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【緊急会見】一般道で時速194kmの死亡事故、なぜ「過失」なのですか? 弟亡くした姉が訴えたこと

柳原三佳ノンフィクション作家・ジャーナリスト
死亡した小柳憲さんが乗っていた車は、衝突の衝撃で大破していた(遺族提供)

■緊急の記者会見で遺族が伝えたかった思い

「弟の車は左側から猛スピードで激突され、運転席のシートベルトがちぎれ、身体が車外へ放り出されました。後ろから来た車が止まって救急車を呼んでくださった際には、最初の声掛けに反応したそうですが、名前までは言えなかったそうです。その後、妹と母が病院に駆け付けたとき、弟は既に息を引き取っていました。顔だけはきれいでしたが、身体はビニールシートでぐるぐる巻きにされ、直接触れることもできず……。いったい、どれほどの衝撃を受けたのでしょうか」

 8月14日、午後1時から大分市内で行われた緊急記者会見。遺族代表として出席した被害者の姉(他県在住)は、時折言葉を詰まらせながら、会場に集まった新聞社やテレビ局の記者たちに向かって、当時の状況について語りました。

8月14日に行われた会見の模様。中央が被害者の姉(匿名のため、黒塗りにしています/筆者撮影)
8月14日に行われた会見の模様。中央が被害者の姉(匿名のため、黒塗りにしています/筆者撮影)

 本件事故については、8月13日、以下の記事でレポートしました。

<一般道で時速194kmの死亡事故が「過失」ですか? 大分地検の判断に遺族のやり切れぬ思い(柳原三佳) - 個人 - Yahoo!ニュース>

 2021年2月9日、大分市の産業道路(通称「40メーター道路」)で、当時19歳の少年が時速194キロで車を走らせて交差点に進入。対向車線から右折しようとしていた会社員・小柳憲さん(当時50)の車に激突し、小柳さんは出血性ショックで死亡、元少年は重傷を負いました。

 小柳さんの車は衝突の衝撃で、約90メートルも飛ばされたそうです。

事故現場の状況(井上郁美氏作成)
事故現場の状況(井上郁美氏作成)

 この事故で元少年が「危険運転致死罪」ではなく「過失運転致死罪」で起訴されたことは、すでに上記記事でお伝えした通りですが、今回の会見は、検察のこの判断に納得できなかった遺族とその支援者が4日前に急遽企画し、開いたものでした。

 遺族は事故から1年半後、検察からどのような説明を受け、そして今回、なぜこの会見を開き、何を訴えようとしたのか……。

 約1時間半にわたる会見をZoomでつないでいただき取材しました。以下、会見で述べられた遺族の肉声をお伝えしたいと思います。

この事故で亡くなった、被害者の小柳憲さん(遺族提供)
この事故で亡くなった、被害者の小柳憲さん(遺族提供)

■交通事故遺族や支援団体の支援を受けて…

<被害者・小柳憲さんの姉の会見より>

 2022年7月20日、大分地方検察庁から電話があり、事故を起こした元少年(現在21)に対して、「危険運転致死罪」(最高刑懲役20年)での起訴を見送り、自動車運転過失致死罪(最高刑懲役7年)で起訴する」との報告がありました。

 なぜこの事故が「過失」なのか……? 大変ショックでしたが、そのときは、検察がそのように判断したのであれば、受け入れるしかないと思っていました。

 しかしその後、元少年が194キロもの速度を出していたことを知り、なぜそんな高速度で事故を起こしながら危険運転致死罪が適用されないのかと、悔しさと怒りがこみ上げ、夜も眠れない日が続きました。

 そんなとき、危険運転致死罪で起訴されなかったことを知った「ピアサポート大分絆の会」共同代表で、ご自身も息子さんを飲酒ひき逃げ事故で失われた佐藤悦子さんや、同会が開催した講演のために来県していた「東名高速酒酔いトラック事故」の被害者遺族である井上保孝さん・郁美さん夫妻とつながることができました。そして、「あきらめるのはまだ早い。訴因を変更してもらうように訴えたらどうか」と力強い助言をして下さったのです。

<「ピアサポート大分絆の会」で講演を行う井上夫妻の動画>

*講演のために大分を訪れた井上夫妻は、小柳さんの事故が「過失」で起訴されたことを知り、事故現場を視察。今回の講演(以下の動画)の中でこの問題についても取り上げておられます。ぜひご覧ください。(47:20~)

■検察官が示した「危険運転致死罪は適用しない」という理由

 実は7月20日の電話で、検察官は加害者が出していた速度について、「びっくりするスピードです」とだけ言っていました。その上で、危険運転致死罪が適用できないことについての説明は以下の通りでした。

<検察官が電話で遺族に説明した内容>

1)本件の加害者は衝突するまでまっすぐ走れている。例えばカーブを曲がり切れなかったというのなら危険運転の証拠になるが、直線道路での走行を制御できていたということになるので危険運転にはあたらない。

2)危険運転致死罪で起訴して、もし同罪が認められなかった場合には、それが前例になってしまう。

3)裁判長も法律家なので自分の考えと同じであろう。

 さらに、検察官にはこのようにも言われました。

4)これから法律を変えようと行動されても本件には反映されない。

5)初犯だと執行猶予の可能性もある

 その後、2度ほどこちらから反論したのですが、検察の姿勢は揺らぎませんでした。

重傷を負った元少年が乗っていたBMWはフロント周りが大破していた(遺族提供)
重傷を負った元少年が乗っていたBMWはフロント周りが大破していた(遺族提供)

左側面から強い衝撃を受けた小柳さんの車、トヨタ・ラッシュ(遺族撮影)
左側面から強い衝撃を受けた小柳さんの車、トヨタ・ラッシュ(遺族撮影)

エアバッグが展開し、一瞬の衝撃の大きさを物語る(遺族提供)
エアバッグが展開し、一瞬の衝撃の大きさを物語る(遺族提供)

■危険運転への訴因変更を求めて

 事故が起きた道路は、高速道路ではありません。信号も横断歩道もある一般道です。一周忌の日に、事故が起きたのと同じ時刻に現場に行きましたが、夜になるととても暗く、遠くから交差点にいる車を視認できるような状況ではありませんでした。

 そのような状況にもかかわらず、「スピードが何キロ出るかを試してみたかった」と、アクセルを踏み続けた元少年。その結果、起こした事故が不注意による「過失」だとは、とても思えません。

 検察官には、加害者の視野が高速度によりどれほど狭くなっていたのか、弟から見てどのぐらいの光が見えたのか? など、いろいろと疑問をぶつけてみましたが、そのような検証は全くしていないようでした。

 刑事裁判の初公判は当初、2022年9月21日に開かれる予定でしたが、関係者の都合で延期となり、まだ期日は定まっていません。このまま過失運転致死罪で裁くのではなく、検察庁には何とか危険運転致死罪への訴因変更をしてもらい、その上で、裁判所の判断を仰ぎたいと切望しております。

衝突後、小柳さんの車が飛ばされた場所には、衝突の激しさを感じさせる痕跡が残されていた(遺族提供)。
衝突後、小柳さんの車が飛ばされた場所には、衝突の激しさを感じさせる痕跡が残されていた(遺族提供)。

事故現場に手向けられた花。高齢となった憲さんの母親が今も毎日のように通い、水を運び、手入れを行っているという(遺族提供)
事故現場に手向けられた花。高齢となった憲さんの母親が今も毎日のように通い、水を運び、手入れを行っているという(遺族提供)

■危険運転の抑止につなげたい

 私たちは、危険運転致死罪で送致をしてくださった大分県警に感謝しています。

(中略)危険運転致死罪の適用が見送られ、このまま過失運転致死としての刑事裁判が開かれてしまうと、各地の検察庁にも、「法定速度を時速134キロも超えるような事案でも、大分地検は危険運転致死罪の適用を見送った」という情報が広まり、今後、同様の判断が重なってしまいかねません。それは世の中のドライバーに対して「速度超過だけなら、まず危険運転致死傷罪は適用されることはない」という誤ったメッセージを発信することになり、この法律が本来持っていた、危険な運転に対する抑止効果が大きく損なわれてしまいます。

 若者の速度超過による重大事故が全国で多発しています。同様の事故がこれ以上起きないことを願って、私たちはこれからも検察庁と協議を重ねていきたいと思います。

 そして、検察には補充捜査の上、新たな証拠を集めていただき、危険運転致死罪への訴因変更を強く求めます。記者の皆様にもどうか注視いただきたいと思います。

 弟の無念を晴らすため、そして異常なスピードによる重大事故を「危険運転」に問えるような世の中になるよう、私たちは引き続き頑張っていきたいと思っています。(以上)

*小柳さんの遺族は、今後、大分地裁だけでなく、福岡高等検察庁や最高検察庁などの上級庁に「上申書」を出すことも検討し、訴因変更を求めていく予定だそうです。

*記者会見で遺族が「参考記事」として紹介したのは以下の記事でした。

●「時速104キロでカーブ曲がれず大事故 『危険運転』で起訴された元大学生の言い訳と判決の中身」 (2022.4.18)

<関連記事>

●これが「一般道で時速194km」のリアルだ! 事故現場で撮影したシミュレーション動画を公開(2022年08月19日 配信)

米作りをする高齢の両親にとって、息子の憲さん(手前の黒い服)は頼りになるかけがえのない跡取りだった。憲さんを失い、今年2度目の収穫期を迎える(遺族提供)
米作りをする高齢の両親にとって、息子の憲さん(手前の黒い服)は頼りになるかけがえのない跡取りだった。憲さんを失い、今年2度目の収穫期を迎える(遺族提供)

ノンフィクション作家・ジャーナリスト

交通事故、冤罪、死因究明制度等をテーマに執筆。著書に「真冬の虹 コロナ禍の交通事故被害者たち」「開成をつくった男、佐野鼎」「コレラを防いだ男 関寛斉」「私は虐待していない 検証 揺さぶられっ子症候群」「コレラを防いだ男 関寛斎」「自動車保険の落とし穴」「柴犬マイちゃんへの手紙」「泥だらけのカルテ」「焼かれる前に語れ」「家族のもとへ、あなたを帰す」「交通事故被害者は二度泣かされる」「遺品 あなたを失った代わりに」「死因究明」「裁判官を信じるな」など多数。「巻子の言霊~愛と命を紡いだある夫婦の物語」はNHKで、「示談交渉人裏ファイル」はTBSでドラマ化。書道師範。趣味が高じて自宅に古民家を移築。

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