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ベンツ、フェラーリ、BMW…「高級車」による高速暴走死亡事故はどう裁かれてきたのか #専門家のまとめ

柳原三佳ノンフィクション作家・ジャーナリスト
時速194キロで死亡事故を起こした車はBMW2シリーズクーペだった(遺族提供)

 大分で起こった時速194キロ死亡事故。当初、加害者は「過失」で起訴されていたが、危険運転致死罪へ訴因変更され、11月5日、発生から3年9カ月たってようやく刑事裁判が始まった。しかし、被告側は「危険運転」を否認し「過失」だと主張。28日の判決に注目が集まっている。

 実はこれまで超高速度による事故の多くが「過失」で裁かれてきた。「衝突するまでまっすぐに走れていた=制御できていた」というのがその理由だ。

 一方、複数の事案に「高級車」という共通項がある。この事実をどう見るべきか。最近の判決をまとめた。

ココがポイント

判決は146キロのスピードで“うっかり”運転していて4人殺しましたというものでした。判決当時、私は当然、危険運転致死傷罪が適用されると思っていた
出典:NHK 2023/12/27(水

なぜ、現職の刑事が、片側1車線の一般道で115km/hもの速度を出し、横断中の歩行者をはねたのか……。

出典:JBpress 2023/4/5(水)

高級外車のフェラーリで、一般道にもかかわらず時速120キロを出していたことなどから、多くのメディアが報じてきた

出典:JBpress 2024/6/18(火)

直進安定性の高い高性能のスポーツカーが、直線道路をまっすぐに走行していれば、かなりの高速度であっても「危険運転」とはみなされない可能性がある

出典:プレジデントオンライン 2023/05/05(金)

エキスパートの補足・見解

 上記で紹介した死傷事故は、どのような車によって引き起こされたものだったのか、その車種とドライバーの年齢等は以下のとおりだ。

大分194km/h死亡事故(制限時速60)/BMW(2シリーズクーペ)/19歳/危険運転致死罪で係争中

三重146km/h死傷事故(制限時速60)/メルセデスベンツ(排気量約3500cc)会社社長/58歳/過失で懲役7年

千葉115 km/h死亡事故(制限時速40)/メルセデスベンツ/千葉県警・刑事/30歳/過失で執行猶予

広島120km/h死亡事故(制限時速50)/フェラーリ/医師/36歳/過失で執行猶予

 

 BMW、ベンツ、フェラーリ…、いずれもスピードメーターは250km/h以上刻まれ、頑丈な車体を備えている欧州製の高級輸入車だ。直進安定性は高く、アクセルさえ踏めば200km/hを超える速度でも十分に走行できる性能を有している。高速度でも事故直前までまっすぐに走れるのはある意味当然だ。

 危険運転致死傷罪の条文には「危険運転」とみなされる速度について「進行を制御することが困難な高速度」と記されているが、その「高速度」は車種によって明らかに異なる。

 一般道で30キロオーバーすれば「一発免停」だ。この処罰の意味はどこにあるのか。車の性能ではなく、危険を顧みず、著しく法を無視したドライバーの順法意識こそ厳しく問われるべきだ。

ノンフィクション作家・ジャーナリスト

交通事故、冤罪、死因究明制度等をテーマに執筆。著書に「真冬の虹 コロナ禍の交通事故被害者たち」「開成をつくった男、佐野鼎」「コレラを防いだ男 関寛斉」「私は虐待していない 検証 揺さぶられっ子症候群」「コレラを防いだ男 関寛斎」「自動車保険の落とし穴」「柴犬マイちゃんへの手紙」「泥だらけのカルテ」「焼かれる前に語れ」「家族のもとへ、あなたを帰す」「交通事故被害者は二度泣かされる」「遺品 あなたを失った代わりに」「死因究明」「裁判官を信じるな」など多数。「巻子の言霊~愛と命を紡いだある夫婦の物語」はNHKで、「示談交渉人裏ファイル」はTBSでドラマ化。書道師範。趣味が高じて自宅に古民家を移築。

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