選挙結果を受けて改憲のハードルを上げた公明党の妙案
フーテン老人世直し録(339)
霜月某日
国会から逃げ回った安倍総理がようやく所信表明演説を行ったが、掛け声ばかりで具体性に乏しい内容であった。ただフーテンが注目したのは公明党との関係に言及したところである。安倍総理が公明党に神経を使っていることを感じさせた。
演説の最終盤で安倍総理は国会議員全員に向かい憲法改正を呼びかけたが、その直前に「自民党と公明党が野党として過ごした3年3か月、私たちはなぜ政権を失ったのか国民の声に耳を傾けるところからスタートし、そしてこの5年間、政策の実行に全力を尽くしてきた」と自公が運命共同体であることを強調した。
先月の選挙結果をメディアは「自公圧勝」と報道し、確かに議席数で自公は3分の2を超える議席を維持した。しかしこれまで議席を減らすことのなかった公明党は選挙前より6議席も減らしたのだから、公明党にとって選挙結果は「圧勝」どころか「敗北」である。
公明党が最も重視する比例の獲得票数をみると、2005年の郵政選挙で獲得した900万票から200万票以上も減らし初めて700万票を割り込んだ。固い組織票に守られているはずの公明党に赤信号が灯ったのである。
ついでに言えば民進党が立憲民主党と希望の党に分裂したことをメディアはマイナス・イメージでしか見ないが、去年の参議院選挙で民進党が獲得した比例票は1100万票、今回は立憲民主党が1100万票で希望の党が970万票だから倍増である。政権を失って以来低迷し続けた旧民主党勢力が分裂によって政権交代を実現した頃の票数に戻ったと見ることができる。
公明党は選挙結果を分析した結果、安倍政権が前のめりになっている憲法改正に慎重な姿勢を明確にするようになった。山口那津男代表は12日のラジオ番組で国民の過半数ではなく3分の2以上の賛成が前提でなければ憲法改正を発議すべきでないと発言した。
これは安倍政権の憲法改正にとって高いハードルになる。そのことが念頭にあって安倍総理は憲法改正を呼びかける前に、自民党と公明党の運命共同体的な関係に言及し、公明党に考えを変えるよう要請したのではないかとフーテンは思った。
山口代表は、国民投票で過半数ぎりぎりの賛成で憲法改正が実現した場合、国内に大きな反対勢力が残ることになり「不幸の始まりになる」と述べた。確かに過半数ぎりぎりでは反対した国民が改正憲法に不満を持ち続け覆そうとすることになる。憲法改正を巡って国内の対立と分断が激化することになれば賢明な政治とは言えない。
しかし安倍総理のこれまでの政治手法を見れば、国民の半数が反対しても強行する可能性があり、日本が「不幸の始まり」になる懸念を拭い去ることは出来ない。山口代表の言う国民の3分の2の賛成が得られることを発議の前提にするという考えには説得力がある。
実は国会は2000年1月から2003年末まで衆参の憲法調査会が学者、評論家、ジャーナリストなど有識者を招き、「日本のあるべき姿」について政治家との間で400時間を超える議論を行ったことがある。その頃は憲法を巡る議論が国内に対立や分断を生み出す懸念はなかった。
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