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富山GRNサンダーバーズのドラフト候補「松松コンビ」の松向輝は150キロ左腕 《2022ドラフト》

土井麻由実フリーアナウンサー、フリーライター
ボールパーク高岡にて(撮影:筆者)

 今秋のドラフト会議に向けて、NPBの各球団はスカウト会議で候補選手をピックアップし始めている。もちろん独立リーグもその対象で、今年創設された日本海オセアンリーグ(以下NOL)でも選手たちはアピールの日々を送っている。

 中でも注目されているのが、富山GRNサンダーバーズの左右の150キロ投手「松松コンビ」。松向輝まつむこう ひかる)と松原快まつばら かい)は、ともに社会人出身で、NPBを目指して独立リーグに移った。

 まず今回は左の150キロ、松向輝投手を紹介しよう。

■実は右利きだった!

 「僕、もともと右利きなんですよね」。

 衝撃の告白だ。右利きの左打者は多いが、投手で右利きの左投げはあまり聞かない。

 「赤ちゃんでもどっち利きかはわかるらしくて、僕は右利きだった。それを、生まれた直後からおじいちゃんとお父さんで左にしたって…僕の知らないうちに。気づいたら左で投げてた(笑)」。

 お父さんも社会人のNTT東海で活躍した右腕だ。野球界では左投手のほうが有利だと考え、早々に左に“矯正”したのだろう。物心つくころには左利きになっていた。日常生活では字は右手で書くが、箸は左手を使って食べるという。

 「じゃんけんも左でやれとか言ってたらしい(笑)」。

 自身の記憶にはないが、大きくなってそれを聞かされた。

 今も右で50mほどは投げられる。だから、ふと考える。

 「右だったら、どれくらい投げられたのかな。155キロくらい投げてたのかな。右のほうがよかったのかな。もっとダメだったのかな。どうなんだろう…」。

 誰にも答えは出せない。しかし“作られた左”で150キロを投げるのだから、すごいことではないか。

(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)
(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)

■ここで終われない

 愛知県出身の松向投手は市立岐阜商業高校を卒業後、日本製鉄東海REXに進んだ。主戦で投げた年もあったし、二大大会である都市対抗日本選手権も経験した。しかし5年目の昨年12月、都市対抗が終わった後に選手としての契約は終了することを告げられた。

 野球を引退し、会社に残れば仕事には困らなかった。しかし松向投手にその選択はできなかった。

 「正直、昨年は自分自身よくなかった。日本選手権では予選の3試合とも投げて抑えたけど、本戦でなんかおかしくなって3分の1で3点取られた」。

 アウトを1つ取っただけで満塁で交代した。そして都市対抗の本戦では投げる機会すらなかった。

 「自分の中で、これで終わりたくないという思いがあった」。

 都市対抗の本戦でベンチに入れなかった悔しさから、終了直後から「来年こそやってやろう」と気合いを入れ直していた。そして、さらなるレベルアップのために体を絞り始めたところだったのだ。

 「まだ終われない。まだ野球がやりたい。まだプロを目指したい」。

 そこで家族にも相談し、行先を探した。

 ただ、昨年の都市対抗は東京オリンピックの関係で例年より開催が遅く、松向投手が会社から告げられたのも12月半ばになっていた。当初は社会人で探したが、時期的に枠が埋まっており、結果的に独立リーグのサンダーバーズに落ち着いた。

 お父さんも賛成してくれた。

■武田久コーチの教え

 サンダーバーズに入って驚いたのは「野球だけに専念できるっていうのはすごい。そこが一番違う」というところだ。社会人時代はまず朝7時半に出社し、13時半まで休憩なしで働いていたからだ。

 「基本的に事務作業が多かったけど、工場にも行ったりしていた。鉄を作る会社だったので、その鉄を作る工程を学んだりチェックしたり。ドロドロに溶かした鉄を別の工程に持って行くために使う鍋があって、それを担当していた。鉄の鍋です。たぶん想像つかないと思うけど…難しいです、説明が」。

 一生懸命に説明してくれたが、まったく理解できずで申し訳ない。要するに、朝から昼過ぎまでは社業を頑張っていたということだ。そして14時半から野球の練習が始まる。

 投手コーチは北海道日本ハムファイターズのクローザーとして活躍した武田久氏だ。パ・リーグタイ記録となる最多セーブ投手に3度輝いた師匠からは、「すこぶる怒られてました」と振り返る。

 「久さんはやっぱり考え方がすごい方。それにキャッチボールにしても、一緒にさせてもらっても胸にしか来なかった。僕の取り組みの甘さとか、かなり指摘していただいた」。

 とくに「ただ練習をすればいいというものはない」と、意図をもってやることの重要性を説かれた。「ランニングにしても、短い距離に全力で取り組めるかっていうこととか、すごい言われた」と、口酸っぱく「全力で」と注意してもらい、今も感謝している。

■故障の経験から得たもの

 意図をもってトレーニングすることは、自身のケガの経験からも学んだ。

 3年目、プロ解禁の年に肩を痛めた。肩甲下筋の筋挫傷と診断され、投げられなくなった。そこで外部の施設に出向き、ケガをしない投げ方などを学んだ。

 「どういう意図でやって、ここに効いてっていうことをあまり意識してなかったんで、そういうところを考えられるようになった。それまでは与えられたメニューをやってるだけというところがあったけど、トレーニングをピッチングにどう繋げていくかとか、そういう意図をもって練習に取り組めるようになった」。

 それが4年目の好投に繋がり、現在もその意識は松向投手の中に根づいている。

■ズドーンといくストレート

 今季は開幕から順調に登板し、15試合、22回と1/3に投げて防御率は3.63。奪三振率は9.67だ。ここまでを振り返ってみて、自信をどう評価するのか。

 「最初はいい感じで球もけっこう走っていた。四球が多いので、そこがもったいない」。

 四球数は11で与四球率は4.43だから、そこは改善の余地ありだ。

 「やっぱりもうちょっとまっすぐの威力というか、しっかり投げたい。スピードアップもそうだし、空振りが取れるまっすぐが欲しい。もっと、まっすぐまっすぐでいきたい」。

 やはりピッチングの軸となるストレートにはこだわりたいという。ただ、開幕してから150キロが何度も出るようになり、手応えは深めている。

 「以前よりよくなったと思う。投げていて低めが伸びている。見える感覚が違うんですよ、自分の中で。投げてから見えている感覚が、前と本当に違う。なんかズドーンっていってる感じ。キャッチボールからすごくよくて、今年、いいんじゃないかなって思う」。

 たしかにズッシリと重さを感じさせるストレートだ。

■萩原淳コーチのバックアップ

 変化球の持ち球はスライダー、フォーク、ツーシーム、カーブ、カット、チェンジアップだが、中でも現在はフォークに磨きをかけている。

 「やっぱり縦の変化はNPBでも重視されていると思う。どういう理想像とか、そこはまだちょっと掴めていないけど。投げてバッターの反応を見ていかないとわかんないと思う。試合で投げないと意味ないんで、とことん試合で使っている。そのために試合があると思うんで」。

 ゲームでどんどん使って完成させていく。

 心強い後押しもある。萩原淳投手コーチ(オリックス・バファローズ北海道日本ハムファイターズ東京ヤクルトスワローズ)だ。

 「萩原コーチにも『スライダーで打ち取れるのは、もうわかっている。今はいかにフォークを覚えるか。打たれてもいいから、まっすぐとフォークでいけ』って言ってもらっている。『勝敗とか関係なく、本当に自分の試したいことを試していかないと、この先に繋がらないから』って言われて、そこは思いきって投げられるので嬉しい」。

 「打たれてもいいから」―。勝敗以上に選手個人の成長を考えてくれるのは独立リーグならではだ。一発勝負の社会人では許されないことである。これもまた、それぞれのカテゴリーの違いだろう。

■低めと腕の振り

 意識しているのは、とことん低めに投げることと腕の振りだ。

 「腕が緩んだら意味ないので、まっすぐと同じように、いや、まっすぐ以上に腕を振るようにしている。どうしても自分で振ってると思っていても、バッターや萩原コーチから見たら『振れていない』って指摘される。そこは、自分の感覚とどう照らし合わせていくかということが大事」。

 動画などで誰かの握りや投げ方を参考にする方法もあるが、松向投手は「しない。やっぱり自分は自分で、自分の感覚を大事にしたい」と、キッパリ言いきる。

■疲労回復の工夫

 NOLでは試合はおもに土日で、変則的に平日に開催されることもあり、試合のない日はほぼ一日中練習する。そのペースに不慣れなこともあり、「ちょっと今、(調子が)落ちてきている」という。

 「疲れの抜け具合も違うので、ここからどう上げていけるかというところ」と、たとえば睡眠時には疲れをとるスパッツを穿いて寝たり、自分でストレッチしたりするなど、疲労回復に努めている。

 NPBではもっとハードなスケジュールだ。試合数も多いし、移動距離も長い。ここで対応できないことには、話にならないことはわかっている。疲労回復法は課題でもある。

 食事もカレーやガーリックライスなど自炊をし、「サラダも作ります」と野菜も意識して摂るように努めている。

■減量が奏功

 現在の好調ぶりは、都市対抗の本戦で投げられなかった悔しさから「翌年に懸けよう」と取り組み始めた減量も、奏功しているという。97キロから87キロまで10キロ落とし、「体にキレが出ている」と、動きが違うと胸を張る。

 以前、食事を摂らずに減量して、ボールの威力やスピードが落ちたことがあった。その失敗から、今回はしっかり食べてトレーニングを増やし、徐脂肪体重はキープしながら体重を落とした。年末年始も一日も休まず、毎日練習に明け暮れた。

 富山に来るころには90キロを切っており、現在はもう意識はしていないという。「6月に入って暑くなってきたんで、自然に落ちてくる。僕的に今月は追い込みたいなと思ってるんで、ちょっと増やしとこうと、今は逆によく食べるようにしている。だから今は90キロくらいかな」。

 以前の97キロあるときと比べての現在を、「のそ~って投げてた感じやったのが、パッという感じになった」と擬態語で表現する。好投の要因だということがよくわかる。

■“便利屋”として、どこでも投げる

 ここまでショートスターターの先発(3回)が一度で、あとはすべて中継ぎで投げている。

 「もっと先発もしたいなと思っている。先発でもスピードは変わらないので。初回は飛ばすけど、そこからそんなに落ちないので」。

 中継ぎだけでなく、さまざまなことにチャレンジしたいようだ。

 「どっちもできる便利屋みたいな感じになりたい。チームが困ったら先発で長いイニングも投げられますよっていうところも見せたいなと思う。先発も中も両方してっていうように。もう、毎試合投げたいくらいですけどね(笑)」。

 いつでも目に留まるように、そしてチームの助けになるように、とにかく投げていたいのだ。

 ストレートをどんどん投げていくこと、フォークの精度を上げること、スライダーをしっかり投げきること―。今後やることは明確だ。

 高校を出て6年目は大卒社会人のドラフト解禁年と同い年にあたる。松向輝は今年こそNPBに行って、これまでの悔しさを晴らす。

(本文中、表記のない写真の提供:日本海オセアンリーグ)

【松向 輝(まつむこう ひかる)】

1998年12月10日生(23歳)

180cm・90kg/左・左

市岐阜商高―日本製鉄東海REX

愛知県一宮市/AB型

ストレート、スライダー、フォーク、ツーシーム、カーブ、カット、チェンジアップ

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海老原一佳さんのセカンドキャリア

阪神タイガースで活躍する“富山の末っ子”・湯浅京己へのメッセージ

フリーアナウンサー、フリーライター

CS放送「GAORA」「スカイA」の阪神タイガース野球中継番組「Tigersーai」で、ベンチリポーターとして携わったゲームは1000試合近く。2005年の阪神優勝時にはビールかけインタビューも!イベントやパーティーでのプロ野球選手、OBとのトークショーは数100本。サンケイスポーツで阪神タイガース関連のコラム「SMILE♡TIGERS」を連載中。かつては阪神タイガースの公式ホームページや公式携帯サイト、阪神電鉄の機関紙でも執筆。マイクでペンで、硬軟織り交ぜた熱い熱い情報を伝えています!!

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