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笑ったら即死!自分史上最悪の『クワイエット・プレイス』(ネタバレ)

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
妻が主演で夫が監督兼助演、作中でも夫婦。愛し合っているのは間違いない(写真:REX/アフロ)

※これはツッコミどころ満載の映画『クワイエット・プレイス』を見て笑う評です。ネタバレがありますので、未見の人はぜひまず見て、一緒に笑いましょう!

まずはこの予告編を見てほしい。

「ここで生き残るルールは1つ」、「絶対に音を立ててはいけない」、「聞かれたら“何か”がくる」、「音を立てたら、即死」

これがこの世界のルールです。

で、主人公たちは裸足で暮らしている。これがすでにおかしい。

足音を消すためになぜ裸足なのか? 忍者は裸足でしたか? 地下足袋がないのなら靴下を何重にも履こうよ。だって、ガラスや石を踏んで悲鳴が出ちゃったら即死なんだから。

自然の中には風や川や滝があって常に音が出ている。スニーカーの出す音は明らかに自然の音よりも小さい。

そもそもおかしいのは、そうした自然の音には化け物が反応しないこと。なんで? 最初は襲ったけど空振りで学習したってこと?

もっとおかしいのは、化け物の出す音に化け物が反応しないこと。

一匹の化け物が出した音に別の化け物が反応して取っ組み合いになる。その大騒ぎを聞き付けた何匹かが飛び掛かって、阿鼻叫喚の大騒ぎで数えきれない化け物が殺到する……なんてことは起きない。なんで?

5分ごとに爆弾を爆発させる罠を作っておけば、爆音に集まる→取っ組み合いの大騒ぎが始まる→爆死→爆音に集まる……の無限ループで簡単に駆除できてしまうから?

エミリー・ブラントはこの作品で全米映画俳優組合賞助演女優賞を受賞している
エミリー・ブラントはこの作品で全米映画俳優組合賞助演女優賞を受賞している写真:ロイター/アフロ

この夫婦のやっていることもおかしいよね。

食料の確保に街へ遠征する。4歳の子供を同行させて単独行動させるってどういうこと? 棚から物落としたりするじゃん! 子供なんだから。列の最後尾を歩かせるのってどうよ? 大人が監視していないと何するかわからないのに。

一番わからないのは、サバイバル生活中に子供を作ること。オギャーのひと泣きで家族全員即死でも、子供欲しいって????

「子供たちを守るのは私たちよ」ってセリフがあるけど、「音を立てたら、即死」のルールを一番尊重していないこの夫婦は、むしろ子供の命を危険にさらしている。

多分監督は、音を出せない出産というスリリングなシーンが欲しかったし、赤ちゃん込みのサバイバルで家族の絆とか母の強さを強調したかったんだと思う。

でもね、それ順序が逆。サバイバルを危うくする決断を主人公たちにさせたら、サバイバルのリアリティが崩壊する。“なんだこの馬鹿夫婦!”なんて思われたら、家族の絆をいくら描いてももう心に入ってこない。

まだまだツッコミどころはある。

裸足の伏線の回収。なんで、毎日使っている階段に危ない釘を放置しておけるの? しかも錆びてもない真っさらの釘ってどういうこと?

傷もおかしい。足から釘を抜いた描写をアップで見せておいて、次のシーンでは釘が刺さったままってどういうこと? だいたい踏み抜いたんだから、釘だけが足に刺さっているんじゃなくて、階段の木片が挟まってないとおかしいじゃない?

極めつけは、階段で「右足」で踏み抜いて、痛々しく釘が刺さっているのは「左足」で、包帯は「右足」に巻いているっていうのは、もうギャグでしかない。

子供役の2人とともに
子供役の2人とともに写真:Shutterstock/アフロ

こういう「つながり」のミスは時々ある。

たいていは衣服のボタンのかけ外しとかワインの分量が違うとか細かなミスだけど、物語上のこれだけ重要なファクターでミスるのは珍しい。

裸足の伏線回収のために、わざわざ不自然に釘を出現させて撮ったシーンなんだから、スクリプターではなく監督がまず最初に猛省してほしい。

あと、出産シーンで大口を開けて叫ぶっていうのもおかしいよね。音を立てたら、即死なんだから、普通は衣服やタオルを噛んで声を出さないように努力する。

スクラップの車が坂を転がり落ちるシーンもあるけど、エンジンがかかってないとはいえ相当タイヤの摩擦音が出ているはず。

倒したら即死なのに、やたらたくさんある蝋燭、落としたら即死なのに、壁一杯に飾ってある額縁……。

こういう詰めの甘さが、アイディア自体は良い「音を立てたら、即死」の世界観を壊してしまうわけだ。

まあ、もうどうでも良くなってきたけど……。

アツアツの二人
アツアツの二人写真:REX/アフロ

監督兼夫役のジョン・クラシンスキーと、主演のエミリー・ブラント実生活でも夫婦であるらしい。だからなのか、彼女を強い女としてスクリーン上で輝かせるために撮った作品のように見える。そのために不自然な設定やご都合主義、つなぎミスのようなディテールには目をつむった、と……。

まあ良く言えば、監督の妻への愛が伝わってくる。悪く言えば、監督が妻ばっかり見ていて観客の方を向いていない。

終わり方、始まり方からして次回作があることは見え見えだったけど、パート2の『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』ももう出ている。怖いもの見たさに見ることにしよう。

エミリー・ブラントはこの作品で賞も獲っているし、口コミだと評価が高い。あなたは怖がりますか? それとも笑いますか?

※『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』の予告編↓

※『クワイエット・プレイス』のDVDサイト

※『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』のDVDサイト

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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