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『笑うマトリョーシカ』櫻井翔、2番手“静の芝居”で残したインパクト ストーリーには既視感?

武井保之ライター, 編集者
『笑うマトリョーシカ』(TBS金曜ドラマ)公式サイトより

週明けから7月を迎えるなか、さっそく夏ドラマ『笑うマトリョーシカ』(TBS系金曜ドラマ)第1話が放送された。

水川あさみ演じる主人公・道上香苗(新聞記者)は、若き政治家・清家一郎(櫻井翔)の政務秘書官・鈴木俊哉(玉山鉄二)が関係していたと思われる過去の汚職事件を追っていた敏腕新聞記者の父・道上兼髙(渡辺いっけい)の突然の事故死を不審に思い、その秘密に迫ろうとする。

道上香苗は、清家一郎が鈴木俊哉と高校時代に親しく、また、鈴木俊哉の父は清家一郎の父が関係していた汚職事件で逮捕され、命を断っていたことを突き止める。父・兼髙の死は、汚職事件を闇に葬りたい鈴木俊哉によって仕組まれたものであることを疑う。

一方、鈴木俊哉は洗練潔白で人当たりは良いが主体性のない清家一郎を高校時代から操り、父の死の復讐を企てているのではないかと道上香苗は疑い、権力のトップに上り詰めようとする若き政治家と有能な秘書官の奇妙な関係性に切り込もうとする。

物語のベースになるのは、主人公・香苗の父の事故死と、鈴木俊哉の父の過去の汚職事件にまつわる死。香苗は、清家一郎の栄光の裏で起きた数々の不審死に光を当てていく。

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父の死をめぐるサスペンス『Destiny』との既視感

過去の父の死をめぐるストーリーとして記憶に新しいのは、春ドラマ『Destiny』(テレビ朝日系)だろう。石原さとみ演じた若手検事が、12年前の汚職事件で自死した検事である父(佐々木蔵之介)と、大学時代の恋人・亀梨和也の父であり弁護士だった風間トオルとの因縁と謎に迫っていく物語だった。

その過程では、石原の父の死の秘密を知ったクライスメート・田中みな実が、亀梨とのドライブ中に事故死する。法曹界を舞台にした若手検事による父の死の謎を追い求めていくドロドロのサスペンス・ラブストーリーだった。

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『笑うマトリョーシカ』は、過去の汚職事件で責任を背負わされ自死した父の息子である鈴木俊哉をめぐり、事故死した父の無念を晴らすため、闇に葬られた事件の真実を突き止めようとする主人公・香苗の行動が前半のメインになりそうだ。役柄の設定や立場の詳細は異なるものの、ヒューマンサスペンスという物語性の根底での共通点を多く感じる。

2作の大きな違いは、『笑うマトリョーシカ』には原作があること。主人公は原作の若手政治家から新聞記者に変えているものの、日本推理作家協会賞や山本周五郎賞など数々の受賞歴を持つ作家・早見和真が2021年に発表した同名小説が原作になり、骨太のヒューマンドラマが期待できそうだ。

笑顔の裏の深い闇をにじませた櫻井翔の芝居

そして、もうひとつ期待したいのが、今作では2番手となった櫻井翔の演技。国民の期待を一身に背負う若手政治家としての明朗快活な姿を見せていたが、香苗を誘い出し食事をともにするときや、腹の中が読めない鈴木俊哉とのやりとりのなかには、笑顔の裏に深い闇を抱えていることもにじませている。

櫻井翔といえば、『大病院占拠』『新空港占拠』(日本テレビ系)での、外連味あふれる大仰な芝居が“カロリー高い”などとも言われ、話題になっていたばかり。

しかし、本作での若き政治家・清家一郎では、それとは正反対の静となる芝居で、腹の中や正体を読ませない薄気味悪さを丁寧に演じていた。本作は、これからの展開に十分期待ができるスタートを切った。そのカギを握るのは、櫻井翔になりそうだ。

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ライター, 編集者

音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスの編集者、ライターとして活動中。映画、テレビ、音楽、お笑い、エンタメビジネスを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを取材、分析、執筆する。takeiy@ymail.ne.jp

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