タピオカ後から「グランメゾン東京」の影響まで グルメにおける7つの注目トピックス2020年
グルメに変化のあった2010年代
2020年も幕を開けました。
2010年代は日本のグルメに関して大きな動きがあった時代だったと思います。
「世界のベストレストラン50」に続いて「アジアのベストレストラン50」も始まってフーディーズといった存在がクローズアップされたり、ミシュランガイドで東京や大阪以外の地域も続々と発売されて美食の裾野が全国に広がったりしました。
インターネットの目覚ましい発展も、食文化に影響を及ぼしています。食べログやRettyといったグルメサイトが着実に成長したことによって様々な飲食店の情報が簡単に入るようになったり、InstagramをはじめとするSNSが利用されるようになって爆発的なグルメブームが生まれたりするようになりました。
もちろん、レストランのトレンドも変化しています。地産地消や自然回帰の志向が強まったり、料理科学が深く研究されて本がたくさん出版されるようになったり、料理のジャンルや調理法がますます融合していったりしているのです。
では、2020年のグルメシーンでは、何に注目すればよいでしょうか。
いくつかのトピックスに分けたいと思います。
- アジアのベストレストラン50
- ミシュランガイド
- 新しいホテルの料飲施設
- 昨年末にリニューアルオープンしたホテルの料飲施設
- 東京2020オリンピック・パラリンピック
- ポストタピオカ
- フレンチの復権
以上の項目について詳しく説明していきましょう。
アジアのベストレストラン50
食には様々なアワードやレストランガイドがありますが、近年最も勢いのあるものといえば「ベストレストラン50」。
「世界のベストレストラン50」「アジアのベストレストラン50」「ラテンアメリカのベストレストラン50」といった世界全体および地域別のアワードに分かれており、レストランが1位から50位までランキングされるという画期的な仕組みとなっています。
投票者である世界中のフーディーたちは18ヶ月以内に訪れたレストランに投票するので、最新のガストロノミーが色濃くランキングに反映されるのです。
そして、この2020年に注目したいのは「アジアのベストレストラン50」。
なぜならば、発表会が初めてこの日本で開催されることになっているからです。受賞セレモニーは3月24日に佐賀県の武雄市で行われ、世界を代表する料理人や影響力のあるフーディーズが一堂に会します。
では、「アジアのベストレストラン50」の見どころはどこでしょうか。
日本のチェアマンを務める中村孝則氏に話を聞きました。
「最も関心がもたれるのが1位争い。シンガポールの『Odette(オデット )』が連覇する可能性もあるが、前回4位のバンコク『Suhring(ズーリン)』も非常に素晴らしい。日本勢では前回3位『傳』や前回5位『フロリレージュ』が最有力。『NARISAWA(ナリサワ)』も有力で、1位となれば1回目開催の2013年以来となる。昨年8位までのレストランはどこも1位を獲得するポテンシャルを秘めている」
1位争い以外にも、注目どころはあるといいます。
「台湾のガストロノミーが非常に熱い。昨年7位『Mume(ムメ)』や30位『Raw(ロウ)』は躍進するのではないか。『JL Studio(ジェーエルスタジオ)』など、新しいレストランがランクインする可能性もある。『INUA(イヌア)』や『Ode(オード)』といった日本のレストランも50位以内に入るかもしれないので、是非とも注目していただきたい」
非常にエンターテインメント性も高い「ベストレストラン50」は、美食の祭典と世界中から注目されるイベントになっているだけに、3月24日の開催が待たれます。
ミシュランガイド
1900年からの古い歴史を誇り、大きな影響力をもつレストランガイドといえば「ミシュランガイド」です。1926年から星をつける制度が始まりました。
日本では2007年に出版されてから、毎年多くの料理人が、その結果に一喜一憂しています。どの料理人も、まさに料理人生をかけて、星を獲得しているといってもいいでしょう。
その最新版となる「ミシュランガイド東京2020」では、いくつかの動きがありました。
予約可能店だけを掲載することを明らかにしたことは大きいことです。三つ星として掲載されている「すきやばし次郎本店」「鮨 さいとう」が不掲載となりました。以前から一般客でも予約できるようにと話し合いがもたれていたようですが、折り合いがつかなかったということです。
ミシュランガイドはそもそも、旅行する際に訪れることができる飲食店を紹介するために誕生した本であるだけに、その本質に戻ったといえるでしょう。今後ミシュランガイドに掲載されるためには、一部の常連にだけではなく、より多くの人々に門戸を広げることが必要となります。
「プリズマ」と「INUA」が二つ星として掲載されたことにも、大きな意味があるでしょう。
日本のミシュランガイドはイタリア料理や中国料理に厳しいのではないかともいわれていますが、「ミシュランガイド東京2011」以来となるイタリア料理店「プリズマ」が二つ星に昇格しました。イタメシがブームとなってからイタリア料理は、カジュアル店からファインダイニングまで、既に日本の食文化に組み込まれた感もありますが、またイタリアンの人気が再燃するかもしれません。
「INUA」がオープンした2018年は不掲載でしたが、2019年は掲載されることとなり、初登場でいきなり二つ星。世界のガストロノミーでは、北欧は世界のガストロノミーでひとつのキーワードとなっていますが、日本でも北欧料理に耳目が集まりそうです。
ミシュランが改めて発したメッセージもあります。それは、評価対象はあくまでも「料理」のみであり、審査員はミシュランの正社員で、公正平等に評価できるように訓練されているということです。
食のメディアが力をもっている時代であり、飲食店に対する評価の透明性が問われているだけに、非常によいアナウンスでしょう。
ミシュランガイド出版記念会・発表会の様子をライブ配信したり、Web版「クラブミシュラン」にも力を入れたりと、時代に合わせて進化しています。
ミシュランガイドの存在や星による格付けは、日本にしっかりと根付きましたが、今年はどのような変化があるのか、注視したいです。
新しいホテルの料飲施設
新しいホテルも引き続きオープンしますが、その料飲施設に注目したいです。
キンプトン 新宿東京は、パーク ハイアット 東京のすぐ近く、2020年春にオープンする IHG・ANA・ホテルズグループジャパンの日本初上陸ブランド。「ザ・ジョーンズ カフェ&バー」で提供されるニューヨークスタイルのお洒落なフードやスイーツ、ゾーニングされた「モダンブラッスリー・DISTRICT」のグリルやシーフードを取り入れた創作料理が気になるところです。
6月にオープンする東京エディション虎ノ門はマリオット・インターナショナルの最高級ホテルであり、「神谷町トラストタワー」31階から36階に入居します。日本初上陸ブランドで今年一番の目玉ですが、料飲施設についてはまだ明らかにされていません。ただ、エディションの重要なコンセプトに「その土地と時に合わせた最高の食事」があるだけに、素晴らしいファインダイニングがオープンするのではないでしょうか。
夏にオープンする予定のフォーシーズンズホテル東京大手町はオールデイダイニングに加えてシグネチャーレストランも擁すると発表しています。高級ホテルであるフォーシーズンズホテルのシグネチャーレストランなので、オーソドックスにフランス料理やリストランテとなるのか、もしくは、ヨーロピアンスタイルのレストランやグリルレストランになるのか気になるところです。
東京以外では、日本で5つ目となり、5月22日にオープンするザ・リッツ・カールトン日光から目が離せません。栃木県日光市の日光国立公園内という素晴らしいロケーションにあり、総料理長を務めるのが早坂心吾氏ということで食への期待が高まります。早坂氏は東京のラグジュアリーホテルでコンテンポラリーな料理を提供してきただけに、日光という地でどのような美食を体験させてくれるのか今から楽しみです。
昨年末にリニューアルオープンしたホテルの料飲施設
昨年末に料飲施設をリニューアルオープンしたホテルにも引き続き注視したいです。
2019年12月1日には、文豪たちに愛された山の上ホテルが、7つものレストラン・バーをリニューアルオープンしました。ホテルの代名詞である天ぷらから、フランス料理、中国料理、鉄板焼などを有しています。34の客室を有する小さなホテルとしては、信じられないほど料飲施設が充実しているといってよいでしょう。
料理は過去にあったものを復刻したり、伝統を踏襲したりしていますが、新しい要素もたくさんあるだけに、これまでと違った層のゲストも訪れるのではないでしょうか。
2019年12月11日に新しくオープンしたのが、ストリングスホテル東京インターコンチネンタルの複合的な料飲施設「ザ・スコア・ダイニング」。楽譜をテーマとした珍しいレストラン・バーで、イタリアングリル、中国料理、鉄板焼、バーが取り揃えられています。
総料理長のオリヴィエ・ロドリゲス氏はミシュランガイドで一つ星を獲得したこともあり、日本語が堪能で日本の文化も知悉しているという、稀有な料理人。品川には食のイメージがないだけに、これからどのように品川を変えていくことができるのか期待しています。
東京2020オリンピック・パラリンピック
2020年における最大級のイベントといえば「東京2020オリンピック・パラリンピック」で間違いないでしょう。オリンピックでは33競技が、パラリンピックでは22競技が開催されます。
206もの国や地域が参加を予定しており、世界中から多くの選手や関係者、サポーターなど多くの人々が日本を訪れます。
実に様々な国から訪れるので、珍しいフードやドリンクを取り上げたコンテンツも増え、それによってブームも起きるかもしれません。ハラール料理やビーガン料理も、より一層フィーチャーされそうです。
人気競技からも目が離せません。マラソンで活躍が期待されるアフリカ勢、サッカーで優勝が予想されるブラジルの料理に焦点が当てられる可能性があるからです。素晴らしい結果を残した選手が普段から食べているものに注目が集まったりするのではないでしょうか。
東京には世界各国のおいしい料理が集まっていますが、「東京2020オリンピック・パラリンピック」を通して、日本の人々が知らなかった新しい料理が発見され、ブームが起きるかもしれません。
ポストタピオカ
昨年末にぐるなび、および、ぐるなび総研による毎年恒例の「今年の一皿」が発表されました。大方の予想通り、大賞にはタピオカが選ばれ、準大賞には発酵食メニューが選出。他にノミネートされたものは、スパイスカレー、チーズグルメでした。
タピオカドリンクやタピオカはまだまだ人気ですが、それに代わるメニュー開発は、どの飲食店も行っているところでしょう。同じ台湾の食ということでは、フードであれば食べ歩きもできる胡椒餅や葱抓餅あたりが面白いかもしれません。
台湾スイーツでは、香りが特徴的な仙草ゼリーやパリンとした食感の愛玉子は印象に残るので、ポストタピオカによさそうです。優しい味わいの豆花は、既に日本でも知っている人が多いかもしれませんが、食味が素晴らしいので、またクローズアップされる可能性があるでしょう。
フレンチの復権
昨年末に放送されたTBS「グランメゾン東京」は木村拓哉氏が主演したこともあって、多くの方に観られたようです。オリジナル作品ということで、リアルさにこだわっており、ファインダイニングの裏側を興味深く描いていました。
2019年に発表された「世界のベストレストラン50」でもフランス南部の「ミラズール」が1位を獲得し、世界的にフランスに関心が寄せられていると思います。
フランス料理は、様々な調理法と無数にあるソースによって、食材のポテンシャルを引き出し、美食へと昇華させる料理。ワインと合わせてみれば、食味や香りはさらに広がりをみせます。「グランメゾン東京」は、新しい料理や食体験を紡ぎ出そうと日々励んでいる料理人の姿を視聴者に届けたといってよいかもしれません。
「グランメゾン東京」を観れば、ミシュランガイドやベストレストラン50で評価されているレストランで、一度は食べてみたいと思うのではないでしょうか。
2020年は、私の希望も込めて、フランス料理が復権し、ファインダイニングへの利用が増え、素晴らしい飲食店に活気が戻ることを期待しています。
よい食体験で人生を豊かに
ここまで、2020年における食の注目について紹介してきました。
新しく開業するホテルのレストラン、既にリニューアルオープンしたホテルの料飲施設がどうなっていくのか気になります。
「アジアのベストレストラン50」は見どころがいくつもありますし、ミシュランガイドは昨年変化があったので今年どのように影響があるのか注視したいです。
「東京2020オリンピック・パラリンピック」から何かしらの食ブームが生まれたり、ポストタピオカとして他の台湾フードや台湾スイーツがトレンドになったりするかもしれません。
「グランメゾン東京」の影響を受けて、フレンチを中心としたファインダイニングの価値が再認識され、多くの人が訪れたり、メディアに取り上げられたりすれば嬉しいです。
そして最終的には、2020年に、みなさんがたくさんの素晴らしい食体験に出会い、それによって人生が豊かになっていくことを願っています。