死亡事故から4か月半…、地検の指示で異例の再実況見分 時速160km暴走追突 遺族の複雑な思い
6月28日、宇都宮市の佐々木多恵子さん(58)から、連絡が寄せられました。
「今朝、主人が亡くなった事故現場の国道を一部通行止めにして、警察による実況見分が行われました」
送られてきた写真を見ると、片側3車線の国道に、捜査車両やパトカーが停められ、複数の警察官の姿も確認できます。
2023年2月14日、この場所で死亡事故が発生してから間もなく4か月半。宇都宮地検の指示を受けた栃木県警宇都宮南署は、午前9時半から約2時間にわたり、新4号国道の平出第2跨道橋と石井高架橋、そして、問屋町跨道橋上の一部区間を通行止めにし、異例ともいえる事故の再実況見分を行ったのです。
多恵子さんは語ります。
「私も朝から現場へ出向き、その様子を見ました。加害者も立ち会うのだと思っていましたが、本人の姿はなく、事故直前、加害者と共にバイクで暴走行為をしていたという2人も、この場に来ている様子はありませんでした」(多恵子さん)
■加害車と2台のバイクはカーチェイス状態だった
本件事故については、5月22日に以下の記事でレポートしました。
リヤショックはちぎれ、ホイールも砕けて… 超高速の無謀追突で夫が死亡。なぜこの事故が「過失」なのか - 個人 - Yahoo!ニュース
2月14日の夜、石田颯汰被告(20)が運転していた乗用車(トヨタ・クラウン)が、制限速度60kmの一般道にもかかわらず、時速160kmを超える速度で走行し、前を走る佐々木一匡さん(当時63)のバイク(ホンダ・ディオ)に気づかず追突。一匡さんはほぼ即死の状態でした。
一匡さんが乗っていたスクーターの損傷の激しさを見れば、その衝撃がいかに大きなものであったかがよくわかります。
現行犯逮捕された石田被告は、その後「自動車運転処罰法違反(過失致死)」の罪で起訴されました。そして、第1回目の公判は4月24日に開かれました。
しかし、この事故が「過失」で処理されていくことにどうしても納得できなかった多恵子さんは、事故から3か月たった5月14日、勇気を振り絞って私のもとにメールを送ってこられたのです。
『捜査が進む中、防犯カメラの映像が解析され、加害者は衝突地点の手前で時速161~162km出していたことが判明しました。この道路の制限速度は時速60kmです。担当副検事に、なぜこのような事故が「危険運転致死罪」にならないのかと尋ねたら、『被告は事故を起こすまで、直線道路を、事故を起こすことなく運転することができていたから、制御困難とまでは言えない』と説明されました。でも、このように無謀で残虐な行為を、このまま不注意による過失で済ませてよいのでしょうか……』(多恵子さん)
■最高検の検事総長宛てに「訴因変更」求める要望書提出
多恵子さんは事故から3か月を節目に、立ち上がりました。大分で起こった時速194Km死亡事故のご遺族ともつながり、署名活動も展開。各メディアも次々とこの事故を取り上げ、広く報じられるようになりました。
そして、再実況見分の2日前(6月26日)には、弁護士と共に集まった5万5000筆以上の署名を携えて、より罪の重い「危険運転致死罪」への訴因変更等を求める「要望書」を、宇都宮地検のほか、東京高検、最高検の検事総長宛てに提出したのです。
18ページにもおよぶその『要望書』には、本件事故の状況とその悪質性が強い口調で綴られ、検察庁への要望が以下のように記されていました。一部ですが抜粋します。
本件事故を起こした被告人の運転行為は、他の車両が通常に走行している一般道において、2台のバイクで時速100キロメートルから130キロメートルで共同危険行為を繰り返しながら走行し、他の車両と衝突しそうになりながらも、さらに暴走を続け、最終的には時速約161ないし162キロメートルという、ありえない高速度で走行するという危険極まりないものであり、その結果として、全く落ち度のない被害者に追突をして死亡させているものです。
このような極めて悪質且つ危険な運転行為について、単純に前方左右注視義務違反だけで立件するのは、あまりに実態とかけ離れています。このような訴因の設定の仕方では、検察に対する国民の信頼が失われること必定です。
ついては、改めて再捜査を尽くした上で、訴因の変更と追加をして頂きたく、強く要望します。
<要望の趣旨>
●「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」第5条の「過失運転致死」罪での起訴がなされておりますが、法第2条2号の「危険運転致死」罪に該当しますので、同罪への訴因変更を行って戴けますよう要望いたします。
●本件事故が発生する以前に、被告人はAおよびBと共に、道路交通法第68条で禁止されている「共同危険行為等の禁止」に該当する運転行為を行っていますので、同法同条違反についても取り扱うよう訴因を追加して戴けますよう要望いたします。
多恵子さんは、今回、突然行われた「再実況見分」という動きを受け、その思いをこう語ります。
「事故以来ずっとふさぎ込んでいた私が、思い切って声を上げてから1か月余りで、信じられないほどの動きがありました。そして、署名には5万5000人を超える多くの方に賛同していただくことができ、心から感謝しています。今回、現場で再捜査していただけたことは、私たちの思いを受け止めてくれてのことだと思うので素直に嬉しく思います。ただ、加害者の勾留期間が切れるときに合わせて起訴するのではなく、たとえ処分保留で保釈になったとしても、充分に捜査をしてくれていたら……と悔やまれます。今後の捜査に期待したいと思います」
もし、遺族があのとき声を上げ、行動を起こしていなければ、どうなっていたでしょうか。おそらく、今回の再実況見分が行われることはなく、刑事裁判は「過失致死」のまま継続し、そろそろ判決日を迎えていたかもしれません。
今、刑事裁判は事実上ストップしています。この先、訴因変更や訴因追加が行われるか否かは、まだわかりません。ただ、被害者・遺族の声を受けて捜査機関が方針を変えたり、時間が経過してから実況見分が行われるということに不安を感じるのも事実です。
交通事故の被害者・遺族の中には、声を上げたくても上げられない人が大勢います。検察にはそうした人たちの思いに寄り添い、再検証の必要のない、丁寧な捜査をお願いしたいと願うばかりです。
★第2回公判・再延期のお知らせ
諸事情により、6月8日に予定されていた第2回公判は延期され、7月25日午前10時からに変更されたとお伝えしましたが、この期日も再度延期されました。次回期日はまだ決まっていません。