【休校中、広がる地域間格差】教育委員会、校長はどっちを向いて仕事しているのか?
休校(臨時休業)が全国的に広がりそうだ。昨日、政府は緊急事態宣言を全国に拡大した。休校の判断は、感染状況など、地域ごとの実情に応じて、各自治体で判断することに変わりはない(文科省のコメント、産経新聞2020年4月16日)が、おそらく休校は広がるだろう。ちなみに、都市部を中心に一つ前の緊急事態宣言下にあった学校のほとんどは、開いていない(文科省調査、図は教育新聞2020年4月13日)。
ゴールデンウィーク(GW)明けまでは休校というところが多いようだが、GW明けまでに新型コロナウイルスが落ち着くとは限らない(むしろ長期化する可能性を指摘する専門家も少なくない)。地域にもよるが、GW後に1日か数日の登校日を設けて、すぐまた再休校となる可能性も高いと思う。いま、かなりの教育委員会や学校、私立の学校法人等は、1学期(ないし2学期も)が吹き飛ぶかもしれないことも想定しつつ、苦悩していることと思う。
こういうとき、多くの先生たちも、子どもたちの学びをどうするか、苦心している。子どもたちの様子を見たい、家庭の通信環境等にもよるが、授業動画を届けたいといった声は多い。
■学校は陸の孤島
だが、家庭事情(児童生徒が使えるパソコンやスマホがない、ネット回線がない、容量が小さいなど)に加えて、教育委員会や学校法人側が壁になっていることも多い。次の話は実際に小学校や中学校の先生から聞いた話だ。(高校は、生徒がスマホをもっているケースも多いので、かなり話はちがってくる場合もあるし、同じような問題がある地域もある。)
家庭環境だけの問題ではなく、学校が、教職員がネットから遮断されている、”陸の孤島”なのである。個々の教師の献身性や頑張りにだけ、期待してもいけない。しかるべき環境と予算を付ける必要がある。
■同じ義務教育のなかでも広がる地域間格差
こういう地域もある一方で、熊本市では、タブレットのない家庭には貸し出しを行い、朝の会(健康確認)や授業をウェブで行うとともに、地元テレビ局と組んでテレビでの授業配信も始めようとしている(熊本県民テレビのニュース)。千葉県柏市でも、授業動画をネット配信している(NHKニュース)。
正直、教員のなかには、「熊本市や柏市がうらやましい」という声もある。当の子どもたち、あるいは保護者のなかにも、同じ感想をもつ人も多いだろう。義務教育は、全国どこで受けても一定の質(水準)は保証する、とは文科省もずっと言ってきたことだが、静かに、確実に、地域間格差が広がっている。それは、ひいては子どもたちの学力格差とその再生産(次の世代への継承)につながりかねない危険性をもっている。
これは、コロナ前からあった差が目に見えて出てきている(可視化されやすくなってきている)ということでもある。
■子どもたちのためにも、「あーだこーだ」言ってられない
こうしたなか、最近(4月15日)広島県の教育長の平川理恵さんがFacebookにこう書き込んだことが反響を呼んでいる。
平川さんのことは、校長だった頃からよく知っているが、それが生徒のためになるかということを突き詰めて考えていて、かつ、行動力のある方である。(関心のある方には、平川さんの本『クリエイティブな校長になろう』をオススメするし、拙著のいくつかでも紹介している。)
■教育委員会や校長はどこを向いて仕事をしているか?
広島県や熊本市などによくあらわれているが、教育長がどこを向いて仕事をしているかで、休校中の対応はかなりちがっているように思う。もちろん、財源の問題などもあるが、Lineにせよ、Google、Zoom等にせよ、無料で使えるものも多いなか、お金のせいだけにはできない(特に学校向けには無料サービスをしているところも多い)。きちんとデータなどで検証できている話ではないので、少々勝手な印象論となってしまうが。
上のほう(国がどう言うかなど)ばかり見ていたり(※)、横のほう(他の自治体はどう判断するか)ばかりを気にしているようでは、気づいた頃には対応が遅いということはよくある。児童生徒のほうを見た仕事になっているかどうかだ。校長にも同じことが言えると思う。とりわけ、家庭環境が厳しいところは、休校中に家庭任せばかりでは、どんどんしんどくなるし、学校が再開したとしても、言わば周回遅れをどう取り戻すか、子どもたちは苦労することになろう。
(※)地方分権のなか、本当は、国が上などというわけでは決してないが。
もちろん、教育委員会などの多くも、この危機的な状況のなか、日々奮闘してくれている。わたしは、教育委員会職員の過労もすごく心配している。が、上記のとおり、オンライン授業はおろか、もっと手前のところで、多くの学校は壁にぶつかっていて、教育委員会等はそれを取り除こうとしていない(あるいはもっと壁を高くしているところもある)。
なお、教育委員会が無料ですぐできる対応は、Googleなどの公式IDを教職員にも児童生徒にも付与して、児童生徒と学校をつなげることだ、と識者の豊福晋平さんは提案している。下記の記事などを参照いただきたい。
■なぜ、教育委員会の対応は鈍いのか?
上記のとおり、地域間で差があるので一概には言えないが、うまく進んでいない要因は、少なくとも3点ある。
理由(1)トラブルがあったときに怖いし、教職員を信頼していない
YouTubeすら許可していないのは、セキュティ上何かトラブルがあっては怖い、ややこしいという気持ちと裏表であるように思う。実際、教職員の情報漏洩などの不祥事が相次いだ地域などでは、その都度、厳しく制限していって現在にいたっている。少し前に、浜松市で教員のスマホを原則禁止(教室等では使わない、お預け)というのが話題になった。これも、わいせつ事件のあと、厳しくなったことである。
要するに、教職員を信頼していない自治体では、教職員の自由度は低いのである。地域間格差は、信頼格差でもあるのかもしれない。
もちろん、セキュティ対策は大事だし、zoomなどは脆弱性が指摘されているところではあるが、企業側も日々アップデートして対応もしている。どのサービスを使っても、完全に安全なんて言えない。交通事故が怖いからといって、田舎の自治体で自動車通勤を禁止するという動きはない。メリットとリスクを考えて判断していく話である。
※ただし、授業動画の配信などの場合、教員の肖像権をどうするかや著作権の問題も残っている。なお、著作権のほうは文化庁が動いて、利用しやすくなるようだ。
ちなみに、ISEN(教育ネットワーク情報セキュリティ推進委員会)の調査によると、学校・教育機関の個人情報漏洩事件は198件(平成30年度)。うち、書類やUSBメモリ、パソコンなどの「紛失・置き忘れ」が最も多く61.6%、「誤配布」が二番目に多く10.1%であり、約7割はヒューマンエラーであり、ウェブ(クラウド)サービスの脆弱性やトラブルのせいではない。不正アクセスは8.1%、ワーム・ウィルス感染は0.5%に過ぎない。
教育委員会等でいろいろ制限してきたからこうなっている、とも解釈できるが、一方で、紙やUSBでの職場外の持ち出しを認めておいて(あるいは黙認しておいて)、ウェブサービスには厳しい制限をかけまくるというのは、バランス感覚がおかしいのではないか?
理由(2)すべての児童生徒に平等にできない
自宅にネット環境やPCがある家庭とそうでない家庭があるので、という理由。これはもっともだし、重要な問題だ。
だが、こういう理由を述べている教育委員会も、「児童生徒のネット環境や保護者のスマホを使わせてもらうことの賛否などを調査をしているか?」と言われると、していないところもある。また、通信環境がない家庭に対しては、学校のPCルームや図書館、市役所などのネット利用を許可してもいいんじゃないか、とも思うのだが(時間帯に応じて人数制限をかけて、3密は避けられる工夫をして)、そういう動きにはまずなっていない。
できない理由ばかり述べているだけで、できるようにするにはどうするか、アタマを使っていない。
また、「平等にはいかない」とばかり言っていて、なにも行動しないのでは、どの子たちにも、ゼロのままである。ある教員はこういうメッセージをくれた。
繰り返すが、わたしは、ネット環境などのない家庭を放っておいてよい、と言っているのではない。むしろ逆で、そういう家庭の子たちをケアをする時間を教職員らに持たせるためにも、ネットで済む家庭にはネットでやれ、と言っているのだ。
理由(3)そもそもネットやICTについてよく分かんない
とりわけ、小規模な教育委員会等では、専門性のある職員も少ないので、どういうものが使えるのか知らないし、セキュティ対策としてどうしていけばよいのか、わからない。で、怖いから、使わないし、使わせない。
「このコロナでどこも大変なときに理想論ばかり言うな」と批判されるとは思うが、こういうときだからこそ、国や大きな市は、そういう困っている市町村を助けてほしい(ICT支援員を派遣するなど。Web会議で済むといいけど、そういうのができない教委等を想定すると・・・)。また、教育委員会等の側も、周りに詳しい方が研究機関や民間等にも、あるいは保護者のなかにもいるので、聞いてほしいと思う。
上記3つの理由は、それなりに反駁できる理由である。つまり、できない言い訳にはならない。子どもたちのために、できるようになるには、どうしたらよいか、考えて行動していきたい。
※なお、わたしは、前の記事などで書いたとおり、授業動画を各学校でどんどんアップしていくことが優先度の高いこととは考えていない。まずは、子どもたちとのつながりをキープして励ましたり、SOSをキャッチしやすくしたりすることが優先だ。
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