員にはない特殊な法制度となっており、部活動や採点・添削、事務作業などの時間外勤務は、校長は命じていない、教師の自発的なものだ、とされている。つまり、残業はしているのだが、これは校長の指揮命令下ではない、という捉え方だ。

校長は教師の労務管理をしなくてよいというわけではないのだが、給特法が悪影響を与えている、との批判は強い。厳密に給特法のせいかどうかは要検証であるが、これまで、教育委員会も校長も、教師の時間外勤務についての管理や業務量調整に向けたが働きかけをあまりせず、甘々で(なあなあで)済ませてきたという事実は多くのところで見られる。

一番の問題は、文科省も教育委員会も学校も、過去の悲しいことに目を背けてきたこと

このように、さまざまな問題があるが、一番大きい問題は何か。

過労死(過労死等と疑われる事案を含む)となった事案があっても、「ああ、あの先生は気の毒だったよね」というくらいで済ませ、文科省も、教育委員会も、学校も、起きたことから学んでいない、教訓を引き出していないということが、一番の悪である、とわたしは思う。

証拠をお見せしよう。

これまで、教師の過労死等について、検証報告書を出したことのある教育委員会がおられたら、ぜひ名乗り出てほしい。

児童生徒の深刻ないじめ事案については、さまざまな批判もあるが、一応の検証報告書が出るケースが多々ある。これは、ご遺族等が真実を知りたいということもあるが、より大きいのは、反省点を繰り返してはならないから作っているのだと思う。だが、教師の過労死等については、誰も、検証していない

はっきり申し上げると、学校も、文科省等も、学びに関わる機関でありながらも、自分たちは過去から学んでいない。

航空業界を見てほしい。飛行機事故が起きたら、どうするか。事故検証委員会などが立ち上がる。ブラックボックスといって記録からさまざまな事実を確認する。ヒヤリハットも整理する。そして反省点や教訓を関係者でしっかり共有し、研修し、繰り返さないように教育する。

写真素材:photo AC
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これに比べて、学校や教育行政はお粗末である。せめて、教員養成段階や教職員研修の機会で、教師の過労死等の実例について知ることから始めてはいかがか?手前味噌だが、ぼくが講師をする研修・講演ではたびたびこうした事案を紹介して、何が反省点なのか考えてもらう時間を作っている。

過去の分析も反省も甘いから、不十分な対策で終わる

そして、反省が甘いとどうなるか。

小学生でもわかる。正しい診断がないのに、正しい対策が打てるわけがない。医者がほとんど診察しないで、薬を出すようなものだ。

たとえば、次のような対策は、要注意である。

●スクールサポートスタッフなどのアシスタントを配置しました!

教師の負担軽減には一定の効果がある。だが、一部の業務の支援に過ぎないので、過度な期待は禁物だ。

ましてや、今回のような過労死等がおきかねない過重労働は、多くはアシスタントが担えない教育的活動の負荷が重くて起きている。この事実に注意するべきだ。

●年間の変型労働時間制を導入しましょう!

今回の3つの件でも明らかなように、夏休みの前に倒れる教師も少なくない。

変形労働で夏休みなどに休みのまとめ取りができる、といっても、それまで持たないケースもあるという事実に目を背けるべきではない。

もちろん、変形労働にしようがしまいが、教師の仕事を減らすという本筋をまずは進めるべき。

●業務改善として会議を見直しました!

会議の改善は進めてほしいが、残念ながら、会議の見直しだけでは過労死ライン超えは解消できない

上記のような施策だけで、文科省や教育委員会、学校はお茶を濁すべきではない。全然足りないという事実認識をもつべきだ。

冒頭に紹介した3つの事案から示唆されるのは、土日の部活動にはもっと本腰を入れて規制をかけるべき(当然、大会等の見直しが必須)だ。もちろん、部活動だけが問題ではない。ほかも様々な手をうつべきだ。

参考:【学校の働き方改革のゆくえ】対症療法の策はいらない。抜本的な働き方改革とは!?

もう一度言う。過去の教訓を引き出し、それをいますぐにでも、もっと活かすべきだ。

そうしないと、また過労死となる熱心な先生が出てきてしまう。

教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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