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「宿題わたして、あとはよろしく」 休校中の学校に高まる保護者の不満、悲鳴 【休校中の宿題問題(1)】

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
休校中の宿題、イヤイヤやっている子が約半数に上る(写真:アフロ)

「パパ~、ちょっと、この答え、教えて~」

 ちょうどこの原稿を書こうかというとき、小6の次女に呼び止められた。うちは今月中も休校(臨時休業)が続いていて、学校から宿題が出されている。次女にとっては習っていない新しい教科書を見ながら、問題に答えていくのだが、教科書を読むのは「めんどくさい」とのこと。首相官邸のウェブサイトに載っている三権分立の図がまちがっているんじゃないかと最近話題だが(ハフポスト記事など)、この図(もちろん、教科書に載っているほう)に関する問題もあった。大人でもけっこう難しい。

 「けんぽうってなに?」

 次女からの質問だ。ん~、なんとも本質的な問いで、かんたんに答えるのは難しい。学校の先生は、毎日こういう子どもたちの疑問や学習に寄り添っていると思うと、すごいなあと思う。しかも、さまざまな特性や個性をもった子たちを1クラス30人も40人も抱えて。

 やはり餅は餅屋。なかなか、保護者が先生の代わりは、つとまらない。 

 だが、いま、これが揺れている

 地域によっては、休校が長引くなか、大量の家庭学習の面倒をみてあげてください、と学校から言われて、悲鳴を上げている保護者が多いのだ。「学校は閉めて、勉強は家庭に丸投げか!?」、そんな声も多数わたしのもとには寄せられている。

(写真素材:photo AC)
(写真素材:photo AC)

■小中学生の保護者向けに独自調査、約半数の小中学生は、イヤイヤ宿題をしている

 そこで、わたしは数日前から保護者向けにアンケート調査を実施している。概略は次のとおり。

  • 対象は、小学生、中学生の子をもつ保護者。
  • わたしのSNSを通じて呼びかけたので、無作為抽出ではないぶん、回答者に一定のバイアスがかかっている可能性もある。たとえば、もともとこのテーマに問題意識の高い人が回答する傾向が強い可能性がある。
  • 今年5月10日~12日に実施。Googleフォーム上に回答してもらうかたち。
  • 551の回答を現時点では集計。 

 宿題の量、難易度、保護者がやっていることなど、質問は多岐におよぶが、この記事では、一部を速報として共有しよう。

 次のグラフは、「4月または5月の休校中に、お子さんは、学校からの課題・宿題にどのように取り組みましたか」という質問への回答結果。教科によってもちがってくるが、国語、算数(数学)をイメージして回答してもらった。

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出所)妹尾昌俊「休校中の家庭学習について、保護者向けアンケート調査」(以下、特に断りがない限り同様)

 公立学校の小学生、中学生については、「イヤイヤ(しかたなく)取り組んでいた」という回答が半分近くを占める。学年が上がるにつれて、「意欲的に取り組んでいた」は減少し(ただし小3・4と小5・6の間は大差なし)、「答えを丸写しするときもあった」は少し増えている。

 この結果、安心してもいけないのかもしれないが、「ちょっとほっとした」保護者もいるかと思う。うちの次男、次女(公立小3、小6)は「イヤイヤ」やっているほうだが、よその家庭でも似た感じのところが多いようだ。

■プリントを渡したきり? 先生からのフォローアップがすごく少ない

 次の表は、「休校中に、課題・宿題に関連して、学校(担任の先生ら)から何か働きかけはありましたか」について(複数回答可)。

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 公立の小学校や中学校について見てみると、「いずれも、とくにはなかった(課題を渡したあと、放置に近かった)」という回答が4~5割もある。「プリントを渡して、あとはよろしく」系だ。担任の先生らから支援があっても、それは電話という昔ながらのアナログが多い(3~4割の公立小中)。Web会議や双方向性のあるオンライン授業は、2%にも満たず、非常に低調であることがわかる。

 アナログが悪いと言っているのではない。(わたしの別の記事「アナログな学び、つながりも楽しもう」も参照。)しかし、電話だけでは自ずと、やれることは非常に限られる。電話回線が2本や3本しかない学校も多いのに、40人クラスの全員に電話をしていたら、それだけで日が暮れるし、パンクする。

 電話口で、子どもたち一人ひとりには「元気か?変わりない?」くらいの関わりしかできていないのかもしれない。新しい学校、新学期に入って担任の先生とも1回しか会っていないというケースもあるのに、「元気か?」と言われたら、「まあ、そうです」くらいしか言えない子も多いだろう。この表の結果について、教職員の方は、危機感を感じたほうがよいと思う。

 つまり、家庭学習を出すのは出すが、フォローアップやフィードバックが非常に弱いのだ。冒頭の我が家の一例をもって、他のところへ一般化するつもりはないが、これでは、授業ができないで未学習の単元などについては、かなり自学自習だけでは厳しい子も多いだろうし、支援する保護者の負担も重くなっていることが予想される。

 イヤイヤ宿題をやっている子が多いという結果とも照らし合わせて、考えたい。たとえば、先生からもう少し励ましがあったり(オンライン上でもいいし、ネット以外でもいい)、友達など他の子たちの様子もわかったりすれば、もう少しやる気になる子も多いのではないか。

(写真素材:photo AC)
(写真素材:photo AC)

 そして、公立と国立・私立では、かなり大きな開きがある。私立などでは、家庭でのパソコンやネット環境が公立よりも整いやすいケースもあるだろうから、単純に比較するのはフェアではないとはいえ、大きな開きである。

■保護者はなにを求めているのか?

 次の結果は、保護者から見た、支援ニーズだ(複数回答可)。公立、国立・私立問わず、「オンラインでの交流、双方向性のある授業などで、子どもの様子を確認などしてほしい」が最も多く、約半数。仮に学校が再開できたとしても、新型コロナの影響で、いつまた休校になるかも知れない。オンライン、ウェブの活用は早急に進めていくべきだし、家庭に学習・通信環境などがない場合は、別の丁寧なフォローアップを図っていくべきだろう(たとえば、学校や公立図書館の一部を開放して自習に使用できるようにするなど)。

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 公立小では「分散登校日などを設けて、子どもの様子を確認などしてほしい」という声も次いで多くて、約3割の保護者がそう感じている。地域の感染状況などにもよる話ではあるが、短時間でも分散登校をして、週1回でもいいから、子どもたち同士が交流したり、宿題の状況について、先生からちょっとした励ましがあったりすると、いいだろう、とわたしも思う。

 授業を進めてほしいというニーズもあるだろうが、もっと手前のニーズのほうが大きいと思われる。それは、子どもと教師、あるいは子ども同士の「つながり」をつくることだ。

■お母さんたちから相次ぐ、悲鳴の声

 自由記入欄に寄せられた、保護者の声も紹介しておきたい。

 「自主学習ノートが配られ、毎日2ページずつの宿題がでた。自分の興味のある事を毎日取り組めたのでよかった。」

 「父親の立場として、今回いっしょに過ごせる時間は遅れてきた育児休暇のように感じ、テレワークが許可された自分にとっては有意義だった。」

といったポジティブなものもあったが、悲鳴や学校への不満も多く寄せられた。以下、ほんの一部だが、紹介する。

一年生で、学習の習慣も基本的な学習姿勢も身についていない状態の子どもを、上の子も見ながら在宅勤務の片手間や出勤して帰宅してからの短時間でサポートするのは、本当に無理があった

学習内容よりも、まずは机に向かうことが楽しくなるように、と思ってはいたが、プリント学習の内容は単調だし、面白くもなんともない…学校への期待を膨らませることができていないので心苦しい。

(公立小学校1~2年生の母親)

学校は課題だけ渡してほったらかしでした

塾はオンライン授業があったり、先生から電話があったりと手厚かった。本当に学校とは何なんだろうと思いました。

(公立小学校5~6年生の母親)

授業がないのに課題だけ沢山出されて、学校からの電話もなし。教員は無責任だと感じた

(公立中学校1~3年生の母親)

 このように、学校に非常に厳しい視線が突きつけられている。

 

宿題をさせきれずたまっていく一方で、どんどん課題が追加されて途方にくれることもあった。自分で計画的に取り組める子には良いかもしれないが、それが難しい子には家庭の負担が大きすぎ親子関係が悪くなっていった。

そして突然課題を回収する旨のメールが届き慌てて全部させるといった感じであった。

オンラインで授業や課題を毎日提出させるなど先生がもっと踏み込んで関わって欲しかったと思う。全部保護者や子どもに丸投げな印象であった。

(公立小学校5~6年生の母親)

これまで宿題については子どもに任せきりだったが、休校となって初めて親も真剣に子どもの勉強に向き合った。

すると、宿題の質が悪く量が多いことに気づき、宿題に取り組むことに意味があるのか疑問に思った。やる必要のなさそうなものも、提出ノルマがあるので仕方なくやらせたが…。

今後、学校だけに任せていて大丈夫なのか、考え直すきっかけになり、通信教育の教材を新たに始めた。

(公立小学校1~2年生の母親)

図工の作品づくり、音楽の鍵盤ハーモニカ練習、理科のホウセンカ種まき&観察、社会の家の周りにある建物を調べて書くなど、子どもが一人で取り組むのは難しいと思われるものが多く出ていた。

私(母)自身が教員でかつ在宅勤務中心の働き方なので対応できたが、保護者が忙しい家庭、子ども自身が学習内容に難しさを感じる場合などは、かなりきつい課題だと思う。「無理にすべてやらなくても良い」とはされていたが、では学校再開後課題をある程度きちんとやれた子と取り組めなかった子の差をどのようにするのか。

(公立小学校3~4年生の母親)

親が仕事に出かけている間は、全く家庭学習をしないため、帰宅後・休日に家庭学習を見ることになり、親の負担が大きかった。何度も怒鳴って家庭学習をやらせたため、親子の関係が悪化した。

(公立小学校3~4年生の母親)

 関連して、最近Twitterでも紹介されているのは、事細かな時間割まで学校が指定して、子どもたちの学習を進めてください、というものだ。次の表はある小学校のウェブページで、1年生向けにアップされているものを抜粋した(学校を特定したくないので、出所はあえて明記しない)。

※この学校や担任の先生個人を責めたいわけではない。たまたま見つけた例だ。

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 たんなる例示かもしれないのだが、保護者のなかには、「こんな計画的に勉強できる子ばっかりじゃない(勉強できるなら苦労しない)」、「共働きの家庭や未就学児の面倒などもあって、勉強を(見たくても)見られない保護者もいるのに、学校は配慮がなさ過ぎる」といった声も上がっている。

 わたしは、この原稿を学校を責めたい気持ちばかりで書いたのではない。冒頭でも申し上げたとおり、子どもへの教育やケアというのは、非常にナイーブだったり、本質的な部分を問い直したりすることも含んでおり、先生たちの日ごろの努力、尽力にはとても感謝しているし、リスペクトしている。だが・・・、だからこそ、家庭学習はよけい、難易度が高いのに、休校中の対応はあまりにもお粗末、という学校も少なくない。その事実が今回の調査等からも判明した。

●新型コロナの影響で、学校ができることには限界がある。

●自治体や学校の予算も乏しい。

●教育委員会の頭がカタくて、オンラインサービスの利用を許可してくれない。

●宿題は少なすぎるというクレームも来るし、出したら出したで多すぎる、細かすぎるというクレームも来る。

などなど、いろいろな事情も多々あることは知っている。

 とはいえ、いまは3月のときのように急に決まった休校ではないのである。宿題を出すといっても、出すことが目的化してはいけない。量と質、また出す前と出した後の対応など、入念に検討したいことはたくさんある。

 先生たちにはさまざまな家庭や子どもたちへの配慮と想像力がもう少し必要で、フォローアップできる部分も方法も、もう少しあるのではないだろうか。

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https://news.yahoo.co.jp/byline/senoomasatoshi/

教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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