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「やべぇ!」と吐き捨て、自転車で逃走【池袋ひき逃げ事件】から2年 被害者が瞬間動画を再公開

柳原三佳ノンフィクション作家・ジャーナリスト
2年前、池袋で起こった自転車による歩行者ひき逃げ事件の瞬間(筆者が動画を撮影)

■罪の意識を感じ、自首してほしい

「赤信号無視の自転車にひき逃げされてから、今日で2年が経ちました。でも、犯人は今も捕まらず、事故の看板だけが虚しく佇んでいます……」

 そう語るのは、2022年10月18日の午後3時半頃、池袋駅にほど近い、南池袋3丁目の横断歩道で自転車に衝突されたAさんです。

「ひき逃げ現場は私の通勤路でもあり、この事故のことを忘れたことは1日もありません。そして、2年経っても、未だに身体の不調に悩まされる日々が続いています。せめてこの看板が事故の抑止につながればと思いますが、犯人がこの看板を目にすることで、少しでも罪の意識を感じて自首してくれることを望んでいます」

 以下は、事故の瞬間を記録した映像です。Aさんが自ら入手したもので、現場前のビルに設置されていた防犯カメラに映っていました。まずはこちらをご覧ください。

 上の映像を見てもわかるとおり、Aさんが横断歩道を渡り始めたそのとき、速度を落とさずに走ってきた自転車が衝突し、その衝撃で二人は転倒。しかし、自転車に乗っていた若い男は倒れ起き上がれずにいるAさんを救護しようともせず、そのまま逃走したのです。

 Aさんは、その瞬間をこう振り返ります。

「信号待ちをしていた私は、歩行者用信号が青になったのを確認して横断歩道を渡りはじめました。そして数歩進んだとき、池袋駅から目白方面へ進行してきた自転車に、ものすごい勢いではねられたのです」

 この場所は下り坂のため、自転車はかなりスピードが出ていたようです。

 一瞬気を失いながらも、Aさんはとっさに「警察を呼ぶので、待ちなさい!」と叫びました。その声は防犯カメラの映像にも記録されています。しかし、男は「ごめんなさい」という言葉を残し、慌てて自転車にまたがると、そのまま逃走したのです。

 Aさんはすぐに救急車で搬送。幸い骨折はなく、全身打撲と診断されましたが、動画を見ると相当の衝撃を受けていることがわかります。もし頭部を強打していたら、危険な状況になっていたかもしれません。

「目撃者の話によると、衝突直後、加害者は『やべぇ!』という言葉を発していたそうです。自分の過失で人をはねたことを認識していながら逃げるなんて……、こんな卑怯な人間を許すことはできません」(Aさん)

2024年10月現在の事故現場。事故から2年経った今も看板が立てられている(Aさん提供)
2024年10月現在の事故現場。事故から2年経った今も看板が立てられている(Aさん提供)

■11月1日から自転車の「ながらスマホ」など罰則強化

 実は、Aさんは数年前、大切な家族を交通事故で失った遺族です。最愛の人を亡くし、人一倍交通事故を恐れていたにもかかわらず、ご自身までこうしたひき逃げの被害に遭う……。その現実は、交通事故がいかに身近なところに潜んでいるかということを痛感させられる出来事でもありました。

 警察庁の統計によると、令和5(2023)年中に自転車が当事者となった交通故は7万2339件、前年より2354件増加しています。

 その理由に、自転車運転中の「ながら運転」や「酒気帯び運転」があるとされており、今年の11月1日からは道路交通法が改正され、そうした運転を新たに罰則の対象とすることが決まっています。

 また、自転車の酒気帯び運転に関しては、運転者本人はもちろん、酒類を提供した者など、酒気帯び運転をほう助した者にも罰則が科されます。

 自転車はれっきとした「車両」です。改めて自転車の運転に関するルールを確認しておく必要があるでしょう。

 詳細については、以下の「政府広報オンライン」を参照してください。

2024年11月自転車の「ながらスマホ」が罰則強化!「酒気帯び運転」は新たに罰則対象に! | 政府広報オンライン (gov-online.go.jp)

警察庁のサイトより
警察庁のサイトより

■繰り返される自転車の危険運転

「それにしても、交通法規無視の自転車は本当に多いですね。この2年間、私が事故に遭った現場だけでも、いったい何度、信号無視の自転車を目撃したことでしょう。実は今日(10月17日)も、仕事の帰りに連続で悪質な自転車を見かけたので、思わず写真を撮りました」

 早速、Aさんが撮影したという写真が送られてきましたので、あえてここにアップします。

 まず1枚目は、車道が赤信号なのに、それを無視して斜めに横切る自転車の姿です。

信号無視をして斜めに道路を横切る自転車(2024/10/17/17:43 池袋にてAさん撮影)
信号無視をして斜めに道路を横切る自転車(2024/10/17/17:43 池袋にてAさん撮影)

 そして、7分後に撮影された2枚目も同じく、信号無視をして横断歩道を通過する自転車の姿がとらえられていました。もし歩行者がいれば、Aさんと同じような衝突事故につながる可能性が大です。

赤信号を無視して、堂々と横断歩道を通過する自転車(2024/10/17/17:50 池袋にてAさん撮影)
赤信号を無視して、堂々と横断歩道を通過する自転車(2024/10/17/17:50 池袋にてAさん撮影)

「自転車であっても、ルールを無視した走りをすれば、死亡事故や重傷事故の加害者になりかねません。私は幸い命が無事だったので、こうして事故の状況を話すことができますが、死んでしまったら話すことはできません。だからこそ、今回のひき逃げ映像を繰り返し公開し、一瞬の事故の恐ろしさと、ルールを守ることの大切さを多くの方に知っていただきたいと思うのです」

 ひき逃げ事件発生から2年、今も自首してこない犯人は、Aさんに謝罪するどころか、治療費も休業損害も慰謝料も、一切支払うことなく逃げ続けています。どんな情報でも構いません、心当たりのある方はぜひ警察に情報をお寄せください。

【池袋・自転車ひき逃げ事件詳細と犯人の特徴】

●発生日時/2022年10月18日 午後3時27分頃

●事故現場/東京・南池袋3丁目の横断歩道

●犯人のルート/池袋駅方面から目白方面へ走行中に事故。そのまま目白方向へ。その後、路地へ入って逃走

●犯人の特徴/20歳くらいの若い男性

●自転車/赤色のスポーツタイプの自転車

●着衣/黒い上着

●連絡先/目白警察署 交通捜査課係 03(3987)0110(内線4252)

Aさんが被害に遭った、池袋駅にほど近い事故現場の横断歩道(Aさん提供)
Aさんが被害に遭った、池袋駅にほど近い事故現場の横断歩道(Aさん提供)

ノンフィクション作家・ジャーナリスト

交通事故、冤罪、死因究明制度等をテーマに執筆。著書に「真冬の虹 コロナ禍の交通事故被害者たち」「開成をつくった男、佐野鼎」「コレラを防いだ男 関寛斉」「私は虐待していない 検証 揺さぶられっ子症候群」「コレラを防いだ男 関寛斎」「自動車保険の落とし穴」「柴犬マイちゃんへの手紙」「泥だらけのカルテ」「焼かれる前に語れ」「家族のもとへ、あなたを帰す」「交通事故被害者は二度泣かされる」「遺品 あなたを失った代わりに」「死因究明」「裁判官を信じるな」など多数。「巻子の言霊~愛と命を紡いだある夫婦の物語」はNHKで、「示談交渉人裏ファイル」はTBSでドラマ化。書道師範。趣味が高じて自宅に古民家を移築。

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