原価高騰にどう向き合えば良いのか? ラーメンが進むべき2つの道とは
現代のラーメンは「B級グルメ」なのか?
原油価格食材価格の高騰や円安による、食品などの値上げのニュースが連日のように報じられている。さらに大手飲食チェーン店なども軒並み商品価格の値上げに踏み切った。薄利多売の飲食業界にとっては、企業努力では吸収出来ないほど今回の原価高騰の影響は大きい。
それはラーメンであっても変わらない。「国民食」「B級グルメ」「庶民の食べ物」として戦後から愛されて来たラーメンだが、今や一杯1,000円前後する店も増えて来た。肉、魚、調味料、さらには小麦まで値上げしているのだから、これまでの価格を維持することは不可能と言っても良いだろう。
そもそも、現代のラーメンはB級グルメなのか。今のラーメンと昔のラーメンとでは設計そのものが異なり、手間隙や材料にかけるコストが飛躍的に増えており、安く提供することが難しい。一杯500円の時代のラーメンとは、使用している食材も仕込みにかける手間も全く違うのだ。
ラーメンの進むべき道は2つしかない
一般的なラーメン店の場合、食材原価率は30%前後と言われている。売価800円のラーメンであれば240円ほどが原価だ。仮に食材原価が20%上がったと仮定すると288円で、売価を960円にしないと計算が合わない。さらに食材原価には含まれない人件費や水道光熱費の増加分も加味すると、一杯1,000円という価格は決して高くはない。
しかしながら消費者側のイメージは「B級グルメ」「庶民の食べ物」のままなので、ラーメンに高いお金を払おうと思う人はいまだ少数派だ。さらに不景気によって外食支出を引き締めている中で、ただ原価が上がったから価格に転嫁するだけでは理解を得られない。
ラーメンの品質の向上幅と価格の上昇幅が比例していない今の時代において、ラーメンが進むべき道は2つしかない。「ラーメンの価値を上げる」か「ラーメンの設計を見直す」かのいずれかだ。
新たな価値観を付加して更なる高みを目指す
前述したように、ラーメンを「B級グルメ」と思っている消費者に対して「原価が上がったので値上げします」「1,000円になります」は通用しない。なぜならば、そのラーメンはそもそも1,000円の価値や満足感を目指して作られたものではなく、外的要因によって仕方なく1,000円という価格になっているに過ぎないからだ。
ならば「B級グルメ」の延長であったラーメンとは決別し、新たなラーメンの価値観や体験を新たに創造して、ラーメンそのものの価値や価格を上げるべきだ。ラーメンは安いもの、という作り手側の固定観念を取り払い、食材はもちろん食器や空間、さらにはサービスに至るまで、従来のラーメン店とは違うアプローチでラーメンを再構築するのだ。
当然のことながら、ラーメンを安いものと思っている消費者からは見向きもされなくなるだろう。しかしながら、そう思っていない消費者からは拍手喝采されるはずだ。さらに今後本格的にインバウンド需要が増えていくと、まずまずそのニーズは高まってくる。日本人よりもはるかに豊かで外食にもお金をかけるインバウンドを狙うラーメンの時代が本格的にやって来る。
国民食としてのイメージを堅持して再設計する
もう一つの道は、消費者がイメージする「国民食」「庶民の食べ物」としてのラーメンを作り続けるということ。原価が高騰してラーメンの価格も上がっている中で、冷え込む消費者マインドに寄り添う形で、1,000円以下のラーメンを提供する店の存在も重要だ。そのためにはラーメンの設計を見直し、消費者に安価でも満足して貰えて、今の原価でも利益が得られるラーメンをあらためて作り直す必要がある。
ラーメンがなぜ多くの人に愛されて国民食となり得たか。戦後の貧しかった日本で、当時の人たちは物資も少ない中で創意工夫をしながら、安くてお腹に溜まる温かいラーメンを提供したからだろう。その当時と比べれば、今の時代は食材も技術も情報もはるかに豊かになっている。どこにでもある食材を使い、限られた原価の中で安くて美味しいラーメンを作る。それこそラーメン職人の腕の見せ所ではないだろうか。
長引くコロナ禍によって外食市場が縮小し、さらに原価高騰なども相まって、ラーメン店を取り巻く環境はいまだ厳しい。更なる高みを目指してラーメンに新たな価値を与えるにせよ、庶民の食べ物としてのスタンスを維持していくにせよ、今こそラーメンを再設計しなければならない。これまでのラーメンでは通用しない時代がもうそこまで来ているのだ。
※写真は筆者によるものです。
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