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イスラエル軍がレバノン南部キヤム村の住宅地で六塩化エタン発煙弾を使用、白リン弾は使用せず

JSF軍事/生き物ライター
SNS投稿動画よりレバノン南部のキヤム村で使用されたM150六塩化エタン発煙弾

 2024年1月に入り、イスラエル軍がレバノン南部でヒズボラに対し大攻勢を仕掛けようとする動きがある中で、小競り合いが激しくなりつつあります。レバノン南部キヤム村では住宅地にイスラエル軍の155mm榴弾砲から発煙弾が撃ち込まれる事態となっています。

 ただし使用されたのはM825A1白リン弾ではなく、M150六塩化エタン発煙弾でした。空中で5本の煙の筋が拡散していく様子が見えるので、M150だと特定されます。

M150六塩化エタン発煙弾(5本の煙の筋)

※M150六塩化エタン発煙弾(内蔵発煙体5個)と特徴が一致。

SNS投稿動画よりレバノン南部のキヤム村で使用されたM150六塩化エタン発煙弾
SNS投稿動画よりレバノン南部のキヤム村で使用されたM150六塩化エタン発煙弾

 イスラエル軍は10月7日から始まったガザ紛争「ハラヴォート・バルゼル作戦」で、発煙弾について白リンと六塩化エタン(ヘキサクロロエタン、略称HC)を使い分けている傾向があり、白リン弾は野外で使用、六塩化エタン弾は市街地で使用しています。ごく一部で使用弾薬を間違えたのか例外もありますが、基本的な使用傾向はこの通りです。

  • 白リン弾:野外で使用(レバノン南部、対ヒズボラ)
  • 六塩化エタン発煙弾:市街で使用(ガザ、対ハマス)←レバノン南部でも確認

 イスラエル軍はレバノン南部の対ヒズボラ戦であっても、市街地ならば白リン弾の使用は控えて六塩化エタン発煙弾を使用する方針であることがわかりました。白リン弾との見分け方は以下の通りです。イスラエル軍の使用する155mm榴弾砲用の発煙弾は以下の2種類が確認されており、どちらの砲弾も薄緑色に塗装されています。

  • M825A1発煙弾:白リン(白燐)・・・真っ白い煙。発煙体を116個内蔵
  • M150発煙弾:六塩化エタン(HC)・・・やや灰色の煙。発煙体を5個内蔵

 特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の議定書Ⅲ(焼夷兵器の使用の禁止又は制限に関する議定書)で全面禁止されているのは「人口周密の地域内への空中からの投射」ですが、発煙弾はたとえ副次的な延焼効果があってもこの条約での焼夷兵器の定義から外れます。(人口周密はここでは法律用語で使う意味になり条約の和訳でも用いられますが、人口密集の方が一般的な言葉。)

 このため発煙弾として設計されたM825A1白リン弾は条約の制限対象外なのですが、副次的な延焼効果がやや大きく問題化しました。白リン弾は条約上グレーな扱いなのですが(白リン弾の中でもM825A1に限定される話)、六塩化エタン発煙弾は副次的な延焼効果は小さいので、イスラエル軍が現在市街地で使用しているM150六塩化エタン発煙弾は条約には明らかに違反しません。

 現在イスラエル軍は野外では白リン弾を使用しても条約に違反せず問題ないと考えています。その一方で市街地では白リン弾の使用を控えており(条約に明確に違反するわけではないが批判の声が大きいので)、代替品の六塩化エタン発煙弾を使用する方針となっています。

 ただし条約違反の可能性が全く無いといっても、市街地に発煙弾を放り込まれるのは市民にとって大変に迷惑な行為です。いくら死傷者が出難いといっても、戦闘行為であることに変わりはありません。自衛権の行使には必要性と均衡性の原則があるので、この戦闘行為に正当性があるかどうかはまた別の話です。

M150六塩化エタン発煙弾(やや灰色がかった煙)

 やや灰色がかった煙や発煙体が大きめの缶であることから、M150六塩化エタン発煙弾の特徴と一致します。M825A1白リン弾は真っ白い煙で発煙体1個あたりはかなり小さいので違います。

 六塩化エタンの煙は空中では白い筋となって見えますが、これは煙の密度が薄いせいで、地上で発生し続ける密度の濃い煙だと灰色がかった色合いが強調されて見えています。実際に地上でも煙の密度が薄いところでは白色寄りに見えています。

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軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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