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大騒動となった都知事選での三浦春馬さんポスター事件。いったいどういう経緯だったのか

篠田博之月刊『創』編集長
「春活channel」が紹介した春馬さんポスター(筆者撮影)

 いやはや、とんでもない大騒動になってしまった。東京都知事選の掲示板に三浦春馬さんの似顔絵ポスターが貼られた一件が、6月28日、アミューズが正式に抗議したこともあって、NHKを始め、全国ニュースになってしまった。もちろん騒動を受けて、ポスター撤去は決まったのだが、ウェブサイト「ニュースポストセブン」によると、6月28日、まだ掲示はされたままだと書かれているから、当事者たちもバタバタと対応に追われたのだろう。

 そもそも一連の選挙ポスター騒動は、この春馬さんのケースだけでなく、女性の全裸に近いポスターとか、既に大きな社会問題になっている。その騒動の中に春馬さんの問題が含まれたわけで、春友さんたちは大きなショックを受けているのではないだろうか。

 春馬さんポスターを作った男性はYouTube配信「春活channel」運営者だが、ネットでは「春活って何だ?」という書き込みもある。この4年間、春馬さんをめぐる動きを知らなかった人にまで今回の騒動は広がっているわけだ。ちなみにその「春活channel」は2022年から配信を行っているYouTubeチャンネルらしい。

https://www.youtube.com/@harukatsuchannel

 月刊『創』(つくる)では2020年から春馬さん特集を掲載し、このヤフーニュースを始め、春友さんたちの思いや活動を紹介してきたが、春馬さん関連ではたくさんのいろいろなグループがあり、「春活channel」とはこれまで接触がなかった。

発端は「ポスター掲示場ジャック」だった

 さて一連の経緯を整理しよう。

 発端は、NHK党の立花孝志さんが始めた「ポスター掲示場をジャックせよ。」という呼びかけだった。1口25000円以上寄付すれば、都知事選の掲示板に自分で作ったポスターを24枚貼ることができます、と呼び掛けて寄付を集めたのだった。24枠は同党が確保したもので、それを公開販売したわけだ。ちなみに「春活channel」運営者は、その値段より安く話がついたと言っているようで、実際は提示価格より安く提供されていたようだ。

 今回、春馬さんポスターを作った男性はそれに応募して、渋谷周辺の3箇所、計60枚のスペースを購入。そこに春馬さんの似顔絵と「世界は三浦春馬であふれてる。」というコピーを入れたポスターを掲示した。3箇所のうち1箇所は、春馬さんの所属事務所であるアミューズに近いということで選んだ、と本人がYouTube配信で語っている。

 どういう意図でどんなポスターを掲示したかについては、6月22日深夜に配信された「春活channel」で運営者本人が語っている。6月23日のアミューズの株主総会にぶつけたかったようで、間に合って良かったとも言っている。

 3箇所60枚だから限られたものだったが、他のポスターが物議をかもしてニュースになり始めていたから当然それも話題になった。それを見た春友さんたちが心配してSNSにあげたり、アミューズに情報提供するといったことがあったらしい。

アミューズ法務部が強い抗議

 そしてアミューズもこれは由々しき問題と考えたようで、6月28日、「株式会社アミューズ法務部」としてXに強い抗議文をアップした。

https://twitter.com/AmuseLegal

「アミューズ法務部」の抗議声明(筆者撮影)
「アミューズ法務部」の抗議声明(筆者撮影)

 長くなるが全文引用しよう。

《東京都知事選挙の掲示板に当社所属アーティストである三浦春馬の氏名と肖像(似顔絵)が使用された選挙ポスターが掲示されていますが、そのような利用については一切許諾しておらず、当社は東京都選挙管理委員会に対し抗議しております。このような事態に当社は強い憤りを覚えており、またご遺族も大変心を痛めております。

 当社が行った抗議の趣旨としては、昨今、世間を騒がせている「候補者以外の人物の写真を 使用したポスター掲示」で論議されている選挙制度や公職選挙法の問題ではなく、三浦春馬の氏名と肖像(似顔絵)が無許諾で、しかも(後述のとおり)商業目的で選挙ポスターに使用されているという、パブリシティ権の侵害についてです。

 このような行為は、三浦春馬がアーティスト活動を通して培った名声や魅力の無断冒用及び権利侵害であり、当社は、三浦春馬の氏名と肖像(似顔絵)を無断冒用した選挙ポスターを掲示した者がただちにそれらを撤去することを求めます。

 また、三浦春馬の氏名と肖像(似顔絵)が無断冒用された選挙ポスターにはQRコードが付されており、最終的には動画共有サイトの有料メンバーシップの紹介等の商業目的に使われていると見受けられました。皆様におかれましては、今回の選挙ポスターによる収益活動に利用されませんようご注意ください。

 今回の選挙ポスターについては、ファンの皆様からも多くの情報提供をいただいております。このような出来事にファンの皆様の心中を思いますと当社としても胸が痛みますが、皆様から頂戴しました貴重な情報やご意見はすべて拝読しており、大変感謝しております。

 いつまでも三浦春馬及び彼が出演した作品をご愛顧ください。

 当社は、本件に限らず、アーティストの権利を侵害する事案に対しては、引き続き毅然とした対応を行って参ります。 株式会社アミューズ法務部》

 春馬さんポスターはそこに掲げられたQRコードから「春活channel」に飛ぶようになっており、アミューズは商業目的の行為と判断したわけだ。

「春活channel」も相次いで動画配信

 騒動に対して当の「春活channel」は、6月25日に「大変申し訳ありませんでした。謝罪と今後の活動について」という動画を配信した。「私としては、正義感をもってポスターを作成し貼りだしたわけですが、やり方としては間違っていたんだろうなと反省しています」。

 それに対して、「謝罪するなら顔を出して謝れ」といった批判のコメントも書き込まれ、マスコミ報道とあいまって、男性のもとには多くの批判が投げられたらしい。翌日には再び動画が配信され、それは「勘違いすな!あなたたちには謝ってない!」というものだった。批判に対して反論し、活動はこれからも続けていくとしたものだった。

 今回の春馬さんポスターはもう掲示はされてないはずだが、どういうものか見たい人には、下記のウェブサイト「ニュースポストセブン」が鮮明な画像を掲載している。

https://www.news-postseven.com/archives/20240628_1974653.html/2

 また「春活channel」が最初にポスター掲示について説明した動画でも、運営者本人がスマホで写したものをアップしていた(冒頭写真)

春友さんたちにはショックだったに違いない

 今回の騒動は、春馬さんをめぐるこれまでのいろいろな経緯を知らない人にはなかなか理解できないかもしれない。春活を行っていたグループの中には、アミューズの株主総会に抗議デモを行うなどしていた人たちがおり、春馬さんが亡くなったことについても不審死として真相を明らかにせよと告発していた。そうしたグループも幾つかあり、一時期、選挙妨害容疑で逮捕された「つばさの党」黒川敦彦代表も一部関わり、今回の「春活channel」の運営者はその黒川さんらのグループとはむしろ対立していたという。

「春活channel」の動画を一通り見た印象でいうと、「方法は間違えたがやってきたことは間違っていない」という運営者の主張は、主観的にはあながち偽りではないように思う。これまで春友さんたちは、例えば各地の花火大会などでクラウドファンディングが提案されると、それに応募して春馬さん花火をあげてもらうとか、いろいろな局面で春馬さんの存在を知ってもらう、忘れられることに抗するという活動を行ってきた。その延長で、恐らく運営者は、寄付によってポスターのスペースを買い取り、春馬さんについてアピールしようと考えたのだろう。

 自身のYouTubeチャンネルに誘導を図ったというのは、アミューズ法務部の主張のように法的には微妙な面はある。ただ、NHK党の立花さんがYouTubeで説明していたが、もともと春活の中で、春友さんたちが春馬さんの写真や動画をSNSでたくさん拡散されていることも、厳密にいうと肖像権(パブリシティ権)上問題になりかねない部分はある。アミューズがそれらについて黙認しているのは、春友さんたちの純粋な想いを理解し、法律をかざして水を差すようなことは控えようという判断からだろう。

 大事な点は、活動の意図、つまりそれが善意で行われているのかどうかだろう。本当に善意によって成立している活動であれば、やみくもに法律をかざして違反だと非難すべきようなことではない。だからその行為がどういう意図でなされているかが判断のためのポイントになる。

 今回、一番の問題は、いろいろ物議をかもしている都知事選の選挙運動をめぐる騒動の中でこれがなされたことだろう。そのへんの判断が今回は問題だったのではないだろうか。

 春馬さんへの純粋な想いから活動してきた春友さんたちにとっては、今回の騒動はこれまでの活動が悪いイメージで見られかねない、本当に残念なことだったに違いない。

 「春活channel」は6月30日に改めてお詫びの動画を配信したが、そのなかで、これまで動画の中で使用してきたイラストなどについて、描き手から、今後使用を断るという要請が届いたとして削除している。また他の春友さんから「あなたは本当に春馬ファンなのか」という抗議も寄せられていると語っていた。

 最後に、この記事と同じタイミングで三浦春馬さん関連記事をもう1本、アップしているので、下記もぜひご覧いただきたい。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/03f3c3ea6bdd087c1057acad2c6c52ffed8eb385

三浦春馬さん『ツーリスト』台北篇のロケ地「倉」閉店!オーナーが語った春馬さん撮影秘話

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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