【休校中の宿題問題(3)】保護者の不満、不信はなぜ高まったのか、コミュニケーションロス、宿題の質
前回と前々回の記事では、独自調査のデータなども紹介しながら、公立小中学校について、5~6割の保護者が休校中の学校の対応に不満で、不信感を高めていることを確認した。
前回記事:【休校中の宿題問題(2)】学校、教育行政は保護者の不満、不信にもう少し向き合ってほしい
わたしの調査では、もともと不満があった人がより回答しやすい(不満のない人はスルーしている)という可能性もあるから、話が「仮に」半分だったとしても、2~3割の保護者の信頼感が落ちているとすれば、由々しき事態だ。
■学校の対応をあきらめている保護者、転校を考えているという声も
わたしは危機感をもっている。自由記入を読むと深刻なことが一層よくわかる。「もう学校、先生には期待していない」、「塾(または通信講座)を頼ります」、そんな声も寄せられている。次の意見もあった。
誤解しないでいただきたいのは、あくまでもこうした声は一部であり、過半数などではない。だが、程度の差はあれ、こうした不満、不信が氷山の一角である可能性もある。
どうして、こんなことになったのか。以下は、今回の調査で検証されているわけではない、仮説ベースの話にはなるが、3つの問題点について指摘して、対応策を考えたい。今からでも、やれることはある。
■問題1:圧倒的にコミュニケーションが少ない。
保護者の不信が高まっているとすれば、その理由のひとつは、コミュニケーションが少なくて、保護者からすれば、学校側、教員側の思いや努力があまりにも、わかりづらいからだ。
休校なので、子どもを通じて先生たちの様子を知ることもできない。それで、たまに連絡があったかと思ったら、大量のプリントが送りつけられてきて、あるいは「ホームページからダウンロードしてください」と来て(プリンターのない家庭への配慮は?)、「学校再開後にテストをします」などという文章があり、あとは音沙汰なし。こういうケースもある。(すべての学校がそうではないが。前々回の記事での調査結果も参照いただきたい。)
先行研究(もちろんコロナ禍での話ではない)でも、保護者の学校信頼は、教員と保護者との間のコミュニケーション満足度によって影響を受け、コミュニケーション満足度は、コミュニケーション頻度と比較的強い相関を有していることが示されている(文章末、参考文献の露口2012など)。
今回の新型コロナの影響で、むき出しになったのは、あまりにも、学校と保護者、子どもをつなぐ連絡共有手段が細くて、貧しい、ということだ。多くの公立学校などでは、一斉配信メールと電話と学校ウェブページくらいだった。担任の先生もメールアドレスすらもっていないケースも多い(学校の代表メールでやりとりできなくはないとはいえ、不便だろう)。
学校のネット回線の容量、環境も悪くて、YouTubeすら見られない学校もまだまだ多くあるようだ。自治体のセキュティポリシーなどでZoom、Teamsなど多くのネットサービス、クラウドサービスを禁止しているところもある。こうした地域では、「Web会議で子どもたちとつながろう」、「オンラインで双方向性のある授業をやりましょう」などと言っても、できない学校が多いのだ。
だから、学校や教員だけ批判するのは、間違っている。かなり多くが、教育委員会の予算措置やセキュティ設定のせいのところもあるためだ。この問題は、わたしも1ヶ月前から申し上げているが、まだまだ改善されていないところも多いようだ。
記事:【休校中、広がる地域間格差】教育委員会、校長はどっちを向いて仕事しているのか?
とはいえ、学校、教員側にも反省点は多々あると思う。Web会議やネットがたとえ使えなくても、できることはあるからだ。
たとえば、宿題を指示するお便りのなかで、その宿題の意味や意義は、どのくらい書いているだろうか?
向山洋一さんの『授業の腕をあげる法則』(明治図書出版 )というベストセラー本がある。1980年代から売れ続けている驚異の本で、年配の先生のなかには、若い頃に読んだという方も多いと思う。(向山さんが推進していた教育技術法則化運動の是非をここでは論じないし、わたしは特段どちら側にも与していない。)この本で最初に書いていることはなんだか、ご存じだろうか。
「趣意説明の原則」である。授業中は、指示の意味、趣旨をしっかり説明しないといけない、という話だ。たとえば、ゴミを拾いなさいと言うのではなく、「教室をきれいにしたいから、ゴミを拾おう」と呼びかける。
この話は授業中にだけ応用できる話ではない。家庭学習という、教師の影響が及びにくいところであればなおさら、先生たちは、その宿題の意味や意義を深く考察して、必要な課題に絞り、説明をしていく必要があるのではないだろうか。それが、学習への動機付けにもなる。日ごろ、「文科省や教育委員会からワケのわからん指示や仕事が来て、頭に来る!」と愚痴っている先生が、自分が出す宿題については、「しっかりやっておくように」としか言っていないとすれば、どういうことか?
また、宿題をわたしたきりではなく、やった状況を郵送、あるいは学校の下駄箱入れなどに持ってきてもらって、ちょっとしたコメントを書いて、返している学校もある。3月、4月、5月と、この2ヶ月半の間で、一往復でも二往復でも、学校と子どもたちがもっとつながっていれば、おそらく、約半数の保護者の信頼が下がったという結果にはなっていない、と思う。
■問題2:きめ細かなケアが難しい家庭もあることを想定していない(ように見える)。
怒っている保護者もいるのは、学校側が、働いている保護者等にとっては、「むちゃぶり」とも思える宿題の出し方をしているケースもあるからだ。
家庭学習に向けて細かく時間割を指定している例などがそのひとつだろう。わたしの調査によると、公立小の場合、約3割の保護者が毎日の時間割が配布されることがあった、と回答している。(次の図)。図は割愛するが公立中は14%、国立・私立の小中は39%(オンライン授業があるためかもしれない)。たとえば、「朝9:00~9:45は国語のここの音読をやって、おうちに人に聞いてもらいましょう」となっていても、その時間、仕事や下の子の育児などをしている保護者も多い。
おそらくだが、学校としても、時間割は例示であり、「この通りに絶対やれ」というつもりはないのだろう。だが、説明不足なので、真面目な保護者ほど、プレッシャーに感じるだろうし、「なんで学校はわたしの大変さをわかってくれていなんだ」と不信感を募らせることになる。
休校中なのに「ランドセルに必要なものは入れましょう」、「トイレや水飲みは休憩時間(時間割で指定されている)に行きましょう」などという心得が配れているケースまであるという。ここまで管理主義的な例はごく稀かもしれないが、家庭空間なのに、学校が遠慮なく踏み込んでくる印象を受けている保護者もいるかもしれない。そのわりには、あれやれ、これやればかりで、フォローはない。だから不信が高まるのだろう。
次のデータは、4月または5月における学校からの宿題のおおよその量についてだ。子どものペースで1日どのくらいの時間がかかる分量かを聞いた(土日は除く)。
保護者の見立てなので、どこまで正確な数字かは不確かな部分はあろう。だが、4月と5月で比べると、公立小学校では、どの学年層も、5月のほうが分量が増えている傾向が強い。小1~2年生なのに1日2時間以上かかりそうな宿題があると答えた保護者も、約1/4に上る。今月中休校が続く学校では、また増えそうという声も聞く。
おそらく、これが保護者ならびに子どもたちのストレスと、学校への不満を高めている可能性がある。小学生なら、自学自習だけではしんどい子も多い。机に向かってというだけでも一苦労だ。そんななか、前回の記事で書いたとおり、保護者はできることをかなりしている。
それで、学校、あるいは教育委員会としては、「勉強の遅れが心配」という保護者の声もあるし、よかれと思って、宿題を多めに出したのかもしれないが、受け取った保護者から見れば、「もっと保護者が面倒見てあげてくださいね」と映るわけだ。「わたしだって忙しいのに、あるいは、親が先生の代わりはなかなか務まらないのに、もっとやれと言うの?」という感触になるのである。
「家庭学習を保護者に丸投げじゃないか」という保護者の声が多いのは、こうした理由がある、とわたしは見ている。
■問題3:宿題の質の問題と、その子に合っていない問題。
3番目の問題は、宿題の質についてだ。自由記入欄から保護者の声を拾おう。
こういう例ばかりではないかもしれないが、学習効果が薄い、あるいは子どもたちにとっては学習意欲がそがれる宿題が出ているとすれば、それは保護者の信頼を下げるし、何より子どもたちのためになっていない。
なにも、この問題は、今般の新型コロナの影響で新たに発生した問題ではない。千代田区立麹町中学校で宿題を全廃したことが昨年大きな話題になったことを思い出そう。もともと、さまざまな習熟度や個性のある子たちなのに、同じ学年・学級だからといって一律の宿題で本当によいのかどうかは、コロナ前から問われてきた課題だった。
今回、休校が2ヶ月、3ヶ月と長引くなかで、余計、宿題の質で問題のある例や、その子に応じた学習になっていない部分が目に付きやすくなってきたわけだ。
もっと言えば、学習者主体、学習者本位の教育になっていないことが、より明るみに出てきた、と思う(コロナ前からのこの問題については、参考文献の拙著でも解説している)。
たとえば、宿題をドバッとわたす前に、あるいは細かい時間割表を作る時間があるならば、先生たちは、子ども(または小学生らの場合は保護者を交えて)面談ができればよかった、と思う。前年度からの引き継ぎ情報も踏まえつつ、児童生徒の意見も聞きつつ、個々の先生から「○○くんは、ここが得意だから、こんなテーマで休校中も、探究学習をしてみたら?このプリントは基礎だから自信ないところだけでいいよ。で、この教科はちょと苦手だったから、このドリルはやっておいたほうがいいんじゃないかな」などとアドバイスがあれば、子どもの学習意欲もちがってきただろうし、保護者の信頼も高まったことだろう。
ソーシャル・ディスタンスは確保したうえで、短時間の面談だけでも今からでも考えた方がよいと思うし、Web会議でできるところはそうしたほうがよいと思う。子どもや学校の状況によるので、一概に言える話ではないと思うが、プリント学習主体で新しい教科書を先に進めようとばかりするよりは、そっちほうが有益ではないだろうか。
わたしのこうした見立てが正しいとは限らない、と思っている。個々の学校の実情や子どもたちによって変わってくると思う。だが、いや、だからこそ、先生たちには、考える時間を大切にしてほしい。宿題を出すなら、どんな内容の宿題が子どもたちの好奇心を高めるだろうか、その子に応じた学習になるにはどんな工夫や働きかけができるだろうか、などということに、もっとアタマを使ってほしい、と思う。「いや、わたしは、うちの学校はちゃんとやっているよ」という例があれば、どんどんシェアしてほしい。
わたしはずっと、学校の働き方改革や教職員の人材育成を推進する仕事をしてきたし、今後もそのつもりだ。宿題を出すことで、先生たちが疲れ果てたり、貴重な時間を使い切ったりすることをオススメしたいわけでは、全くないし、手作りのオリジナル教材にこだわれなどと言いたいわけでも全くない。また、休校中で、やりたくても、さまざまな制約もあることだろう。だが、授業も給食指導もないのだし、考える時間や校内(あるいは自治体のなかで)話し合う時間は、ある程度は生み出せると思う。
釈迦に説法だが、宿題を出すことが目的化してはいけない。「宿題ひとつとってもよく練られているな」とか「自由度があって、子どものことをよく考えてくださっている」と保護者が思えるものになれば、保護者の信頼や協力は違ってくるだろうと思う。そして、何より子どもたちの主体的な学びも進みやすくなる。
今回の一連の記事は、教師バッシングのために書いたのではない。振り返りにしてほしくて、書いたものだし、学校再開後も問題となりうることを多く含んでいる、と考えている。
(参考文献)
露口健司(2012)『学校組織の信頼』大学教育出版
妹尾昌俊(2020)『教師崩壊』PHP新書
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