雨の日曜日にぜひ。面白過ぎずつまらな過ぎない映画『心と体(Appendage)』
ゆるキャラがうけるのなら、ゆるホラーもうけるはずだ。ゆるくてチープで怖くないところが可愛い、と。
鑑賞に知的なものは一切要求されず、恐怖や驚きによる筋肉的な緊張も強いられない。見終わった後あなたの体と頭は休まっているはずだ。
■ひま潰しの王道、「ゆるホラー」
梅雨空で外出は面倒だし、特にやることもなく体も頭も休めたい――そんな日曜日の午後におススメしたい。
お昼ご飯と夕ご飯の間にぽっかり空いた手持無沙汰な時間のツナギ、見た後の余韻というのは存在せず、さりとて、「私の休日を返してくれ!」という怒りも湧かない。5分で忘れて、さくさく夕ご飯の準備に取り掛かれることだろう。
ホラー映画というのは、名作だと緊張させられるし、駄作だとあくび連発→怒り心頭となってしまうので、面白過ぎずつまらな過ぎない映像体験は貴重である。本作こそ「ひま潰しの王道」と言ってもいい(褒めてます)。
■安パイ感と安直感ある邦題もユルい
邦題の付け方もアンニュイでちょうどいい感じだ。
原題の『Appendage』というのは「虫垂」という意味で、始まって数分で主人公の盲腸が痛くなるので、邦題は『虫垂』とか『盲腸』とかでいいはずなのだが、それじゃあ売れない、ということで唐突に『心と体』を捻り出した。
『心と体』なら何にでもあてはまるし、ツッコまれてもいかようにも理屈を後付けできる、という安パイ感と安直感がプンプン。
さしずめ、雨の日曜の宣伝会議で名付けられたのだろう。
ただ、『心と体と』という一字違いの名作(2017年ベルリン国際映画祭金熊賞)があって、検索すると両作がごっちゃになって引っ掛かり非常に紛らわしい。
あちらにとっては「もらい事故」だと言える。
■鑑賞のコツ。難解語は右から左に流す
鑑賞にはコツがある。
お話の序盤に「キメラ」とか「デュアルDNA」とか日曜の午後に相応しくない用語が出てくるのだが、これらは流しても大丈夫だ。日本には「人面瘡(じんめんそう)」という妖怪・奇病が存在しているので、「主人公に人面瘡ができた」という解釈でお話は十分理解できる。
アンナ・ズロコビッチ監督はアメリカ人なので荒唐無稽に感じたのだろう、医学的な説明を無理に付けようとして生真面目に遺伝学に踏み込んでしまっているのだが、ここはゆるく妖怪・奇病ということで。
お話的に大事なのは、人面瘡がなぜできたのか、ではなく、人面瘡に何をするか、人面瘡が何をするか、の方である。
■主人公の演技は下手なのか?
お話は、つまらなく始まり、途中から面白くなり、最後に丁度いいゆるさに着地した。それによって、主演女優ハドリー・ロビンソンへの評価も上下した。最初は下手に見えて、途中から上手く見えた。
結局どうなのかの答えは、みなさんにお任せしたい。
過去に『クワイエット・プレイス』や『禁じられた遊び』の主演女優の演技が許せなかった自分が、なぜハドリー・ロビンソンと『心と体(Appendage)』に腹を立てないのか、我ながら不思議である。
これがゆるさ、なのだろう。
特撮もチープで予算の少なさが身に沁みる作りになっている。人物の造形にも深みがなくて、典型的で類型的な「よくあるお話」である。
だからこそ、こちらの期待度が下がっているのかもしれないし、「よくあるお話」だから「あの映画や漫画に似ている」と思い当たることが多くて、評価が甘くなっているのかもしれない。
いずれにせよ、梅雨の週末なら損はさせない作品だ。
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※写真提供はシッチェス・ファンタスティック映画祭