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「一般道はレース場じゃない」異常な高速度で家族奪われた遺族らが会見 街頭で署名活動も

柳原三佳ノンフィクション作家・ジャーナリスト
加害車に時速160キロで追突され、大破した佐々木さんのバイク(遺族提供)

 今年2月、宇都宮市で起こった時速160キロの超高速度による追突事故。この事故で夫の佐々木一匡さん(63)を亡くした妻の多恵子さんが、7月21日、都内で記者会見を開きました。

 この日の会見には、2021年2月、大分市で発生した時速194キロ衝突事故で、弟の小柳憲さん(50)を亡くした姉も、多恵子さんの隣に着席して参加。

 2人は『制限速度を大幅に超える超高速度での事故は極めて危険。過失ではなく、より刑の重い危険運転致死の罪で裁かれるべきだ』と訴えました。

 また会場には、2018年12月、時速146キロでの衝突事故で息子の大西朗さん(31)を亡くした母のまゆみさんも、三重県津市から応援に駆け付け、約1時間にわたって行われた会見を見守りました。

7月21日、都内で記者会見を開いた宇都宮の佐々木多恵子さん(右)と、大分の遺族(筆者撮影)
7月21日、都内で記者会見を開いた宇都宮の佐々木多恵子さん(右)と、大分の遺族(筆者撮影)

■時速160キロでの追突死亡事故がなぜ過失?

 佐々木一匡さんの死亡事故については、事故から約3か月後、以下の記事で取り上げました。

●リヤショックはちぎれ、ホイールも砕けて… 超高速の無謀追突で夫が死亡。なぜこの事故が「過失」なのか- 個人 - Yahoo!ニュース

 本件事故は、20歳の被告が過失運転致死の罪で起訴され、すでに宇都宮地方裁判所で裁判が始まっていましたが、「過失」として起訴されたことに納得できなかった遺族が「危険運転致死罪」への訴因変更を求めて署名活動を展開。その後、予定されていた公判が延期となり、6月28日、検察の指示による補充捜査が事故現場を封鎖して行われました。

●死亡事故から4か月半…、地検の指示で異例の再実況見分 時速160km暴走追突 遺族の複雑な思い 個人 - Yahoo!ニュース

6月28日、事故現場の国道を通行止めにして再検証が行われた(遺族提供)
6月28日、事故現場の国道を通行止めにして再検証が行われた(遺族提供)

 一方、大分の時速194キロ衝突事故は、2022年の8月に遺族が会見を行い、その後、署名活動を開始。遺族からの申し立てを受けた大分地検は、「危険運転致死罪」への訴因変更を行いました。初公判はこれからの予定です。

●【194キロ死亡事故】異例の訴因変更 弟亡くした姉が筆者に語ったこと - 個人 - Yahoo!ニュース

時速194キロで被害者の車に衝突した加害少年の車(遺族提供)
時速194キロで被害者の車に衝突した加害少年の車(遺族提供)

■時速146キロで4人死傷、「危険な運転」でも「過失」

 一方、三重県津市で発生した時速146キロでの4人死傷事故は、すでに高裁判決が確定しています。

 2021年2月、名古屋高裁(堀内満裁判長)が下した判決文には、

「制限速度60km毎時の一般道を時速約140kmを超える高速度で、しかも頻繁に車線変更を繰り返し、ほかの車両の間隙を縫うように走り抜けるという、公道である本件道路をあたかも自分一人のための道路であるかのごとき感覚で走行するという身勝手極まりない被告人の運転が常識的に見て『危険な運転』であることはいうまでもない」

 と、その危険性を具体的に指摘したうえで、それでも「危険運転致死傷罪」を適用しない理由について次のように記されていました。

「衝突時の被告人車両の速度、被告人車両の構造・性能、本件道路の状況などを踏まえてみても、被告人の行為が、法2条2号の進行制御困難高速度に該当するとはいいがたく、本件で危険運転致死傷罪の成立を認めることは困難である」

 結果的に名古屋高裁は、過失致死傷罪で懲役7年とした一審の裁判員裁判の判決を支持し、判決は確定したのです。

三重県津市の事故で死亡した大西さんの遺影。結婚間近だったという(遺族提供)
三重県津市の事故で死亡した大西さんの遺影。結婚間近だったという(遺族提供)

 なぜ、衝突直前までまっすぐ走れていれば、時速146キロの無謀な運転でも「危険運転」の罪に問えないのか……。

 今回の会見で、佐々木多恵子さんの代理人を務める弁護士は、こう訴えました。

「直線道路なら周囲の車や人など他の交通事情に関係なく、どれだけスピードを出しても危険運転にはあたらないというのはおかしな解釈だ。大分の時速194キロ死亡事故も、宇都宮の時速160キロ死亡事故もまっすぐな道路で起きており、検察は当初、高速度でも制御できる状態だったと判断したが、一般市民の感覚に照らして法律を適用すべきだ。ぜひ最高裁の判断を仰ぎたい。それができなければ法改正しかない」

■7月22日~23日は上野と有楽町で街頭署名も

 佐々木さんのもとには、インターネットなどからすでに6万人を超える署名が寄せられています。

 また、7月22日(土)~23日(日)は、午前10時から上野駅周辺と有楽町駅周辺において、署名を呼び掛けるチラシを配布予定です(チラシがなくなり次第終了)。

佐々木さんが街頭署名用に作成したチラシ(筆者撮影)
佐々木さんが街頭署名用に作成したチラシ(筆者撮影)

『時速160キロ『危険運転』ではないのか』と書かれた署名のチラシには、呼び掛け文が以下のように記されています。

 このまま単なる過失犯としての刑事裁判が進むと、各地の検察庁でも「法定速度の3倍近い速度でも危険運転致死罪の適用を宇都宮地検は見送った」という情報が広がり、今後、同様の扱いとなってしまうことでしょう。

 それは世の中のドライバーに対して、「速度超過だけなら、まず危険運転致死傷罪は適用されることはない」という誤ったメッセージを発信することになります。

「危険運転致死傷罪」は2001年に市民の声を受けて作られた法律です。その適用を避けることは、法律が本来持つはずである危険な運転に対する抑止効果が大きく損なわれてしまうことにつながります。

 この事件に対して補充捜査をしていただいた上で、危険運転致死傷罪への起訴の変更、集団暴走での起訴の追加を求めています。

 1人でも多くの人のご賛同を署名という形でいただけたらと思います。どうかご協力ください。

 多恵子さんは語ります。

「夫の事故は刑事裁判の日程が延期され、補充捜査がおこなわれたものの、まだ訴因変更にはいたっていません。さらに多くの方々にこの問題を知っていただき、同様の事故抑止につながるようにと願っています」

帰宅途中で追突されて死亡した佐々木さん。本田技術研究所で長年、安全な車の開発に取り組んでいた(遺族提供)
帰宅途中で追突されて死亡した佐々木さん。本田技術研究所で長年、安全な車の開発に取り組んでいた(遺族提供)

ノンフィクション作家・ジャーナリスト

交通事故、冤罪、死因究明制度等をテーマに執筆。著書に「真冬の虹 コロナ禍の交通事故被害者たち」「開成をつくった男、佐野鼎」「コレラを防いだ男 関寛斉」「私は虐待していない 検証 揺さぶられっ子症候群」「コレラを防いだ男 関寛斎」「自動車保険の落とし穴」「柴犬マイちゃんへの手紙」「泥だらけのカルテ」「焼かれる前に語れ」「家族のもとへ、あなたを帰す」「交通事故被害者は二度泣かされる」「遺品 あなたを失った代わりに」「死因究明」「裁判官を信じるな」など多数。「巻子の言霊~愛と命を紡いだある夫婦の物語」はNHKで、「示談交渉人裏ファイル」はTBSでドラマ化。書道師範。趣味が高じて自宅に古民家を移築。

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