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わかりきっていた結果、教員採用試験合格者の半数以上が辞退

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:イメージマート)

 NHKの「鳥取NEWS WEB」(2024年6月28日付)は「鳥取県が去年実施した教員採用試験で、合格した人の半数以上が採用を辞退していたことが分かりました」と伝えている。しかし、わかりきった結果だった。

|採用予定者数を大幅に上まわる合格者数

 鳥取県が昨年(2023年)実施した公立の小中高校・特別支援学校の教員採用試験(教採)で、今年(2024年)の採用予定者数は270人だった。これに1378人が応募し、327人が合格している。教員不足が大きな話題になっているときに、合格者全員が鳥取県内の学校に赴任していれば、教員過剰となるところだった。

 しかし実際に教育委員会が採用できたのは、補欠合格者を含めて161人でしかなかった。あとから不適格とされたのではなく、半数以上の174人が採用を辞退したからである。採用予定が270人のところ161人しか採用できなかったのだから、教員不足に拍車がかかることは目に見えている。

 大量の辞退者がでたのは、教採の試験日を早めたことに大きな原因がある。

 従来は7月に行われていた教採の実施を文科省は、2024年実施の試験開始日を6月16日に前倒しすることを求め、さらに2025年実施については5月11日を目安にするよう求めている。前倒しすることが教員確保につながると考えているからだ。それが無意味であることは6月18日付の記事で筆者は指摘している。https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/0f48df7c87acddbac562280df787296186b5a88f

 昨年、鳥取県の教採試験開始日は、6月11日だった。文科省に先駆けて教採の前倒しを実施したのだ。これは、全国的にも早い日程だった。

 日程が早ければ、鳥取県を受験して、さらに他県の教採を受験することが可能になる。実際、ダブル受験が多く、そして地元の教採に合格したら鳥取県は辞退するケースが多かったようだ。NHKも鳥取県教育委員会が「特に県外からの応募者の辞退が多い」と説明していると伝えている。

|教訓に学ばなかった当然の結果

 こういう事態が起きることは、じつは、わかりきっていた。2023年3月に高知県の教育長が街頭に立って教員確保を呼びかけたことが話題になった。2022年実施(2023年採用)の教採を、高知県はどこよりも早い試験開始日で実施していた。その結果、競争倍率は8倍を超えた。にもかかわらず、実際の採用は採用予定を下まわったのだ。

 当時、その理由を筆者が高知県教育委員会に訊ねたところ、「辞退者が多かった」との返事が戻ってきた。試験日が早かったために、高知県と地元の教採を掛け持ちし、両方に合格したら地元を選ぶ受験者が多かったのだ。そのため競争倍率は高かったにもかかわらず、教育長が街頭で懇願しなければならない事態となった。

 鳥取県の場合も、高知県と同じである。高知県の例を学んでいれば、結果はわかりきっていたことだった。それにもかかわらず同じことを繰り返しているのは、何も学んでいないと言わざるをえない。

 抜本的な教員の働き方改革に手をつけず、教採を前倒しするだけで教員確保ができるという考えは、幻想でしかない。そこに労力を使うだけムダになる。それは、文科省にも言えることだ。 

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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